〈あべ弘士 子どもがおとなになる間〉vol.7 子どもたちのすごい質問…くわああ、やられた!

子育て世代がつながる

 旭山動物園の飼育員だったころ、園内でよく子どもたちをガイドしていました。自分が説明するより、子どもたちから出てくるいろんな質問を聞くのが楽しくてね。小学校低学年の女の子たちが一番鋭かった気がするなあ。今も印象に残っている質問もいくつもあります。

 小学4年生くらいの女の子に聞かれたのは「ライオンは自分の子どもを育てるのに、谷底に落としてはい上がってくる子どもを育てると聞いたんだけど、谷の深さは何メートルですか」。がくっ。わかんない。


<前回はこちら>vol.6 人間と動物を分けるものとは


 生まれた子どもを親が高い崖から落として、はい上がってきた子を育てるという中国の言い伝え「獅子の子落とし」。「落としてはい上がってきた子どもを育てるのはどうしてですか」だったら答えられるんだけど。予想外でした。後で調べて、とても深い谷のたとえとして使われた「千仞(せんじん)の谷」というのは古代中国の単位で、約2000メートルくらいなのだと知りました。

 「金魚は幸せなんですか?」。これは3年生の女の子の質問。「幸せ」という概念を、この子はもう持っているのか、と感心しました。「幸せなんですか」という問いは、「不幸せなのでは」という反問なのだと感じた。金魚と話してその気持ちを聞いてみたい、という彼女の気持ちに感じ入りました。

 男の子からもいい質問がありましたよ。オオヤマネコの中でも一番体の大きいシベリアオオヤマネコというヤマネコがいます。ヒョウよりちょっと小さいくらいかな。僕もあこがれの動物で、旭山でも飼いたいなあと思っていたら、あるときやって来ました。

イラスト

 子どもたちにも自慢げに紹介していたら、ある男の子が「おじさん、シベリアオオヤマネコの耳の房毛は何であるんですか」って聞いてきました。そのときの僕はとっさには答えられなくて、「あれはファッションだな」って。それはウソではなくて、動物たちにはファッションがある。ファッションが同種だというサインになる。それによって、雑種をつくらないようになっているわけです。

 僕の答えを聞いたその子はこう言いました。「風を感じるんじゃないですか」。くわああ、やられた、と思いました。風を感じる―。どんな本にも図鑑にも、けして書いていない答え。この子はすごいなあ、詩人だなあ、と思った。そして、それは科学でもあるんですよ。ヤマネコやライオンは、絶対に風上から獲物を狙わない。風上からいくと、においがばれちゃうから、風下からいく。風を知るということは、ヤマネコにとってとても重要なことなんだよね。

 そして、この男の子は、自分も遊んだり、生活したりする中で、風を感じるような体験をしているからこそ、出てきた言葉なんだろうな、と。そんな心を持ったまま成長していってほしいなあと思いました。絵本作家になった今も、僕にとって子どもたちと話すことは、いろいろな気づきを得られる機会です。(文と絵・あべ弘士)

 動物の命を描いた多くの作品を手がけている絵本作家のあべ弘士さんから、子育て中の人たちや子どもにかかわる人たちへのメッセージを月1回、お届けします。

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