国連が日本に「特別支援教育の中止」を勧告 欧米は障害児と健常児がともに学ぶインクルーシブ教育が浸透 日本の現状と対応は?

城島建治 (2022年9月26日付 東京新聞朝刊)
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学校現場の実態を国連に伝えるため、スイスを訪れた青木サラさん(左端)と母親の弘美さん(右端)ら=東京都世田谷区で

 国連の障害者権利委員会は今月、障害者権利条約に基づき、日本政府に対して障害児を分離した特別支援教育の中止などを求める勧告を発表した。スイスで行われた審査の段階では、日本の市民団体が直接、障害児が普通学級への就学を拒否されるケースがあると権利委に訴えた。国連は障害児と健常児が共に学ぶ「インクルーシブ教育」を掲げ、欧米などで浸透しているが、日本では十分に進んでいない。

スイス訪問し訴え「反映された」

 「私たちの訴えが勧告に反映された。普通学級で学ぶ壁を取り除いてほしい」。こう話すのは市民団体「障害児を普通学校へ・全国連絡会」(東京都世田谷区)の青木弘美さん(51)=文京区。障害者権利委員会の審査に合わせ、スイス・ジュネーブを訪れた一人だ。

 次女で中学3年のサラさん(14)は高次脳機能障害で、右半身にまひがある。小学校は校内にある特別支援学級に通ったが、中学から普通学級に変更した。きっかけは小学生の時、サラさんを見かけた近所の児童が「障害者だ」と呼んだこと。青木さんは「欧米のように健常児と一緒に学ばないと、障害児は自分たちとは違う人とみなされ、差別の温床になる」と話す。

 だが、今年も養護教諭との面談で「厳しい訓練で、ちゃんとしつけがされる特別支援学級に行くべきだった」と言われるなど、壁を感じ続けている。

普通学級での「合理的配慮」を

 青木さんはジュネーブ訪問前から、権利委とやりとりを開始。全国連絡会から障害のある子どもと保護者3組を含む7人が渡航し、

  • 障害のある子どもの普通学級への就学を拒否しないこと
  • 障害児が普通学級で学ぶ場合、合理的配慮を保障すること

-などを勧告するよう求めた。

 日本の教育現場の実態をまとめたリポートも提出。委員と意見交換する会議に出席し、別にあった個別面談でも問題点を指摘した。権利委は今月9日、青木さんらの意見も参考に勧告を出した。

 勧告に拘束力はないが、尊重することが求められており、日本政府がどう対応するかが問われる。

特別支援教育の子どもは増加中

 日本では、特別支援教育を受ける子どもが増加傾向にある。小中学校に設置された特別支援学級で学ぶ児童・生徒数は、2020年度で約30万人。少子化で子どもの数は減り続けているが、10年間で2倍超に伸びた。障害児を専門に教育する特別支援学校に通う子どもも増えている。

グラフ 普通学校と特別支援学校の児童生徒数の推移

 理由に関し、文部科学省の担当者は普通学級に比べて教員の配置が手厚く、きめ細かな指導ができるため「保護者のニーズが高い」と説明する。

背景に普通学級の教員の多忙化

 問題は、普通学級を希望する子どもの意思が尊重されるかどうかだ。全国連絡会によると、特別支援教育を勧められる事例は後を絶たない。保護者が普通学級への就学を求め、訴訟を起こすこともあるという。東京都内の男性教員(50)は現場の空気感について「教員の多忙化に拍車がかかっている。障害のある児童は配慮が必要なので、特別支援教育を受けてほしいと思う教員は多い」と明かす。

 永岡桂子文科相は勧告を踏まえ「インクルーシブ教育システムの推進に努める」と強調するが、まずは当事者の声に耳を傾けることが不可欠だ。知的障害がある次男(21)が小学校から特別支援教育を受けた千葉県の男性会社員(52)は「特別支援教育は欠かせない。ただ、普通学級を希望する障害児がいるなら、受け入れるべきだ」と求めた。

