新出生前診断 NIPTの連載に反響 思いがけない検査で苦しんだ妊婦、障害ある子を育てる親…当事者の思いは
NIPTは今 新出生前診断を考える(反響編)
罪悪感と怖さ「生きた心地しなかった」
「NIPTは考えていなかったのに」。5月に第2子の出産を控える名古屋市の女性(39)は自身の経験を長文のメールにつづった。
きっかけは昨秋の妊婦検診だ。超音波検査で、医師から「胎児の首の後ろのむくみ(NT=Nuchal Translucency)が少し気になる」と言われた。NTが厚いと、染色体異常の可能性が高いとされる。正確に測定してもらおうと「胎児ドック」を掲げるクリニックを受診したところ、ダウン症の可能性を指摘された。
2つの医療機関での結果から、NIPTを受けたのは昨年11月、妊娠13週ごろ。「せっかく授かった赤ちゃんを諦めるなんてできない。結果が陽性でも産む」とは決めていた。
ただ、夫は「陽性なら難しいのでは」という考え。おなかの子に「絶対に守るから」と胸を張って言えない罪悪感で毎晩泣いた。さらに、苦しみに拍車をかけたのは、中絶になれば、妊娠12週以降は役場に死産届を提出し、火葬をする必要があることだ。わが子の「死」に正面から向き合わないといけない。
約2週間後に出た結果は陰性。「待っている間は生きた心地がしなかった」。そもそもNTは正常な胎児にも見られる上、胎児の向きや姿勢でも数値が変わる。分かってはいても障害の可能性を指摘されれば、どうしても気になる。「通常の検診を受けただけなのに、NIPTのように調べる手段が増えるほど巻き込まれてしまう」と女性。「あんなに恐ろしい思いは二度としたくない」と言い、「本人や家族をサポートする態勢が必要」と強調した。
「大変」「本人もかわいそう」は偏見
「『障害のある子どもを育てるのは大変。本人もかわいそうだ』というのは偏見。当事者の気持ちを知ってほしい」。そう手紙を書いてきたのは、岐阜県各務原市の大谷弘さん(75)だ。自閉症の息子(45)を育てながら、知的障害のある人の家族らでつくる「各務原市手をつなぐ育成会」の理事長を務めている。
大谷さんが紹介してくれたのは、各務原市内に住むダウン症の村本大夢(ひろむ)さん(32)一家だ。幼い時からリズム感が良かったという大夢さんは10年ほど前、父親の真司さん(72)、母親の雅代さん(67)とチンドン屋「ぷめぷめ村」を結成。大夢さんは太鼓を担当し、地域の行事やコンクールなどでパフォーマンスを披露してきた。
「太鼓をたたくと目が輝く」と雅代さん。重度の知的障害があり、読み書き、話すことはできない。ただ言葉はなくとも、ひたむきに太鼓をたたく姿は、自然に大勢の目を引きつける。サックス担当の真司さんは「そこに『いる』だけで周囲に何かを感じさせる息子は、福の神」とほほえむ。
2016年7月、相模原市の知的障害者施設「津久井やまゆり園」で入所者19人が殺害された事件。NIPTの広がりは、あの事件の犯人と同じように、命に優劣をつける人を増やすのではないかと危惧する。「楽しそうな息子を見てもらい、人には皆、存在する価値があると伝えたい」
NIPTとは
Noninvasive prenatal genetic testingの略称。妊婦の血液に含まれる胎児由来のDNAを解析する検査。1~22の染色体のうち、日本産科婦人科学会が指針で検査の対象としているのは、染色体が通常より1本多い13番の13トリソミー、18番の18トリソミー、21番のダウン症の3つ。日本医学会が認定した検査の実施施設だけでも、年間約1万5000人に実施されている。
急速に広がる新出生前診断(NIPT)。「命の選別」につながるという指摘もある検査と、どう向きあえばいいのか。3回にわたって考えた。
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