デジタル教科書「すごい」と好評、でも費用の壁 紙と違い国費の対象外 1冊200~2000円が自治体か利用者負担に

土門哲雄 (2020年11月4日付 東京新聞朝刊)
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1人ずつ配備されたタブレットでデジタル教科書を使って授業を受ける児童=東京都荒川区の区立第一日暮里小で

 文部科学省が「デジタル教科書」の普及を進めようとしている。インターネットなどを学習に生かすため、全国の小中学生にパソコンやタブレット端末を1人1台配備する計画が本年度中にほぼ完了する見通しとなり、教科書のデジタル化も進める考え。ただ、無償配布されるのは紙の教科書のみで、デジタル教科書導入には新たに予算が必要。動画や音声の活用にも課題が残っている。 

タッチペンで多彩な機能 何度でも書き込める

 「タブレットでページを開いてください」

 10月下旬、東京都荒川区立第一日暮里小5年の30人が、画面上で国語の教科書を開いた。タッチペンで文章に線を引き、地図やグラフは指で拡大。QRコードに触れると、文中の「アマミノクロウサギ」の写真が表示され、児童から「すごい」と声が上がる。

 担任の葛城(かつらぎ)貴代主幹教諭は電子黒板に児童の教科書を映し出し、線を引いた文章や地図からどんなことを読み取ったのか、対話しながら授業を進めた。

 第一日暮里小は9月から2~6年生の国語と算数、5~6年生の社会でデジタル教科書を導入。「何度でも書き込める。子どもたちが学習に取りかかりやすい」と葛城教諭。白井一之校長は「学習を記録するノートや板書も大切。デジタルとアナログの両方の強みを生かして使いたい」と話す。

導入校は8.2% 授業時間に条件「2分の1未満」

 学校教育法改正でデジタル教科書を使えるようになったのは昨年4月。ただ、文科省の告示で、デジタル教科書を使えるのは教科ごとに「授業時間数の2分の1未満」と条件があり、今年3月時点でデジタル教科書を導入した小中高校などは8.2%にとどまる。

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デジタル教科書を使った授業風景=東京都荒川区の区立第一日暮里小で

 教科書会社側は、来春には小中学校の教科書の約95%でデジタル版を発行する見込みだ。平井卓也デジタル改革担当相は先月、教科書もデジタルの活用を進めるよう萩生田光一文科相に提案。萩生田氏は記者会見で「2分の1」の条件を緩和する考えを示した。文科省の有識者会議も小学校教科書が次に改訂される2024年度に向け、デジタル教科書の課題を検討している。

 「最大の問題は費用」と文科省教科書課の担当者。国が教科書無償措置法に基づいて負担する義務教育の「教科用図書」購入費は年約460億円。紙の教科書のみが対象で、1冊200~2000円のデジタル教科書の費用は、現状では自治体か利用者の負担になる。

リンク動画や音声も「副教材」で国費の対象外

 このため、文科省は来年度予算の概算要求に約50億円を盛り込み、デジタル教科書を導入する自治体の小5~6年の1教科分、中学生の2教科分の購入費を負担。最大で全国の小中学校の7割がデジタル教科書を導入すると想定している。だが、デジタル教科書のライセンス(利用期限)は基本的に1年。普及のためには、いずれ無償化などの必要がある。

 デジタル教科書での学びを最大限に生かすためには、発音を聞いたり動画で説明することが有効。ただ、デジタル教科書は紙の教科書と同一の内容を記録したものと定義されており、デジタル教科書からリンクした動画や音声は「副教材」扱いとなり、ドリルなどと同じで国費負担の対象外となる。児童・生徒がタブレット端末などを一斉に使用した時の通信環境、子どもの健康面への配慮や教員の技能向上も課題だ。

 放送大学の中川一史(ひとし)教授(情報教育)は「子どもにとってはデジタル教科書と、それに準拠したデジタル教材が一体的に活用できることが望ましい。できるだけ学校や家庭に費用がかからず、継続的に使えるようにする必要がある」と指摘する。

元記事:東京新聞 TOKYO Web 2020年11月4日

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