【妊娠・出産サポーターズ】助産師は何でも相談できる強い味方 妊娠期から産後、育児期まで母子を支えます


お話を伺った「訪問看護ステーションともる」の助産師・髙橋奈菜さん
助産師とは
妊娠期の健康管理や分娩の介助のほか、産後の母体ケアや育児の相談まで、長期にわたって母子を支える国家資格の医療職。看護師資格を基礎に助産の専門教育を受け、正常な分娩の介助を行います。日本で働く助産師は約3万8000人(厚生労働省統計)。医療職の中でも人数の少ない専門職です。病院や診療所、助産院のほか、訪問看護や自治体の母子保健事業など、さまざまな現場で妊娠・出産・育児に関わる支援をしています。
「主役」の妊婦が望む出産をサポート
―助産師さんは、妊娠するまでなかなか接点がない分、どんなことなら相談できるのか分からないという方は少なくないと思います。助産師さんは、どのような形で妊婦さんと関わっていらっしゃるのでしょうか。
髙橋さん 助産師の仕事は本当に幅広いんですよ。妊婦健診や健康管理、母親学級、分娩の介助、産褥(さんじょく)期の母体ケアや母乳ケア、新生児のお世話、産後の健診や面談など、妊娠が分かった頃から産後にわたって妊婦さんと赤ちゃんのサポートをしています。
病院の外で、訪問型の産後ケアや命の授業をしたり、DV、不妊などを専門にしている人もいます。これらは母子保健法に基づく助産師の仕事なのですが、今私が携わっている、医療保険に基づく訪問看護などもあります。

―訪問看護の助産師さんならではの関わり方もあるのですか。
髙橋さん 例えば出生後すぐにNICUに入院し、呼吸器などをつけたまま退院した赤ちゃんのお世話をフォローしたり、多胎や産後うつ、精神疾患や経済的な事情をお持ちの方など、赤ちゃんだけでなくお母さんにも見守りが必要な場合に、専門家としてお母さんに寄り添っています。そうした関わりの中で、赤ちゃんたちが安心して健康に育つよう、見守っています。訪問看護は医師の指示書が必要な制度なので、どなたでも受けられるわけではありませんが…。
―妊婦さんと向き合う中で、心がけていることはありますか。
髙橋さん 妊婦さんにとっての助産師は、妊婦さんが出産というゴールに向かうために、どう歩んでいくかをサポートする仕事だと思っています。主役である妊婦さんが望む出産、いわゆるバースプランに向かってどういうふうにしていきたいかを考えていただき、私たちは、妊婦さんが実現に向けてご自身のパワーを発揮していくのをフォローするというイメージです。そのためにするべきことはたくさんありますが、とにかく妊婦さんを“よく看(み)る”ことを心がけています。
例えば病院での出産では、モニターの波形を見て、ちょっとおかしい、という小さなサインを見落とさなかったり、おなかを触ったときの違和感、赤ちゃんの向きを変えるために、いろいろ試してもらったり。学院で学んだことに加え、最新の知見も得るための学びも続けていき、日々妊婦さんや赤ちゃんと向き合うなかで培った経験をフルに働かせながら、それぞれの妊婦さんが理想の出産をかなえ、産後も笑顔でいられるようにサポートしてきました。
“よく看る”のは、訪問看護でも変わりません。私たちは誰かを評価する立場ではなくて、その人が何を必要としているかをくみ取りながら、私たちが寄り添うことで「私、生きてていいんだ」とか、「このままでも寄り添ってくれる人がいるんだ」とか、「母親をやってていいんだ」と思えるようになる、そんな存在でありたいと思っています。不遇な成育環境で育ったり、社会の中で心を病んでしまったりする人はやはりいらっしゃるので、そんなお母さんたちを、ただただ愛で包み込み、母子とそのご家族が安心して過ごせるように、見守る存在になりたいと思っています。
旅行は?母乳は?時には一緒に悩みつつ
―総合病院の産科勤務、そして現在の訪問看護ステーションと、長年助産師として活動されている中で、妊婦さんたちに喜んでもらえたことや、印象的なエピソードはありますか。
髙橋さん 妊婦健診は診療の時間が限られているので、その十数分間ではなかなか聞きづらいことってありますよね。私が勤めていた総合病院の産科では前・後期にそれぞれ30分ずつの助産師外来があったのですが、そこでは本当にいろいろなお話が出てきました。本当は産むのが怖いとか、旅行に行っていいですか?とか。

