母子手帳とマイナカードの一体化に不安の声 情報流出や誤入力のリスクは? 紙の手帳はなくなるの?
体重や疾患…プライバシーのかたまり
「これだけトラブルが重なると、情報が消えたり漏えいしたりしないか心配」
東京都千代田区の診療所に、生後2カ月の長男の予防接種に訪れた会社員女性(32)は声を落とす。子育て支援をする一般社団法人「乳幼児子育てサポート協会」の行本(ゆくもと)充子代表も「母子手帳は体重や疾患などプライバシーのかたまり。情報管理の安全性が担保されないままでは一体化は反対」と訴える。
政府は重点計画の中で健康保険証や運転免許証などとともに母子手帳を挙げ、マイナカードとの一体化を目指すとした。ただし、母子手帳を一体化する時期や、紙の手帳を廃止するかどうかの方針は計画の中では明確にしていない。
自治体職員が手作業 誤入力の懸念も
政府はこれまでも、必要なときにスマートフォンなどですぐに情報を確認できるといった利点を挙げ、母子手帳のデジタル化を進めてきた。現状でもマイナンバー取得者向けサイト「マイナポータル」で、出生時の体重や乳幼児健診の結果などを確認できる。
今後マイナポータルで確認できる情報を拡充する方針だ。しかし、自治体職員が手作業で情報を入力するため、マイナ保険証で実際に起きている誤入力や、職員の負担増も懸念される。
親と子の情報を一覧できる手帳の良さ
こども家庭庁によると、母の情報は母のマイナカードに、子の情報は子のカードにそれぞれ記録している。一体化されると、親子の急病時に出産までの記録や予防接種などの医療情報をすぐに確認できなくなる可能性がある。
小児科医で母子手帳の歴史に詳しい大阪大の中村安秀名誉教授は「丁寧な議論をすることなく、一体化を進めることは拙速すぎる」と批判。「母子手帳は母子一体の考え方で母と子の情報が合わせて書かれている。親子の絆の証しとして、親が子へ手渡すことも多い」と指摘する。
「紙の手帳がなくなるのは困る」との声が多く上がっていることについて、こども家庭庁の担当者は「当面は紙の手帳を廃止する議論は難しそう」と話した。
母子健康手帳とは
1942年に発行された「妊産婦手帳」が始まりで日本発祥とされる。母子保健法に基づき、妊娠を届け出た人に自治体が交付。妊娠の経過や乳幼児の発育、予防接種履歴の記録だけでなく、育児に役立つ情報も載る。妊産婦や新生児の記録など厚生労働省が様式を定めた全国共通部分と、自治体が独自に編集できる任意部分がある。今年4月、11年ぶりに内容を拡充した。
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