いじめに苦しむ子どもから目を背けないために 映画「Playground/校庭」ワンデル監督インタビュー

宮崎正嗣 (2025年3月12日付 東京新聞朝刊)
 クラスメートに無視される、悪口を言われて学校に行けなくなった-。集団生活の中で起きる「いじめ」。全国で上映する映画「Playground/校庭」は、学校でいじめや暴力に直面する子どもが抱える葛藤や緊張を、当事者の目線から映し出す。ベルギー出身のローラ・ワンデル監督は「校庭は子どもたちにとっての“一つの世界”でもある」と語る。
写真 映画「校庭」の一場面

映画「校庭」の一場面 ⓒ2021 Dragons Films/Lunanime

大人に言えばもっとひどくなる恐怖

 舞台はベルギーの小学校。7歳の主人公ノラは、3歳年上の兄アベルが校庭でいじめにあっているのを知り、ショックを受ける。一方的にいじめられるアベルの気持ちが理解できないノラは、次第に不信を募らせ、きょうだいの関係も悪化する。

 フランス語の原題は「(一つの)世界」の意味。ワンデル監督は、「子ども時代、私にとっても学校の校庭は、つらい時間を過ごす場所だった」と振り返る。ベルギーではサッカー場が校庭の大半を占め、「サッカーをしない子どもたちのスペースがほとんど残されていない」。ワンデル監督にとって、子どもたちの力関係がはっきりと見えてきた場所が、校庭だった。

 作中、心配するノラに対して、「誰にも言うな」と冷たくあしらうアベルは、顔にできた生傷を見て声をかけた父親にも、サッカーが原因だとうそをつく。家族に心配をかけたくないという心情と、「いじめを大人に言えばもっとひどくなる」ことへの恐怖が伝わってくる。

親が感情的になるのは当然の反応 

 大人への「告白」が、失敗に終わる様子も描かれた。アベルがいじめられていることをノラから打ち明けられた父親は、いじめている子どもたちを集めて叱責(しっせき)。いったんは親同士が介入して解決したかに見えたが、逆にアベルへのいじめは悪化してしまう。

 「父親の行動は人間的には当然の反応だった」とワンデル監督は語る。いじめのような事態では親も感情的になり、途方に暮れてしまう姿を見せたかったという。

写真 ローラ・ワンデル監督

ベルギー出身のローラ・ワンデル監督

 それでも学校が子どもたちにとって「『最初に適応しなくてはならない世界』であり、『最も身近な社会』であることに変わりはない」とワンデル監督。子どもたちは小学生になった途端に小さな社会に放り込まれ、さまざまな問題に直面する。社会やグループに溶け込むために多くを学ぶが、その学びは生涯役に立つと同時に、爪痕も残す。

 「(いじめという現実に)目を背けるのではなく直視することが、成長につながる。作品を見た人が、いじめや学校への適応に苦しんでいる子どもたちを支援する側になってくれたらうれしい」

 映画は東京・新宿シネマカリテ、名古屋・伏見ミリオン座などで上映中。その他でも順次公開する。

増え続ける「重大事態」

 文部科学省の調査によると、2023年度に全国の小中学校や高校などで認知されたいじめは、過去最多の73万2568件(前年度から7.4%増)だった。

 心身に重大な被害が出たり、長期欠席したりする「重大事態」は1306件と、初めて1000件を超えた。前年度からは約4割増で、2020年度以降、重大事態は増え続けている。

 「いじめ防止対策推進法」では重大事態が起きた場合は、教育委員会や学校が調査し、事実関係を保護者らに伝えることを義務づけている。

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