〈子どもが頭を打ったら 前編〉転んだのに「虐待の可能性」8カ月も離れ離れ 目撃者なき家庭内事故で「一時保護」

(2020年6月23日付 東京新聞朝刊)
 虐待防止へ、社会が力を注いでいる。ただ目撃者がいない場合には、虐待の有無の判断は難しい。頭を強く打った子どもの受傷ケースをめぐる、最近の動きを追った。

若山伸二さん(右)、景子さん(左)夫妻と3歳になった長男。「もしまた頭を打ったらと思うと不安で、最近までヘッドギアをつけさせていた」=東京都内で

「虐待していません」訴えは届かず、1歳の長男が一時保護

 「虐待の可能性があるので、お子さんを一時保護します」

 2017年10月末、東京都内の病院。児童相談所の職員から告げられた言葉に耳を疑った。「虐待はしていません」。若山伸二さん(40)と景子さん(40)夫妻=23区在住、いずれも仮名=は必死で訴えた。

 納得できないまま病室に戻ると、ベッドにいたはずの長男(当時1歳0カ月)がいない。すでに職員に保護された後だった。

つかまり立ちの時期、前日も転倒 よくあることと思ったら

 長男が病院に運ばれたのは8月半ばの朝。伸二さんは不在で、哺乳瓶を洗っていた景子さんにつかまって立とうとした長男がバランスを崩し転倒。後頭部を床で打った。手足のけいれんに続き、顔が青白くなり、動かなくなった。その間5分の出来事だった。

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1歳0か月の長男が転倒した台所

 病院に運ばれた長男は、すぐに開頭手術を受けた。急性硬膜下血腫と重度の眼底出血と診断され、病院は「虐待の疑いがある」と児相に通告した。

 当時、長男はつかまり立ちを始めたばかりで、受傷の前日にも転んで数回頭を打っていた。景子さんは「この時期には、よくある転倒。虐待と判断されるとは考えたこともなかった」と振り返る。

児童相談所「繰り返し頭を打つ環境自体が、保護の対象に」

 一時保護を経て乳児院に入所した長男に、夫妻が面会できたのは翌年3月。同年6月に自宅に戻ってからは夜泣きがひどく、悲鳴を上げて起きることも。不安定な状態はしばし続いた。

 伸二さんは「虐待を見逃せないのは分かる。でも問答無用で引き離すことも、子どもや親にとっての虐待ではないか」と声を詰まらせた。

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若山さん夫妻の長男が最近まで使っていたという赤ちゃん用ヘッドギア。長く使っていたため、布地が擦り切れてしまった部分もある

 子どもが転び、頭を打つ事故はどの家庭でも起こりうる。場合によっては重い障害が残り、最悪死に至ることもある。こうした中、保護者が虐待を疑われ、一時保護されるケースがある。

 児相関係者は「受傷原因が判明しない場合は、取り返しのつかない事態になることを恐れ、子どもを保護することが多い」と話す。若山さん夫妻のケースを担当した児相職員も「繰り返し転倒して頭を打つ環境自体が、安心・安全を確保できているとはいえず保護の対象」と説明したという。

小児脳神経外科医「2歳までは簡単に頭蓋内出血することが」

 「赤ちゃんが頭を打った、どうしよう!?」(岩崎書店)の共著や「さらわれた赤ちゃん 児童虐待冤罪被害者たちが再び我が子を抱けるまで」(幻冬舎)の著書のある小児脳神経外科医の藤原一枝さん(75)は「乳幼児期に頭を打たないように気を付けることは非常に重要」と話す。その上で、「乳幼児の頭部外傷の全てに虐待の疑いがかけられている現在の制度には問題がある。2歳までの乳幼児は、転倒や落下で簡単に頭蓋内出血することがあり、虐待と間違えてはいけない」と指摘する。

 第三者の目のない家庭で起きた子どもの頭部の受傷事故を「虐待」と推測し、一時保護を妥当とする根拠の一つになってきた理論がある。しかし、国内外の研究などでこの理論に疑問符がつき、虐待事件をめぐる司法判断が揺れ始めている。

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小児脳神経外科医の藤原一枝さんの共著「赤ちゃんが頭を打った、どうしよう!?」(岩崎書店)

小児脳神経外科医の藤原一枝さんの著書「さらわれた赤ちゃん 児童虐待冤(えん)罪被害者たちが再び我が子を抱けるまで」(幻冬舎)

一時保護とは

 児童相談所長または都道府県知事らが必要と認めた場合、児童相談所が子どもを一時的に保護する行政処分。期間は原則2カ月以内。親の虐待など、家庭から緊急に引き離す必要がある場合などに行われる。

元記事:東京新聞 TOKYO Web 2020年6月23日

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  • くりーむ says:

    可能性があると言うだけで、本当に虐待していないのに、問答無用で親子を引き離されるのは、児童相談所や行政側から親子に対する虐待だと私は思います。

    可能性があると言うだけなら、親が虐待を本当にして居ないのなら拒否しないはずなので毎日でも児童相談所からの訪問を入れるとかすれば良いのでは?

