「保護者運営の学童、もう限界」指導員の採用から給与の支払い、社会保険の手続きまで保護者が… 社団法人運営に移行で負担減の例も
借りていた土地が使えなくなって
名古屋市緑区の「あおぞら学童保育クラブ」は昨年10月、保護者による運営をやめ、職員や保護者らでつくる一般社団法人による運営に移行した。これまで保護者が担っていた、指導員の採用や社会保険の手続きなどは法人が行う。代表を務める所長の田頭(たどう)直樹さん(35)は「保護者運営はもう限界だと思う」と話す。
1982年の開所当時から無償で借りていた土地を、地主の意向で2019年度末で返還することになった。近くの公園内への移転を考えたが、騒音を理由に近隣住民から反対の声が上がった。19年春ごろから保護者らが住宅地図で空き地や空き家を探し、法務局で登記簿を取って所有者に手紙を送る「ローラー作戦」を実施。夏ごろには土地が見つかった。
これまでは名古屋市が設置し、無償貸与するプレハブの建物で運営していたが、夏には室内温度が35度を超える日も。あおぞら学童は移転を機に、木造2階建て施設を建てることに決め、クラウドファンディングなどを活用。「いつ移転になってもおかしくない」と、解体して移設できる「板倉造り」という工法で建てた。児童数の増加に伴い、今年4月には分離する形で別の学童保育も開所した。
運営負担が大きく、辞める家庭も
法人移行前は、役員を務める保護者は午後8時から週3回会議があり、2時間以上かかる日も。指導員の勤怠管理も保護者の仕事で、田頭さんは「子どもが人質みたいになっているから保護者は指導員に指摘しづらいし、指導員も保護者に運営してもらっているから言いづらい。お互いにとって良くない」と振り返る。
共に子育てを楽しむはずが土地探しや指導員の採用などの比重が大きくなり、辞めてしまう家庭も。近隣の学童と合同で運営し指導員の数を確保したいという構想もあり、市の法人化モデル事業に手を挙げた。保護者会は月2回になり、法人の理事を務める保護者には報酬を支払う。法人理事で保護者の高木徹さん(51)は「移転時は保護者が数千万円を管理し、心理的負担があったと思う。法人化で保護者の負担は間違いなく減った」と話す。
民間企業や法人による運営が増加
昨年5月に全国学童保育連絡協議会(東京)が実施した調査によると、公営や地域運営委員会、父母会・保護者会が運営する学童保育は減少する一方、民間企業やその他の法人による運営が増加している。
協議会の佐藤愛子事務局次長は「運営主体が替わったとしても保護者会は解散させず、保護者が保育内容に参画する道筋を残すことが、保育の質を保つことにつながる」と話す。
利用者に聞くメリット・デメリット
名古屋市港区の女性(48)も娘の小学校入学に合わせて、保護者運営の学童に通わせたが、1年間でやめた。必ず役員を務めなければならず、毎月会議もあり、何のための学童なのかと疑問に感じたという。「月15000~20000円の利用料金を支払った上に保護者運営、と全く割に合いませんでした」と振り返る。
別の読者も10年前に子どもが学童を利用し、フルタイムで働きながら役員も経験した。相談者と同じ疑問を感じつつも、「自分たちで運営しているので、保護者に指導員の採用権がある。指導が気に入らなければ、自分たちで解雇できるので、改善してほしい点など言うべきことは役員から伝えればいい」と助言する。「保護者運営は大変だが、メリットを考えてやれることを探してみては」
「孫が通う学童も、働く親が運営を担っていて負担が大きい」と心配する女性(58)も。入所希望者が多く、両親はもちろん祖父母の就業も細かく調査されるという。「勤務地、勤務時間、自営業の場合は収入、曽祖父母の介護状態の証明まで必要で保育園に入るより難しい。共働き家庭が多い今、祖父母も現役で働いている。行政は介入できないのか」と吐露する。
なるほど!
グッときた
もやもや...
もっと
知りたい
保護者会運営が大変だという話をよく聞いていたが、この事例のように、どうして法人を立ち上げないのか不思議に思っていた。そもそもは、保護者が担っていた仕事を有給で頼めるような経済的余地がないのかと思っていた。
このような事例が可能であるなら、どんどん移行すればよいのに。保護者が理事となり、施設長を雇えばよいのでは?と思う。
その経営的余地があるのであれば、各地に「こんな学童はおかしい」と感じている志ある学童保育スタッフで、「やってみたい」という方はたくさんいる気がするのだが。
学童や夏休みの昼食が事業としてなりたち、指導員の待遇が安定するように。
学童に行く子にも行かない子にも平等に「子ども誰でも」支援が届くようになってほしいです。