学校給食「唐揚げ1個」批判を考える 物価高だけではない現場の苦悩とは

西田直晃 (2025年6月18日付 東京新聞朝刊)
 福岡市の小中学校で提供された主菜が唐揚げ1個の学校給食が、SNS上で批判を浴びた。後日、福岡市教育委員会は有識者による検討組織の設置も含め、改善策を協議すると発表した。カロリーと栄養バランスの基準は満たしていたが、SNS上では「見栄え」の悪さがネット民の不興を買ったようだ。食材の物価高が続く中、給食づくりの現場では予算の繰り合わせに悩む声も。望ましい給食のあり方は。
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SNS上で話題となった福岡市立小学校の給食メニュー(福岡市学校給食公社のホームページから)

地場産品の活用で食育につなげたいが 

 批判が寄せられたのは、市内の小学校で4月に提供された給食。大皿の真ん中に唐揚げが1個、ごはん、みそ汁、パック牛乳という献立だった。SNSでは量の少なさを指摘する書き込みが目立ち、受刑者の食事と比較した上で「刑務所のほうが豪華」とやゆする投稿もあった。

 福岡市は現在、小学校は4200円、中学校は5000円の給食費を毎月徴収し、公費も投入した上で給食を子どもたちに提供している。2学期からは無償化する。

 学校給食の仕組みは自治体によって異なる。文部科学省によると、すでに無償化した市町村は2023年時点で約3割で、このほか、給食費単体で運営したり、福岡市のように公費を積み増したりするケースに分かれている。1食当たりに充てられる費用の全国平均は250円前後だ。昨年6月に文科省が公表した実態調査では、給食費(公立)の全国平均月額は小学校4688円、中学校5367円で、5年間で約8%、10年間では約12%上昇した。

 家庭から集められる給食費は主に、主食と牛乳を除くおかずの食材費になる。栄養教諭や管理栄養士は、児童・生徒に必要な栄養を摂取させ、地場産品の活用など食を教材とした取り組みも求められるが、現場からは苦悩の声が漏れる。

 小中学校の栄養教諭の勤務経験があり、給食行政にも詳しい名古屋学芸大の高田尚美教授(食教育学)は「長引く物価高の影響で、予算面の制約が大きくなっている」と語る。

 「魚を使用したくても、より安価な肉を使うことがある。複数の野菜を用いるにしても、難しければ安いもやしに変えなければならない。地場産品の活用は、生産者の生活を成り立たせる狙いもあるので、決して安くならないのが実情だ」

食単価の基準がないと、質低下を招く

 この背景には、物価高だけではなく、人員面での事情もあるという。

 「調理従事者の少なさが負担を増している。食材を安い品に変えつつ、何とか栄養面を満たし、食べやすさを工夫しようと懸命に頑張っていても、市町村によっては設備費、人件費、水道光熱費で手いっぱい。どうしても1食当たりの単価は切り詰められてしまう」

 こうした状況を「国が責任を持たなければ、給食の質の低下が進んでしまう」と危ぶむのは、千葉工業大の福嶋尚子准教授(教育行政学)。「学校給食は栄養面や衛生面などに厳格な規定を設けているが、食単価だけが何の基準もないままで放置されている。無償化は進んでいても、市町村任せでは財政的な優先順位が低いままで、質低下を進ませる事態になりかねない」と指摘する。

 給食無償化の議論は費用負担を行政、家庭のいずれが担うかに傾きがちだとして「無償化され、質が低下するという本末転倒の事態を招かないためには、最低賃金のように地域ごとの『最低食単価』を設けたほうがいい」と強調する。さらに、現行の学校給食をベースにし、保護者や子どもたちの「量が少ない」といった声にも対応は可能だと訴える。「給食制度のそもそもの利点は、栄養バランスが整ったものが食べられることだが、たくさん食べる子とそうでない子がいるのは明白。議論は生まれるだろうが、自宅から米飯を持ち込んでもいいなどの柔軟なルールがあっても問題ないと思う」

元記事:東京新聞デジタル 2025年6月18日

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