    それに保健師さんとも児童相談所側は、親がどのような事物でことだてに対して普段からどのように考え対応しているのかや疑われるきっかけになってしまった事案に対しての親の考えとその後の対応意思や環境改善、安全保護をしようと考えているかなども踏まえ親と保健師さんに徴収すべきですし。

    本当に冤罪で問答無用で引き離し、貴重な親子の時間を奪った挙句、引き離した事によって逆に親子の経過が悪くなった場合はどう責任を取るのか。

    愛する我が子から引き離された親が心を病み自殺してしまったら? 精神障害になって社会復帰できなくなってしまったら? その辺も踏まえ慎重に調査し、対応する事が望まれます。

    どこかの記事で冤罪で問答無用で引き離されてしまったお母様が自殺したと読んだことがあります。確かに本当に虐待だったら子供を早急に保護する必要はありますが、疑われるきっかけとなった事案までの日々の中でその親子がどの様に過ごして来たか、社会的交流や地域交流はあるのか、定期健診とワクチンは行っているのか、スマホ等も虐待してないなら育児記録や子供と過ごしている間の写真や動画を確認したらいいんじゃないですかね。

    せっかく子供が無事でも、冤罪で子供が奪われてしまったら、私なら確実に自殺しますね。間違いなく。

    くりーむ 女性 20代
  • エネゴリちゃん says:

    かわいそう
    冤罪なのに疑われ愛する子供と離れ離れになってしまうのは本当にかわいそう

    エネゴリちゃん 無回答 無回答
  • 匿名 says:

    親として、子供がどんな時に怪我をするのか予測しながら、なるべく危険から遠ざけながら、安全な環境で子育てする。のはごく当たり前の事だと私は思います…

    それでも親が自分の事に意識が向いていて、ちょっとくらいなら大丈夫だろうと目を離したそのちょっとで溺死・転落・転倒多くの子供が命を奪われています。乳児検診で頂いた冊子に書いてありましたが「この時期の事故は親の責任です。」そう、親の責任なんです!!目を離すなとは誰も言っていません。目を離しても安全な環境で目と手を離しましょう。
    ちょっとくらいなら大丈夫かな、ではなくここなら完全!を考えるのです。

    そしてこの記事、皆さんのコメントを読んで思いましたが、児童相談所がすべき事は引き離す事ではなく「親への親としての子供の安全な環境を守るための指導」ではないのでしょうか。しかしながら、病院から虐待の疑いがあるとの連絡が来た児童相談所の保護判断は、子供の命を守るうえで致し方ないと感じました。

    ベビーカーのベルトを子供が嫌がるからと付けないでのせている親のなんと多いことか!転倒して怪我をしたら…それは虐待ですか??
    社会全体で指導し子供の命を守りましょう。

    そして私は今、2歳半と動き始めた7ヶ月の子育て中です。ひとり目の時は子供の安全第一で子供のお世話以外、自分のことも家事も食事も適当にこなしていましたが、2人目ともなると上の子のお世話をしている間下の子はバウンサーかおんぶばかりです。発達のために自由に動ける時間も必要だと下に降ろしている時間は上の子の相手をしつつ安全を確保しつつですごく神経を使います。つかまり立ちをし始めたらどうしよう!?常に安全な環境に頭を悩ませています。いまでも家事は適当です。

      
  • 匿名 says:

    突然、親子が離れ離れになるのはつらいですが、でも、交通事故などの衝撃の強さ並みの事が、家庭内で起きる事なのでしょうか??つかまりたちの時期は、こけやすいですけど、この家庭内事故は疑問です。

      
  • 匿名 says:

    冤罪は、絶対に防がなければなりません。一方で、乳幼児は急性硬膜下血腫と重度の眼底出血しSBSを疑われました。それはなぜ起こったのでしょうか?保護者はその時の事情を説明できますが、乳幼児は、何の説明もできません。子どもの心の叫びを誰ばどう受け止めるかが大事となります。医師の専門的な意見が」に頼らざるを得ません。冤罪を作ってはいけないと子どもの傷を防ぐことはできなかったのか(子ども自身の命の叫びを拾うこと)2つの正義。
    私は、母親によるSBSが濃厚で幸い死亡には至らなかったが、重い障害のため今も施設で寝たきりの生活を送っている。母親は逮捕されず、次男を出産するという事態に、関係者が役割を決め小学校入学まで見守ってきた。児童相談所は、親を罰する施設ではない。子どもの声なき声を拾い保護者と一緒に子どもを育てていく施設である。

      

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