いじめ、貧困、ヤングケアラー 子どもに関わるデータを統合・分析して支援につなげよう 広がるか「こどもデータ連携」 

加藤祥子 (2025年10月8日付 東京新聞朝刊)
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こども見守りシステムの画面を説明する町こども課の担当者。システムを見られるのは同課の担当者のみ=神奈川県の開成町役場で

 学校でのいじめ、家庭の貧困、家族の介護などを担う「ヤングケアラー」…。困難を抱える子どもを見つけるのは専門家でも難しいが、自治体が持つ福祉や教育など子どもに関わるデータを統合して分析し、要支援の子どもや家庭を早期発見する「こどもデータ連携」が一部の市町で進む。潜在的に困っている子どもの支援に結び付いた例もある。

こどもデータ連携

各自治体が困難を抱える子を把握し、積極的に働きかけて支援につなげようと、福祉や教育などの部署の枠を超え、データを一元的に活用する取り組み。国は2022年度から実証実験を支援し、長野県喬木(たかぎ)村など20以上の自治体が参加した。

学校や医療などの情報を集約して判定

 パソコンの画面には、虐待やひきこもりなど6項目が並ぶ。神奈川県開成町が2023年度から取り組む「こども見守りシステム」だ。児童手当の受給状況や学校の出欠席の情報など37種類のデータから6項目のリスクがあるか判定する。

神奈川県開成町のこども見守りシステムのイメージ

 結果を見られるのは担当するこども課の職員のみ。該当者がいる場合、関係の部署が学校の教員らに子どもの様子を聞き、保健師ら専門職も交え、支援が必要かを判定する会議を開く。

2世帯、6人の子の支援につなげた

 人口約1万8000人の同町は転入者が多く、特に若い世帯の状況が把握しにくいため、導入した。現在18歳までの子は約3300人おり、24年度には2世帯6人の子を支援につなげた。

 うち1人は当初、ひきこもりのリスクに該当。その子を含め、直近1年以内に転入した子は家庭環境が見えにくく、いったん、そのリスクに分類する設定にしているためだ。さらに世帯のデータをみると、子が複数いた。学校などに聞き取ると、子どもたちは登校していたが、給食費滞納が判明。困窮家庭に無償で食料を提供する団体につないだ。

 課題はリスク判定の精度を高めること。困っている子を見つけやすくするために、判定基準に幅を持たせると該当者が増え、確認が煩雑になる。町は開発した教育IT企業の内田洋行(東京)と改良を重ねる。同町こども課の奥津亮一課長は「事例やノウハウを積み上げていきたい」と話す。

 岐阜県山県市教育委員会は24年度、市内小中学校12校の児童生徒を対象にデータ連携を進めた。学校の欠席日数に加え、児童生徒によるメンタルチェックの結果などが含まれる。不同意の50人を除いた1542人のデータを分析し、各校内での会議を経て49人が支援対象に。うち9人は学校側も全くつかんでいなかった。

プライバシーの侵害や偏見につながる恐れも

 データ連携は、支援が必要ない子どもや家庭の情報も対象になる。こども家庭庁のガイドライン策定に関わった神戸大大学院の堀口悟郎教授は「必要以上のデータを使用すれば、プライバシーの点から問題となる可能性がある」と指摘する。

 さらに、システムが自動的に「貧困」のリスクがあると判定しただけで、支援が必要だと決めてしまえば「この子どもには問題がある」との偏見につながりかねない。個人情報の流出にも注意が必要だ。

 ガイドラインには、扱えるデータの項目を絞り、判定結果だけで子どものリスクを断定せず、担当者らの目で支援の必要性を確認することなどが盛り込まれた。堀口教授は「子どもの適切な支援につながるようなデータ連携を進める必要がある」と話す。

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