ゲームで身に付ける金融リテラシー 税金・住宅・趣味…月収20万円でどうやりくり? FPによる出前授業も
一人暮らしのやりくり「体験」
「税金って、結構払うんだ」「削るなら交際費かな」。7月の埼玉県立越谷北高校(同県越谷市)。生徒が生活感のある話をするのは、ファイナンシャル・プランナー(FP)でつくる合同会社「エフパル」によるお金の授業中だからだ。
教材は同社開発のゲーム。1人暮らしの設定で、税・社会保険料、住宅、趣味、貯金など7項目の支出を月収の20万円でやりくりする。1カ月ごとに各支出のカードを取り、そこに記された金額の合計を収入内に収めるよう考える。カードは2回まで交換でき、10万円以上の貯金などで得点が加わる。収入を超えると減点だ。5カ月分行い、総得点を競った。
男子生徒(17)は「好きなことにお金を使うと生活できない。先取り貯金は大切だと分かった。社会に出てからお金のことを学んでも遅い。現実で失敗する前に教えてほしい」と語る。
「収入に占める各支出は割合で考えるのが肝心。割合は個々の価値観で違っていい。限られた収入で暮らす『物差し』を持つため、収支バランスを肌感覚で知るのが狙い」と、講師のFP黒須かおりさん。「授業で大切にするのは、内側からの気付き。金融経済教育もさまざまだが、これから淘汰(とうた)されていくのでは」
教える側の人材不足が課題
政府は2028年度末をめどに、金融経済教育を受けた人の割合を現状の7%から20%にする方針だ。J-FLECは、特定商品の勧誘を避けるため、FPや消費生活相談員などの資格を持つ中立的なアドバイザーを学校や企業に派遣する。ただ指導人材の不足も指摘される。
金融機関も教育現場に足を運ぶ。三菱UFJモルガン・スタンレー証券とモルガン・スタンレーMUFG証券は6月、英語で株式の仕組みを教える授業を始めた。初回の豊島岡女子学園中学・高校(東京都豊島区)では25人が投資の社会的意義を学び、起業して新規事業への出資を募る体験をした。
株を持つと「世界とつながる」
生徒には「株が持つ『世界中の人とつながる力』を感じた」と好評。同校教諭も「生徒が金融の世界を自分事に捉えられる教え方に苦心している。現場にいる人の話は響き方が違う。英語で学ぶことで、世界での活躍を視野に入れてほしい」と期待する。
証券会社側は「英語での授業には複数校から問い合わせがある。若年層への投資教育の重要性は強く意識している。各学校段階に応じた内容で取り組む」と強気だ。
岐阜大の大藪千穂教授(生活経済学)は「認定アドバイザー制度はまだ未知数。金融機関の色をつけず、統一教材を作ったのはいいが、柔軟さに欠ける恐れもある。子どもの理解度などその学校の状況に応じて教えなくては」とみる。その上で「投資をしなければ、という風潮が今ある。でも、自分の月々の通信費や食費が分からない若者も多い。『生活』のない投資をしてどうするのか。家計管理、ローンの考え方、単利と複利などベースの部分を学校で教えなくては、いびつになる」と危ぶんだ。
金融経済教育
2020~22年度に全面実施になった小中学校・高校の家庭科や社会科などの学習指導要領で記述が拡充された学習内容。金融の仕組みや資産形成、生活設計などについて学ぶ。
「J-FLEC(ジェイフレック)」(金融経済教育推進機構)
金融広報中央委員会(事務局・日本銀行)、全国銀行協会、日本証券業協会が発起人となり、4月に設立された認可法人。企業や学校での出張授業、無料のイベント・セミナー、個別相談、学習教材の無料提供、金融経済教育研究校の指定・支援、J-FLEC認定アドバイザーの認定・公表などの事業を行う。
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