そんなとき、「旅行はおすすめしません」ってばっさり切られると、分かっていてもモヤモヤしますよね。「キャンセル料いくら?うわー!」と妊婦さんに寄り添いつつ、「もし早産になってしまったらしばらく旅先に住まないといけないし。そんな時、頼れる人もいなくて不安だと思うからやめといた方がいいかもしれない」と伝えると、「そうか、じゃあ病院まで1時間くらいで戻れるところにします」という決断につながりやすくなることもあります。
母乳の相談も多いです。産後に心が折れてしまう方もいらっしゃいますし、母乳をあげたいけれどできない、たとえば乳がんで摘出してしまったとか、持病の常用薬があるためあげられないという方もいます。そんなときは、あげる・あげない・あげられない、というそれぞれの妊婦さんの事情や考えをもとに、話をしながら調整する方法を一緒に探ります。
中には、出産前に「母乳はナシ」と決断したものの、いざ赤ちゃんを前にしたら「やっぱり母乳をあげたい」という気持ちが湧いた方もいらして、母乳と薬の相談窓口なども紹介していろいろ検討を重ねたケースもありました。後日お会いしたときに「あのときにたくさん悩みきったおかげで、後悔も苦しい思いもなく、今は満足して自分の体と赤ちゃんに向き合えている」といううれしい言葉を聞くことができました。
―妊娠中の生活について、どのような相談を受けることが多いのでしょうか。SNSなどの影響はありますか。
髙橋さん そうですね。日々の生活のことは、いろいろ相談されます。「この食べ物は大丈夫でしょうか」とか、「薬を飲んでいるけれど母乳はどうしたらいいのでしょうか」といった、ちょっとした迷いを聞かれることも多いですね。
体の中に入れるお薬や妊娠中にうつワクチンのことについては、最終的には医師に相談するようお伝えしていますが、「みなさんどうしてますか」と聞かれることもよくあります。でも、正解って「みんな」の中にはなくって、正しい情報を持つ人と話してご自分で決めることなんですよね。
助産師にできるのは、たくさん話をして正しい情報や選択肢を示しながら、自己決定を支えること。先生に聞きにくいことがあれば、助産師を頼ることも一手ですので、どうか何でも相談してください。子育てが始まると、「お風呂が先かな、ご飯が先かな」「今お風呂入れないと寝ちゃうかも」といったように、その時々で子どものことを考えながら選択していく場面が続きます。妊娠中の食事やお薬、ワクチンのことも、赤ちゃんのことを考えてご自身が選んでいく最初の一歩なのかもしれませんね。
驚くような技術、感覚…奥深い仕事です
―妊婦さんをサポートする助産師として、どのような存在でありたいとお考えでしょうか。
髙橋さん どんなことでも話し合える関係性を築くように心がけています。そのために、時には一緒に悩み尽くすことも大切なのかなと思っています。

だから今は訪問看護の助産師として、困難を抱えている妊婦さんや産後のお母さんに寄り添い、時には一緒に泣いて。気持ちのリフレッシュ、シフトチェンジができてちょっと笑顔になれるようなサポートができればと。つらい状況から目を背けるのではなく、受け止めた上で次のステップに進むバネになるように。そんなことを意識しています。
―そこまで深く寄り添おうと思うようになったのには、何かきっかけがあったのでしょうか。
髙橋さん 私の場合は、助産師の道を志す出来事がありました。看護学生時代の実習先で、母乳が出なくて夜中に泣いていらしたお母さんとの出会いでした。カチカチでおっぱいを吸ってもらえないと泣いているお母さんに、助産師が3時間おきに、1時間ほど母乳のケアをしながら、お母さんの悲しみや辛さに寄り添っていて。「母乳の知識と技術がないと、私にはあの人を救えないんだ」と思い知りました。同じ女性として助けたいと思いました。そして、笑顔で赤ちゃんと接するお母さんを増やすお手伝いを一生の仕事にしようと心に決めました。
助産師になるには看護師資格に加えて専門教育や実習が必要で、現場でも「5年はたたないと一人前でない」と言われる世界です。実際、現場には驚くような技術や感覚を持った助産師がたくさんいます。母乳ケアがとても上手な人もいれば、触るだけで骨盤や体の状態が分かるような人、話をしているうちにお母さんの心をふっと開く人。そういう先輩たちの姿を見ながら、助産師という仕事の奥深さを感じてきました。
―最後に、妊婦さんやご家族が安心して出産を迎えられるよう、メッセージをお願いします。
髙橋さん 出産や育児のスタートを良いものにしていただくためにも、助産師といろいろなことを言える関係性を築いてください。もし、分娩の時のモヤモヤが残ったり、「この病院では二度と産まない」といった不信感を持ったら、絶対に持ち帰らずに消化して帰っていただきたいです。そういう気持ちを持ち帰ってしまうと、出産や育児のスタートを「こんなはずじゃなかったのに」とマイナスに捉えてしまいがちです。
子どもを産み育てることはそれまでと違った生き方ができるチャンス。できないことが増えたり、悩んだりすることもまた当たり前です。助産師の役割は、そんな妊婦さんと一緒に悩み、サポートをしていくこと。すべての助産師は、妊婦さん・ママさんたちの味方なので、もやもやは吹き飛ばして、赤ちゃんとの新しい生活のスタートを笑顔で迎えていただけたらと思います。

取材後記
自分の体や心が劇的に変わる上、新しい命を育む責任感から、さまざまな不安を抱えやすい産前産後。その不安を共有でき、寄り添い支えてくれる存在こそ、お産のプロである助産師です。
自分の体だけではなく赤ちゃんのことを考えるからこそ、「こんなこと聞いたら笑われるかな?」と思うような、ちょっとした疑問や心配ごとは募りがち。それらを気軽に相談できる存在がいてくれたら、安心して出産に向き合えそうな気がしませんか。
不安を小さなうちに解消することは、笑顔で出産とその後の育児を始めるベースです。ぜひ、身近な専門家として、助産師とたくさんコミュニケーションをとってください。
髙橋奈菜(たかはし・なな)
「訪問看護ステーションともる」所属の助産師。都内総合病院の産科・新生児科病棟と、産科婦人科外来などを経て、現在は訪問看護ステーションにて精神疾患合併や多胎児育児など、不安をもつ方のご自宅に伺い、母子とその家族を支援している。私生活では双子を含む三児の母として、自身も日々奮闘中。
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