管理栄養士 松丸奨さん おいしい給食で子どもを笑顔にしたい。児童養護施設で働いていた両親のように

河郷丈史 (2021年10月24日付 東京新聞朝刊)

家族のこと話そう

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学校給食の栄養士、松丸奨さん=東京都文京区で

褒めて認めて受け入れる 温かいまなざし 

 両親は児童養護施設で長年働いていて、経済的な問題や家庭内暴力など、いろんな事情で親と一緒にいられない子どもたちを育ててきました。抱っこや肩車をして遊んだり、一緒にカブトムシを捕まえたり。家でも施設の子たちの話をして「かわいい」と言ったり。褒めて、認めて、受け入れてあげる、温かい目で子どもを見ていた。そんな両親の姿を見ていたので、自分も子どもと関わる仕事をしたい、と思うようになりました。

 自分は今、東京都内の小学校の栄養士として、子どもが苦手な野菜や魚、豆などをおいしく食べてもらえるよう、給食の献立を考える仕事をしていますが、小学1年の頃は好き嫌いがすごく多かったんです。魚が出てきても一口も食べなかったり、ふりかけご飯だけで済ませたりして、料理を作る母や祖母は苦労したと思います。

苦手だった魚、給食で感動…レシピは?

 ある日、小学校の栄養士の先生から「給食には君のためになるものしか入ってない。頑張って食べたら、きっといいことが起きるよ」と言われました。我慢して食べたら、たまたま、逆上がりができるようになったんです。また頑張って食べたら、今度は足が速くなるかなと。そんな感じで少しずつ、苦手なものも食べられるようになりました。

 高学年の時、休み時間になると給食室に行って、栄養士の先生から給食のレシピを教わりました。みんながサッカーをして遊んでいる間にレシピを聞きに行くなんて、珍しい子どもだったでしょうね。特に記憶に残っているのはイワシの梅しそ春巻き揚げ。魚が苦手だった自分が「こんなにおいしいものはない」と感動したメニューでした。

 給食のレシピを母や祖母に伝えると、家で作ってくれました。それが、すごくうれしくて。父が知らずに「何これ、おいしいね」と食べるのを見ると、誇らしい気分でした。こんな給食を自分で作れるようになってみたい、と思うようになりました。

配膳も片付けも 子どもの心に寄り添う

 おいしい給食作りには調理の技術も必要ですが、何よりも、子どもたちの心に寄り添わなければいけません。だから配膳から食事、片付けの時間まで教室や廊下を動き回り、積極的にコミュニケーションを取るようにしています。

 小学校の子どもたちも、その子なりに悩みがあったり、困っていたりするから、給食で笑顔にさせたい。たくさん食べた子も、苦手なものを一口でも食べられた子も、えらいね、と褒めています。

 それは、施設の子たちを優しく見守っていた両親の影響が大きいです。父や母ならどうするかな、きっと、こんな言葉を掛けてあげるよな、とか、いつも頭の隅っこにありますね。

松丸奨(まつまる・すすむ)

 1983年、千葉県生まれ。管理栄養士。病院勤務を経て、東京都文京区の小学校給食の栄養士となり、残食をほぼゼロにする献立作りが注目を集める。2013年、おいしさや地場食材の活用などを競う「全国学校給食甲子園」で、男性栄養士として初めて優勝した。

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