ただでさえつらい流産 「妊娠12週」の境目でさらに苦悩 産休や出産手当金の基準があいまい 経験者が改善求める
「心拍停止は9週」医師に申請を断られ
「胎児の心拍が停止したのが9週とみられるため、体外へ娩出(べんしゅつ)されたのが12週以降であっても、申請書類への証明はできません」。昨秋、第2子を流産した薬剤師の秋田望美さん(37)=関東地方在住、仮名=は医師の言葉に耳を疑った。
その1カ月ほど前、妊娠12週3日(87日目)の超音波検査で、医師から「胎児の心拍が確認できない」と告げられた。帰宅後に胎児が体外に出てきたため再受診。医師は胎児を9週相当の大きさと判断した。
職場に流産を伝えると出産予定日を確認された。予定日からさかのぼると妊娠12週を超えていたため、「法律上は産休の対象なのできちんと8週間休んでください」と言われ、産休に入った。
望美さんは後日、職場から「出産手当金と出産育児一時金の支給対象なので申請書類に医師の証明をもらってくるように」と連絡を受けた。医師に頼んだところ、冒頭のように断られ、「産休も取ってはいけなかったの?」とパニックになった。
またぐ場合 厚労省のサイトに説明なし
産休は労働基準法で、出産手当金と出産育児一時金は健康保険法でそれぞれ定められている。ともに妊娠4カ月(12週)以降の分娩(ぶんべん)が対象で、流産・死産も含む。厚生労働省はこれまで周知不足だったとして、サイトを充実させてきた。
◇厚生労働省のWebサイト「流産・死産等を経験された方へ」→こちら
しかし、今回のケースのように胎児の子宮内死亡と体外に出た時期が12週の境目をまたぐ場合の扱いについて、判断の参考になるような説明や事例の案内はない。
望美さんと夫(38)は職場や健康保険組合とともに、地域の労働基準監督署や地方厚生局保険課に相談。最終的に医師は申請書の「出産日」の項目に二重線を引いて「排出された日」と書き換え、「妊娠9週流産、但(ただ)し排出された日は4カ月(12週)」と記載した上でサイン。出産手当金と出産育児一時金が支給された。
「同じ思いをする人が出ないように…」
日本産婦人科医会によると、子宮内死亡と体外に出た時期が12週をまたぐケースは少なくない。宮崎亮一郎・法制担当常務理事は「厚労省などのサイトには最終的な基準が書かれていない」と指摘。その上で、「医師が9週(で成長が止まった)と診断した今回の例は、本来は制度の対象にならないはずだ。出産予定日は、あくまでも妊婦の最終月経日などから推測した『予定』にすぎず、その日から逆算して割り出した妊娠週数と、実際の胎児の状態に基づいた医師の判断とは異なることがある」と説明する。
厚労省の産休の担当者は「産休を取るにあたり、法律上、書類や証明の提出は求めていない。あくまで各企業が設けているルールで判断を」と語る。一方、厚労省保険課の担当者は、出産手当金と出産育児一時金の支給について「妊娠12週以降かどうかは、最終的に医師が胎児の状態から総合的・医学的に判断することになる」と回答。「今後、こうしたケースが多ければ、対策を検討する可能性はある」とした。
秋田さん夫妻は「流産後という精神的、肉体的に大変な時期に、法的サポートを受けられるか否かはっきりせず非常につらかった。今後同じような思いをする人が出ないよう、私たちのようなケースの運用について、厚労省は医療従事者や企業、妊産婦への周知啓発に努めてほしい」と話す。
コメント