新生児マススクリーニング(NBS)で先天性の病気を見つけ、早期治療へ 無償化の対象が全国で広がっています

佐橋大 (2026年1月6日付 東京新聞朝刊)
 生後すぐの赤ちゃんから微量の血液を採って先天性の病気がないかを調べる検査「新生児マススクリーニング(NBS)」。対象の20疾患に加え、全身の筋力が弱まる脊髄性筋萎縮症(SMA)と感染症への抵抗力が極端に弱い重症複合免疫不全症(SCID)の検査も無償で受けられる地域が近年、急速に増えた。検査から迅速な治療につなぐ努力が続けられている。
写真 新生児

「新生児マススクリーニング(NBS)」は、生後すぐの赤ちゃんから微量の血液を採って、先天性の病気がないかを調べる

SMAでも早期治療で自立歩行が可能に

 全身の筋力が弱まる脊髄性筋萎縮症(SMA)は、筋肉を動かす神経細胞に不可欠なタンパク質が不足し、筋力が弱まる病気。約2万人に1人の割合で見つかり、8割以上が2歳までに発症する。最も重い型では従来、人工呼吸器なしでは平均6~9カ月しか生きられなかった。

 2017年からタンパク質を作りやすくする治療薬が登場。発症前に投与することで筋力の萎縮を食い止める効果がみられるように。SMA家族の会の理事長大山有子さん(47)によると、寝たきりになってしまう最重度型でも、治療を早く始めて自立歩行が可能になった子もいる。

 米国の研究では治療が早いほど、子どもの獲得できる運動機能が増えることも分かっている。大山さんは「1時間でも早く治療を行う体制を整えてほしい。それが会の願い」と訴える。感染症への抵抗力が極端に弱い重症複合免疫不全症(SCID)も、未治療のまま過ごすと、感染症や生ワクチンで命を落とす危険性が高く、検査の必要性が医療者から指摘されている。

図表:マススクリーニングの対象疾患

 こうした疾患の可能性を見つける新生児マススクリーニング(NBS)。SMAとSCIDは現在、国の実証事業として、38都道府県、20政令市で検査費用が不要だ=上の図を参照。費用は国と自治体で折半。事業はNBSの対象疾患に加えるかを検討する目的で2024年に始まり、参加自治体は当初の13府県8政令市から急拡大。残り9県では県やNPOの独自事業として行い、費用を保護者が負担する地域も。大山さんは「マススクリーニングの正式な対象に早く加えてもらい、誰もが費用を気にせず受けられるようになれば」と期待する。

愛知では無償化で検査実施率が99%超

 2024年3月に実証事業に加わった愛知県では、SMA、SCIDの検査実施率が有料だった頃の約76%から99%超に上昇。名古屋大大学院医学系講座特任教授の夏目淳さんは「検査を受ける赤ちゃんが増え、適切な治療につながる確率が格段に上がった」と話す。

 NBSでは、親の同意を得た上で、生後5日前後の赤ちゃんから微量の血液を採る。多くの病気では血液中の物質量を調べるが、SMAでは、特定のタンパク質を作る遺伝子を調べる。遺伝子変異が疑われれば、遺伝子を検査し、病気の重さを特定して治療する。

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神奈川県庁

治療開始まで1週間短縮できた事例も

 早期治療を願う声に応える取り組みは各地で進む。神奈川県は2024年10月の実証事業への参加を機に、SMAに詳しい小児科医師をコーディネーターに選び、陽性者が出た場合の連絡体制などを見直した。見直し前は出生から治療まで平均25日かかっていたが、見直し後には1週間短縮できた例も。コーディネーターを務める横浜市立大市民総合医療センター小児総合医療センター講師の渡辺好宏さんは「より早く治療できる手応えを得られた」という。

 岐阜県では、生後16日で治療を始めた例もある。治療にあたる岐阜大病院が遺伝子検査を自前で行う体制を整えたことなどが迅速な治療につながった。

 SMA家族の会の医療アドバイザーで、SMAA診療ガイドラインの策定に関わる国立国際医療センター(東京)の臨床ゲノム科医長の荒川玲子さんは「関係者の努力で、治療に至る日数は短くなっている。今後は専門的な遺伝カウンセリングや治療後のリハビリなど、長期的なフォローアップの体制を全国に広めていく必要がある」と話す。

