妊娠したら知っておきたい給付金・支援制度と、これからのライフデザイン【2025年最新・後編】

浅野有紀・東京すくすく編集長(写真左)とこども家庭庁の林利夫さん(写真右から)、宮澤美郷さん、山内澄子さん、安藤温子さん
「こどもまんなか」の実現に向けた公的支援は増えつつあります。しかし、支援の中身やその存在が社会全体に浸透しているとは言えない状況です。妊娠・出産や子育てに向き合うときに知っておきたい国の支援と取り巻く環境を取材しました。
【関連リンク】妊娠したら知っておきたい給付金・支援制度と、これからのライフデザイン【2025年最新・前編】はこちら
こどもまんなかアクション推進室 広報推進官 安藤温子(あんどう あつこ)さん

ライフデザイン室 参事官補佐 宮澤美郷(みやざわ みさと)さん

ライフデザイン室 参事官補佐 山内澄子(やまうち すみこ)さん

広報室 広報推進官 林利夫(はやし としお)さん
聞き手:東京すくすく編集長 浅野有紀
妊娠・出産・子育てを応援する空気を可視化する「こどもまんなかアクション」

浅野 こども家庭庁が発足し、「こどもまんなか」という言葉をよく耳にするようになりました。まずは「こどもまんなか」に込められた思いを聞かせてください。
安藤 「こどもまんなか」は、子どもや若者にとってもっともよいことは何かを考え、その意見を尊重し、子どもや若者とともに、より良い社会を目指すという考えです。子育て期にはあらゆる場面で応援や支援が必要で、応援の方法も1つだけでなく、多様なアプローチが大切です。そのため、こどもまんなかアクション推進室では、社会全体で妊娠・出産や子育てを応援していくために、個人、団体・企業も含めて、その活動を見えるようにして、社会の機運を高めていく取り組みを始めています。
例えばこども家庭庁では、こどもまんなか応援サポーターを募集しています。これは特別な手続きや申請が必要なわけではなく、“こどもまんなか”なアクションを実行したときに、SNSに「#こどもまんなかやってみた」をつけて発信するだけで、サポーターに参加できるというものです。子育てを応援している人々の活動が見えるようになれば、自分たちはこんなに応援されているんだなとか、自分にもできることがあるかもしれないといった空気感が伝わります。さらには、子どもや子育てに向ける社会の眼差しが優しいものになっていくのではないかと考えています。
ある企業では、子どもが生まれた男性社員に育休の意向をたずねるときに、「育休取るの?取らないの?」ではなく、「育休いつからにする?」と、育休を取る前提で上司から声かけをするという例がありました。ちょっとしたことですが、男性も育休をとりやすい雰囲気をつくることで、パパもママも安心して子育てがしやすくなるのではないでしょうか。
【関連リンク】こどもまんなかアクションのリーフレットはこちらから(こども家庭庁のサイトに飛びます)
浅野 「子持ち様」というマイナスなイメージの言葉がSNSで見られる時期もありました。どのように感じていますか。
安藤 最近では、企業側も単純に子育て中の人だけを優遇するというベクトルではなく、それをサポートしている人たちを応援しようという機運が強くなってきているように感じます。例えば子育て中の人をサポートしている人たちにポイントを与えて給与や賞与に反映させたり、子どものいる人、いない人がお互い理解を深めるために思いをシェアするプラットフォームを作り、それぞれが交流したり対話ができる環境をつくっているという中小企業のお話も聞いたことがあります。応援したいけど、自分が損するんじゃないかといったもやもやが生まれないよう、応援する側の支援にもフォーカスする傾向が最近1年くらいの間に進んでいます。
ライフデザインはいつでも何度でも描き直せる そのための選択肢と情報を
浅野 こども家庭庁に今年の7月から「ライフデザイン室」という組織ができたと聞きました。まずはライフデザイン室の取り組みについて教えてください。

