〈あべ弘士 子どもがおとなになる間〉vol.9 ひらがなで伝えるということ

子育て世代がつながる

 僕が絵本作家としての第一歩を踏み出したのは、1989年に発表した『雪の上のどうぶつえん―なぞのあしあとのまき』(福音館書店・かがくのとも)という作品です。なので、今年で絵本作家デビュー30年ということになるらしい。その後、絵を描いた『あらしのよるに』(講談社・1994年/文・木村裕一)、『かぜのこもりうた』(童話屋・1994年/文・くどうなおこ)など40代後半から絵本を作っていきました。

 絵を特別に学んだことはなかったけれど、子どものころからずっと絵は好きだったし、自信もあった。僕の若い頃の旭山動物園は予算があまりなかったから、園内の動物の生態を解説するボードや、「エサをあげないでください」といった案内表示なんかは僕が絵を描いて作りました。それから、飼育係が動物に嚙まれたりしてケガをしたときに提出する事故報告書の説明用の絵なんかもよく描かされました。


〈前回はこちら〉vol.8動物園だからわかること、伝えられることがある


 でも、“絵が描ける”ということと、文も含めて“絵本をつくる”こととは全然違いました。絵本の世界に入って最初のころはとまどいました。飼育係として得た動物学の知識を動物園で子どもや大人たちに伝えてきたけれど、「自分はよく知っているんだぞ」とえらそうに難しい言葉で話していました。

 絵本をやりはじめて、はじめて気がついた。それは、“絵本の世界はひらがなでしゃべる、ひらがなで伝える”ということでした。福音館書店の「かがくのとも」の仕事では、編集者にはほんとにいろいろ教えてもらいました。子どもに伝えるものをつくることは、大人向け以上に難しい。大人はわかったつもりで終わらせちゃうけれど、子どもはじっくりと感性で向かってくる。こわいのだ。

イラスト

 ひらがなで伝えるってどういうことか。例えば、「カメレオンはどうして色が変わるんですか?」って聞かれたときに、「君がお風呂に入ると赤くなるよね、カメレオンはもっとなるんだよ」といった具合かな。そんなふうに表現できるようになるまでにはとても時間がかかりました。

 絵本の世界に入って、すごいなと思った作家は、長新太さん、田島征三さんたちです。彼らはみんな絵の中に伝える力があり、そしてひらがなで伝えている。

 荒井良二さんやスズキコージさんの絵も好きだ。スズキさんは、野外で巨大な絵を描くライブペインティングをやっているけれど、独特な画風で実に堂々と絵を描く。スマホ時代だからかな、ああいう大きな絵を描く絵本作家は少なくなっている気がするね。

 僕自身は多くの絵本を手掛けてきたけれど、「絵本作家」「絵描き」としてまだまだ描きたい「宝」を心にしまっています。(文と絵 あべ弘士)

動物の命を描いた多くの作品を手がけている絵本作家のあべ弘士さんから、子育て中の人たちや子どもにかかわる人たちへのメッセージを月1回、お届けします。

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