追加検査でALDと診断、早期治療へ

 対象疾患以外の追加検査も、保護者の5000~1万円程度の費用負担で、地道に行われている。その一つが副腎白質ジストロフィー(ALD)だ。病気の型によっては、脳の機能が妨げられ、治療しないと高い確率で寝たきりに。早期発見の意義を実感している親子がいる。

副腎白質ジストロフィー(ALD) 

遺伝子の変異で1万5000人に1人の割合で起きる病気。主に男性が重症化する。脂質の成分「脂肪酸」の分解が妨げられ、体内にたまると、体を整えるホルモンを出す副腎や大脳、脊髄の機能が損なわれる。大脳の働きに障害が起きると、知能や運動機能の低下、落ち着きのなさ、視力・聴力の低下などの症状が出る。

 岐阜県の中学1年生の男子は、6歳でALDの大脳型と診断され、7歳で脳の症状の進行を止める骨髄移植を受けた。その後、移植された細胞が定着し、脳の症状は出ていない。

 男子の場合、早い段階で「歯茎が黒い」と母親が異変に気づいていた。歯の治療をした歯科医師も疑問に思い、そこから内科クリニック、大学病院と受診し、脳に症状が出る前にALDの診断がついたという。「奇跡の積み重ねで治療につながった」と母親は言う。

図表:副腎白質ジストロフィー(ALD)の主な症状

 ALDは脳の症状の前に、脳のMRI画像に変化が現れるとされ、それをとらえて骨髄や臍帯血(さいたいけつ)を移植する。変化を確認してから移植するのは、移植自体に命を脅かす危険性がある上、病気を示す遺伝子変異が見つかっても、発症の時期や発症の型までは分からないから。移植が治療法とされる大脳型は、発症する人の半数との報告もある。

 この男子は検査によらず早期発見できたが、ALDなどの可能性も分かるのが、NBSのオプションとして有償で行われている検査だ。「拡大新生児マススクリーニング」などとも呼ばれ、地域により対象疾患が異なる。日本マススクリーニング学会によると、ALDを対象にするのは岐阜、愛知など19県と3政令市。酵素が働かず、脳に障害が出るムコ多糖症1型と2型は、40都道府県と14政令市で行われ、治療に結び付いた例も。東京都ではムコ多糖症1型、2型、ポンペ病の検査は無償だ。

 ALDの検査では、赤ちゃんから採った血液に含まれる物質「極長鎖脂肪酸」の量を見る。多ければALDの可能性があり、遺伝子検査へ。過去に病気との関連が報告されている変異や、病気との関連性が否定できない変異があれば、2歳から半年に一度、MRI検査を受ける。症状の重い大脳型の発症リスクが2歳から出始めるためだ。

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医療関係者向けに講演する岐阜大名誉教授の下澤伸行さん=岐阜市の濃飛ビルで

偽陽性や経過観察が親の負担になるが…

 拡大新生児マススクリーニングの検査には限界もある。血液検査で「病気の疑い」と判定されても、その後の検査で、病気ではない「偽陽性」と分かったり、「病気の疑いがあるので定期的に検査して様子を見ましょう」と経過観察になったりすることも少なくない。こうした偽陽性や経過観察が親の負担になっているという。

 昨年11月に岐阜市で開かれた、医療者向けのセミナーでは親の負担について報告があり、「偽陽性を減らせれば」との声が上がった一方、「(基準を狭めて病気の可能性を)見落とすことも避けたい」といった吐露も。岐阜や石川など6県の拡大マススクリーニングの組織、東海マススクリーニング推進協会(岐阜市)の理事長で、岐阜大名誉教授の下澤伸行さんは「どの疾患も神経系の症状が出ると、基本的には元には戻らない。スクリーニングの意義が社会に共有され、より多くの人が負担なく検査を受けられるようになれば」と話す。

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