遊び心くすぐるメニューで「ホームラン打てたよ」 越谷市の指導者が結束し未経験者向けイベント〈野球のミライ〉 - 東京すくすく | 子どもとの日々を支える ― 東京新聞

遊び心くすぐるメニューで「ホームラン打てたよ」 越谷市の指導者が結束し未経験者向けイベント〈野球のミライ〉

酒井翔平 (2024年11月28日付 東京新聞朝刊)
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ボールを投げる子どもたち=埼玉県越谷市で

野球のミライ

【第6回】埼玉県の南東部に位置する越谷市。約30万人が住むこの街には、子どもが野球に親しめる環境が整っている。その土台を支えているのが、市内の学校教諭らでつくる「『野球の街越谷』実行委員会」だ。野球を市の文化として根付かせることを目的に、指導者たちが結束している。

技術的な指導はほとんどしない

 10月下旬、月に2回ペースで開催している未経験者向けの野球教室は、子どもたちの笑顔と歓声であふれていた。コーチとハイタッチしながらのランニングや的へ向けてのスローイングなど遊び心をくすぐるメニューが並ぶ。この日は最後に、幼児から小学校低学年までの12人がミニゲームに参加。4歳の時からほぼ毎月参加しているという男児(5)は「うまくスイングできて、ホームランが打てたよ」と母親と弟に自慢していた。

 実行委会長で中学校教諭の長瀬翼さん(36)は「技術的な指導はほとんどしない。楽しい空間をつくってあげることが大切」と話す。この教室をきっかけに、学童野球チームに入った子もいる。

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子どもたちに指導する長瀬翼さん(中央)

全国的な子どもたちの野球離れ

 発端は2021年。全国の例に漏れず、越谷市でも学童野球チームや中学校軟式野球部の統廃合が相次ぎ、子どもの野球離れが目に見えて進んでいた。当時、中学の野球部顧問で危機感を募らせた長瀬さんは、埼玉・春日部共栄高野球部時代の先輩からアドバイスを受け、未経験者向けのイベントを企画。学童野球チームの監督や中学、高校や大学の野球部で指導に携わる教員らに協力を呼びかけた。

 いざ話してみると、誰もが自分と同じように危機感を抱いていた。後押しを受け、イベントは成功。「これなら一つにまとまれる」。手応えをつかみ、22年4月に発起人となって実行委を設立した。

 一丸となったことで「知っているようで知らなかった隣の指導者と顔が見える関係になり、垣根を越えて協力できるようになった」と長瀬さん。イベントの周知がしやすくなり、チーム間で練習場所の融通や合同練習がしやすくなるといった相乗効果が生まれた。

週6回「ワンコインアカデミー」

 テレビの地上波から野球中継が姿を消しつつあり、野球ができる場所も確実に狭まった。「触れる機会が少なくなったことが減少の一番の要因」。野球教室に加え、市内の小中学校や高校、大学のチームの試合を1日で見られるイベントの開催など、さまざまな入り口をつくった。

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平日夜にもかかわらず約80人が参加したワンコインアカデミー=埼玉県越谷市で

 技術を磨く場も用意している。社会人スポーツチームやスポーツ教室などの運営を手がけるSUNホールディングス(本社・埼玉県八潮市)の協力を得て、「ワンコインアカデミー」を週6回開催。同社の社会人チームの指導者や選手らがコーチを務めている。月謝が1万円を超える野球教室も珍しくない中、参加費は1回500円。11月にあったアカデミーには、平日夜にもかかわらず市内外から約80人が参加した。鳥井佑亮社長は「家庭の経済的事情に関係なく、誰もが野球ができる選択肢を提供したい」と力を込める。

 越谷市の実行委のように一つの自治体の指導者がまとまる例は、全国的にも珍しい。長瀬さんは「誰かがやらないといけないことをやった。ただそれだけのこと。目標や目的は一緒のはずなので」。どんな子も望めば野球ができる未来を築くため、大人たちが行動している。

【野球のミライ】プロ野球は昨季2507万人の観客を動員し、コロナ禍以前の盛り上がりを取り戻した。2028年ロサンゼルス五輪での野球の復帰も決まり、球界には明るい材料が並ぶが、足元では子どもの野球離れが進行し、将来は決して楽観視できない。直面する課題を見つめるとともに、関わる人々の姿を通し、日本野球の未来を探る。

元記事:東京新聞デジタル 2024年11月28日

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