生徒の「分断」生む高校授業料の無償化 神奈川から都内に住民票を移す保護者も
「越境通学」で3分の1は都内から
JRや私鉄の多くは県内と東京をまたいで走り、「越境通学」によって一つの教室に県民と都民が入り交じる高校も珍しくない。横浜市内のある進学校は、在校生の3分の1が東京から通っているというが、生徒を取り巻く環境は大きく異なる。都民なら親の所得に関わりなく授業料の助成を受けられるが、県民の場合は一定の年収を超えた世帯だと支援がない。都内の私立高校なら、その差額は年50万円近くになり、経済的な「分断」が生じている。
女性は息子が学校から短期留学募集のチラシを持ち帰った日のことを覚えている。「○○君は行くんだってさ」と、都内に住む友人の話をしながら、自分も行きたいとは言わないことに「なんか切ない気持ち」を抱いた。
「生徒は口にしていないが、不公平だということは分かっている」と、私立高校教諭らは話す。教室内に都民と県民の格差のような雰囲気を感じる関係者もいる。
圧倒的な財力の差「国が動いて」
制度の違いをもたらしているのは財政力の差だ。2024年度一般会計当初予算を比べると、大企業が集積する都が8兆4530億円、県は2兆1045億円と、4倍の開きがある。潤沢な税収を基に住民サービスを充実させる都と、生活圏は重なりながら追随できない県という構図になっている。高校授業料無償化の問題は東京都と神奈川、埼玉、千葉各県の知事と政令市長による4月の九都県市首脳会議でも議題になったが、具体的な進展はなかった。
東京都町田市と八王子市に隣接する相模原市の本村賢太郎市長のもとには、都と同じ制度をつくるよう求める声が届く。「子育てするなら相模原」を掲げる市長に「都内に引っ越ししようかと考えている」と訴える人もおり、「これでは人口減少にもつながってしまう」と危機感を募らせる。
私立高校関係者は、不公平さに業を煮やした保護者の間で、住民票だけを都内に住む親戚宅などに移す動きがあると明かす。どの程度の広がりがあるかまでは把握できていないという。
県内の私立学校82校が加盟する県私立中学高等学校協会の工藤誠一理事長は「将来の若者を育てるのが教育。本来ならこの問題を国が何とかするべきだ」と、力を込めて訴えている。