救命教育で身につく「小学生でもできること」 学校での突然死ゼロへ、日本AED財団が川越市で公開授業
大人が来るまでの3分で何をする?
「大人が来るまでの時間を3分と想定します。この間に役割分担をして、目の前の命を救う最善の策を話し合ってください。正解はありません」。鈴木敏之教諭(35)が声を掛けると、体育館に座る6年梅組の約30人が一斉に動き始めた。
児童には「日曜の夕方、子どもだけで遊んでいて、1人が携帯電話を持っている」という共通条件のほか、班ごとに「クレアモール商店街で男の人」「六軒町の公園で女の人」など、現場と倒れた人の特徴が伝えられた。児童らは「うちのマンションにAED(自動体外式除細動器)があるから取りにいく」「冷静だから、119番で説明役ね」などと話し合って担当を決め、AEDの模擬機を人形に装着し、稼働させるまでを規定の時間内で行った。
「ピアノを習っていて、リズム感がいい」と胸骨圧迫(心臓マッサージ)担当に選ばれた細木原亘君(12)と勝又俊亮君(11)は「1、2、3」と声を合わせながら交代してマッサージを続け、期待に応えた。2人は「小学生でもいろんなことができる。いざというとき、頑張りたい」と話した。
自ら考えて判断し、行動する力を
現行の学習指導要領から中学・高校の生徒への一次救命処置の指導が盛り込まれたが、川越市はそれ以前から市内の埼玉医科大総合医療センターの協力を得て、救命士が希望する小中学校へ出向く出前授業を行っている。センター側の繁忙もあり、出前授業を受けた教諭が自校や異動先で授業を行う方法も始めた。今回の授業はその先進事例で、広がりが期待されている。
鈴木教諭らは、児童が救命を「自分ごと」と考えられるよう、昨秋から指導案を練ってきた。「既に行われている知識・技能型の授業ではなく、考えさせて判断力、表現力を育みたい」と狙いを語り、「小学生でもできることがある」と結論付けた児童らに手応えを感じた。「自分にできたので、他の先生方もできます」と授業を見た他の教諭への波及も期待した。
シンポジウムでは国や埼玉県、医療関係者から「児童が自ら判断し、主体的に行動できる力がつく」と感心する声が上がった。パネリストの1人で、さいたま市の小学校で突然死した桐田明日香さん=当時(11)=の母寿子さん(51)は同市の救命教育に長く携わってきた。「事故の起きていない自治体は救命教育に力を入れることが難しいことが多いが、川越市はモデルになり得る」と高く評価。授業について「10年前から講演で伝えていたことが実践され、まいた種が芽吹く瞬間を見たような思い」と感銘を受けた様子だった。
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