巨大な「ベイビーヘッド」をかぶってみたら…「こどもの視点ラボ」が12の研究 子育てのヒントに

大野雄一郎 (2025年3月26日付 東京新聞朝刊)
 「なぜ泣いているの?」「どうしてこれができないんだろう」。子育ての経験がある人なら、こんな疑問を一度は抱いたことがあるだろう。その答えに近づこうと活動しているのが、電通グループの有志でつくる「こどもの視点ラボ」。子どもの五感や置かれている環境を可能な限り再現し、大人が体験してみるという手法で、子どもの“謎だらけの生態”を真面目に楽しく研究している。
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子どもの頭の大きさを大人が実感できる「ベイビーヘッド」を紹介するラボのメンバーたち=いずれも東京都内で

言うことを聞いてくれずイライラ…

 長さが45センチある赤ちゃんの頭の模型。これは、こどもの視点ラボが外部の協力を得て制作した「ベイビーヘッド」だ。乳児の体格を大人が体感するためのアイテムで、新生児がおよそ4頭身であることから、身長180センチの大人がこれをかぶると、ちょうど頭と体の比率が赤ちゃんと一緒になる。危険性を考慮して重さ(計算上では21キロ)は再現しなかったが、実際にかぶってみると1.5キロの模型は十分重たく、赤ちゃんが日々生きることの大変さを思い知ったという。

 ラボではこのように、専門家の助言や監修を受けながら、オリジナルのツールを使って子どもの視点を体験する研究を行っている。立ち上げたのは、電通社員でコピーライターの石田文子さんと、アートディレクターの沓掛光宏さんだ。

 原点は、2人の子育て経験にある。子どもと接していると、その行動を不思議に感じたり、言うことを聞いてくれずイライラしたりする場面が多かった。沓掛さんは「分からないことだらけの中で『一度子どもになってみたらどうか』という発想が活動の出発点だった」と振り返る。

 2021年の設立以降、メンバーも増えて今では17人が所属。これまで積み重ねた研究は12種類に上り、毎回が驚きの連続だったという。

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研究の一つで、小学1年生の女の子が感じる重さを体感できる「大人ランドセル」。成人の男性に置き換えると重さは計18.9キロで、記者(33)が背負うと、のけぞりそうになった

叱り方を工夫してみる視点が芽生えた

 話した言葉がすべて泣き声に変換されてしまうスピーカーを口に装着してみる実験では、泣くことでしか気持ちを伝えられないもどかしさを実感。バーチャル空間内で「身長4メートルの大人に怒られる」状況を再現した研究では、倍以上の身長の人間ににらみつけられる威圧感に恐怖を覚えた。石田さんは「私は子どもにひどいことをしていたんだなと思った」と苦笑いする。

 研究を続けてきた今でも、子育て中にはどうしても子どもを怒ってしまうことがあるという2人。それでも、子どもの立場になって気持ちを想像して叱り方を考えるなど、接し方は変わってきているという。こうした経験から石田さんは「多くの大人たちに子どもの視点を知ってもらえば、もっと子育てがしやすい社会になるのでは」と話している。

ラボの活動の詳細は、インターネットサイトのウェブ電通報のほか、書籍「こどもになって世界を見たら?」(トゥーヴァージンズ、1760円)で読める。
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  • 匿名 says:

    重たいランドセルの原因は、教科書のA4サイズ化とカラー印刷(昔はB5サイズでカラーは少なかった)、オーバーカリキュラム(過積載)と言われている学習指導要領に合わせたページ数の増加、ICT機器、教室に教材を置くことを許さない謎ルール等々で、腰痛の子もいるとのことです。昔では信じられない事態だと思います。よくもこんなになるまで放置されていたものです。

    こうして頑張って登校しているのに文科省は容赦なく、子どもの体力が衰えていると言い続けます。そして学校は、登校した子が一息つく間もなくすぐに早朝マラソンだの縄跳びだの体力づくりを強制してきます。これでは不登校が増えるのも無理もありません。

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