障害者権利条約とは

 障害者の権利を守り、差別を禁止するために政府が取り組むべきことを定めた条約。障害者が参加して作り、2006年に国連総会で採択、2008年に発効した。今年6月現在、185カ国・地域が締結している。日本は2014年に締結した。締約国は2年以内に国内の政策を障害者権利委員会に報告。その後、権利委が定期的に審査、勧告する。

元記事:東京新聞 TOKYO Web 2022年9月26日

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  • 匿名 says:

    年中の5歳の子供がいます。発達検査で知的面が遅れているようです。

    園では友達もたくさんいて会話も問題なくできています。発達検査の結果だけで支援級を勧められました。まだ年中なのにです。

    発達センターの心理士にグレーだから診断つかないと言われ小児科医も紹介してもらえず、かかりつけ医から専門医を紹介してもらうが、保護者が希望すれば知的障害として診断をつけることもできなくはないが、不要だと思うと言われました。

    診断がつくほどではない幼い子供にK式発達検査だけで学校側、発達支援センター、小児科医までもが支援級を勧めるのは、自治体、国として教師の人手不足からだと思います。

    人手不足を理由に保護者を悩ませ子供の選択肢を減らすことに疑問を抱きます。インクルーシブ教育をもっと浸透してほしいです。

    教師から見て手がかかりそうな子を支援級に早い段階で振り分けようとする政策に保護者からすると教師や市の教育関係者に壁を感じます。

     女性 30代
  • まあぼう56 says:

    私は、脳性麻痺。小学は養護学校。中高は一般の学校に。はっきりと言って養護学校の方が精神的には楽だった。

    しかし、今から考えると、地元の友人も誰もいません。健常児なら5 才6才から小学入学からコミュニティにデビューします。仮に小学~高校を特別支援学校(養護学校)に通学すると18歳~コミュニティにデビューします。果たして社会に対応出来るでしょうか

    私の経験から言うと、養護学校は障碍者だけを集めて健常者になるための訓練の場だと思います。それなら一緒の学校で体験する教育を目指すべきだと思います。学校だけでは不可能だと思います。だから地域の力が必要です

    まあぼう56 男性 50代
  • yama says:

    さてさて、障害を持つ子どもや特性を持つ子どもたちが、普通学級に在籍することで肩身の狭い思いをしたりついて行けなくなってしまうのではないか、とのご意見、もっともだと思います。ただ、いわゆる障害を持っていないとされている子どもや特性を持たないとされている子どもでさえ、普通学級から「落ちこぼれ」たり「不登校」になったりしてしまう現状を忘れてはならないと思います。実はそのような悩みや恐れは、障害や特性を持つ子どもたちだけの問題ではありません。

    と言うことは、障害の有無で子どもたちを分けたり一緒にしたりすることに問題があるのではなく、日本の教育(普通学級)そのものに問題があるのではないでしょうか。穿った見方をすれば、特別支援学級は教員が多い上に個別の支援計画を立てているから、「落ちこぼれ」たり「不登校」になりにくいだけなのではないでしょうか。

    インクルーシブを進めることで、そのような様々な問題を洗い出し改革することができると思います。インクルーシブは障害を持つ子どもたちだけのためではありません。障害や特性を持つ子どもにとっても持たない子どもたちにとっても、暮らしやすい、過ごしやすい、学びやすい教室を作り上げることがインクルーシブの目的だと思うのです。

    yama 男性 60代
  • 匿名 says:

    世の中にはいろいろな人がいます。障害がある人、(今の時点では)ない人、LGBTQ+、、、インクルーシブ教育をしているアメリカの小学校で働いていますが、小さいころから同じクラスに障害があるクラスメートとの交流があることは、社会に出たときにとても役に立っているんだなあと感じます。(その子へのサポートシステムが通常学級でちゃんと行われているのが前提ですが)そのためにも、もっと専門的な知識を持ったスタッフが増える必要があると思います。

     女性 50代
  • 獅子男 says:

    障がいといっても、身体精神知的とあり、其々が異なる対応が必要ですので、一概に一緒にはできないのではないでしょうか。

    特別支援学校、学級は必要であると考えます。普通学級で学べる能力がある方は進むべきだし、それが困難な方はどうするのでしょうか。何でも差別差別と言っていると、最終的に困るのは当事者ですよ。

    獅子男 男性 50代

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