宮澤 若い世代への支援は、内閣府時代から地域少子化対策重点推進交付金という形で行ってきましたが、それに加えて民間企業と連携しながら、若い世代のライフデザイン(将来設計)を支援し、人生の中で選択の幅を広げることを目指した取り組みとして始まりました。5月にまとめられた「若い世代の描くライフデザインや出会いを考えるワーキンググループ」の報告書を踏まえて、若い世代、具体的には10代後半から30代前半くらいの方々を対象に、ライフデザイン支援に関する情報発信を行う準備をしています。いろいろな情報があふれている今だからこそ、どちらを向けばよいかわからずに迷ってしまうときに、希望する選択肢を前向きに選べるように、若い世代目線で若い世代自身に発信してもらうことも含めて、正しい情報を発信していくことを目指しています。
山内 ライフデザインという言葉はまだ認知度は低いのですが、ライフデザインにつながる取り組みをしている企業も増えています。例えば福利厚生制度だけでなく、企業内のカルチャーとして社員間の上下関係を気にせず、気軽にコミュニケーションを取れる工夫をしている企業もあります。そういう企業はライフとワークを両立しやすいので社員の満足度が高く、離職率が低い。若い世代の人材をどう確保するか、特に地方の企業にとっては生き残りをかけた重要な課題でもあるので、そういった取り組みをされている企業は増えていると感じます。
浅野 人生の選択に国がどこまで関われるのかは、なかなか難しい問題ですよね。
宮澤 もちろん、結婚も含めて、人生においてなにかを「する・しない」は、あくまで個人の自由であり、選択をするのは自分自身です。ただどんな人生を歩もうと、世の中にはいろいろな選択肢があることを知った上で、生きていってほしいという思いがあります。私たちが環境整備を進めるのは、結婚しましょうとか、子どもを産みましょうという意味ではありません。人生って、一度何かを選択しても、ずっとその選択のままいくわけではありませんよね。ライフデザインは、何度でも描き直していくもの。最初とは違う結論が出る場合もあれば、最初からずっと変わらない人もいるかもしれません。一回決めたものがゴールではなくて、何度でも描き直しできることをあわせて発信していくことで、子どもを産むことはいろいろな選択肢の一つであるということが伝わるといいなと個人的には思っています。
浅野 意識的にライフデザインにアクセスできたら少し想像しやすくなると思うのですが、SNSは、ネガティブな意見が目立ちがちです。たとえば妊娠・出産でいうと、産んだら損みたいな声も目につきます。
山内 そうですね。だからこそ、正しい情報を届けることが大切だと思います。子どもを持つか、持たないかという選択をするときに、働きながら子どもを育てることを企業がサポートしてくれていたり、地域や社会が応援してくれているというイメージを持てるかどうかで、選ぶ選択肢が変わると思うんです。私たち世代は就職氷河期だったので、先の見えない真っ暗な闇の中をずっと走ってきた印象があります。でも、昔こうだったから、っていうのはすごくかっこ悪い大人の姿だなと。今の若い世代の人たちに頑張ってもらうためにも、もっと生きやすい世の中にしなきゃいけない。だから私たち大人が、若い世代を支援、応援していくことが必要なんじゃないかなと思います。
【関連リンク】若い世代のライフデザイン支援(こども家庭庁のサイトに飛びます)
制度や支援に関する情報を逃さないための3つの方法
浅野 これまでいろいろな制度のお話を伺ってきましたが、使える制度があっても、必要な人に情報として届いていないという現実もあります。情報を逃さず入手する方法を教えてください。

林 こども家庭庁は、各府省庁で行われてきたこども政策を、統一した組織で行うとともに、その“隙間”に埋もれていた課題に細かに対応するために設置されました。その分、ニーズに対するさまざまな支援策が生まれています。妊娠・出産関連で言えば、最近報道のあった「卵子凍結」
ただ、忙しい毎日のなかで自身にあわせたサービスを知るにはどうしたらよいのか。身近にある3つのアクセス先をご紹介します。
1. まずは母子健康手帳交付時の窓口で
結婚するまでの市区町村の窓口には、「証明書をもらう場所」というイメージが強いかと思います。でも、これからは「身近にある相談窓口」としてアクセスしてみましょう。前編では妊娠・出産に関わる新たな制度として、給付金とあわせた伴走型支援のサービスを紹介しました。窓口では、自治体ごとに作成されている子育てガイドをもとに、給付金などの経済的支援をはじめ、産前・産後サポート事業、産後ケア事業など、自分にあわせた支援サービスを紹介してもらえるようになっています。

千代田区が配布する子育て応援ガイドブック
2. 経験豊富なスタッフが自宅を訪問「こんにちは赤ちゃん訪問事業」
こんにちは赤ちゃん訪問事業(乳児家庭全戸訪問事業)は、生後4カ月未満の赤ちゃんがいるすべての家庭を対象に行われているサービスです。経験豊富なスタッフが自宅を訪問し、育児の相談に乗ってくれたり、使える制度などの情報を紹介してくれます。近くに親族がいない、転勤などでまだ親同士のコミュニティーがない場合など、ちょっとした相談や疑問にも答えてくれるサービスです。
3. 自治体の広報紙もチェック
自治体から家庭に届く広報紙にも、必要な情報が掲載されています。国が制定した制度は、一律で始まるものもあれば、開始時期が異なるものもあります。また、市区町村独自の制度も紹介されています。特に申請が必要な制度やサービスもあるので、チェックしておきましょう。また、自治体によっては、プッシュ式で情報が届くポータルサイトなどもあるので、利用すると便利です。
また、今年、通勤途中に電車内でこんなショート動画をご覧になった方もいるのではないでしょうか。新しい制度を知っていただこうと、全国の交通機関で放映したものです。実は身近にあるアクセス先。知ることは妊娠・出産を見つめ直す機会でもあります。皆さんもぜひ一歩、制度を知るために様々な情報に手を伸ばしていただければと思います。
取材後記

こども家庭庁に「ライフデザイン室」があることを初めて知りました。「産めよ増やせよ」の誘いにならないかと懸念しましたが、宮澤さんの「ライフデザインは、何度でも描き直していくもの」という言葉に安心しました。
若者の将来の選択を応援するため、職員の方々も手探りの印象でした。今は妊娠・出産について何も思わない人も、いつかふと頭をよぎった時に適切な情報に触れ、自分らしい道を選べる社会のために、ライフデザイン室の今後の展開が気になります。
妊娠が分かった時、制度や支援について情報を逃さないためのアクセス方法も伺いました。私が便利だなと思っているのは、地域のLINEオープンチャットです。子育て世代限定で「おすすめの産婦人科は」「保育園の見学で何を聞いたらいいか」などの質問に、当事者の体験談が飛び交っています。ちょっとした不安解消の場になるので、ぜひ探してみてください。
支援制度は充実してきていますが、「この程度の悩みで頼ってもいいのかな」と考える人は少なくないようです。私は、子どもを育てる人はみなケアされてほしいと思います。人の命を生かすことは大変な営み。どんどん周りの人や制度に頼り、みんなで子どもを慈しんでいきましょう。
なるほど!
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