おたふくかぜに注意!合併症で難聴になる恐れ…予防接種をお忘れなく

(2017年10月31日付 東京新聞朝刊)
 子どもがかかりやすいおたふくかぜ(流行性耳下腺炎)を甘くみてはいけない。合併症により難聴になる危険性があるからだ。日本耳鼻咽喉科学会が初めて行った調査で、昨年までの2年間に全国で300人以上が難聴になったことが分かった。難聴になると治療してもほぼ改善しないため、専門家らはワクチンによる予防を勧めている。

2年間で300人以上が難聴に

 おたふくかぜはムンプスウイルスに感染することで発症。耳の付け根からあごにかけて耳下腺などが腫れて熱が出る。子どもがかかりやすく通常は2週間程度で治るが、合併症で無菌性髄膜炎などを発症したり、片耳または両耳が聞こえなくなる「ムンプス難聴」になったりすることがある。

 日本耳鼻咽喉科学会は今年初めて、全国の耳鼻科がある医療機関を調査。流行した2015、16年について調査表で聞いたところ3536施設から回答があり、336人が難聴と診断されていたことが分かった。詳細が判明した314人のうち約8割が生活に支障があるレベルの症状で、片耳難聴が300人、両耳とも難聴となったのは14人だった。難聴となった時期は10歳以下がほぼ半数を占め、子育て世代の30代にも多かった。

ウイルスが内耳に入りダメージ

 ムンプス難聴は、ウイルスが内耳に入り込んでダメージを受けることで発症。調査に関わった同学会の福祉医療・乳幼児委員会委員長で国立成育医療研究センター耳鼻咽喉科医長の守本倫子医師によると、おたふくかぜにかかった場合、ムンプス難聴の予防法はなく、治療を行ってもほぼ改善しない。補聴器を着けたり、両耳が難聴になった場合は人工内耳を埋め込んだりする手術が必要になることもある。

 守本医師は「おたふくかぜの後遺症に苦しむ人が大勢いる。保護者には子に予防接種を受けさせてほしい」と話す。学会は、ワクチンが任意接種となっていることから、公費で接種が受けられる定期接種に含めるよう国に求めていく予定だ。

ワクチンの副反応が指摘されたが…

 おたふくかぜのワクチンを巡っては、1989年から麻疹(はしか)、おたふくかぜ、風疹の混合ワクチンが定期接種で使われていたが、副反応による無菌性髄膜炎が報告されたことから93年に中止された。一方で、近畿外来小児科学研究グループが2004~06年にかけて行った調査では、ムンプス難聴はおたふくかぜにかかった人のうち1000人に1人の割合でなることが判明。大阪小児科医会理事で、調査にも関わったふじおか小児科の藤岡雅司院長は、「ワクチンの副反応で無菌性髄膜炎になるのは、1歳で接種したら1万人に1人程度。おたふくかぜにかかって難聴になるリスクの方がずっと高く、予防接種を推奨している」と話す。同医会は調査に合わせて06年におたふくかぜの予防接種を呼び掛けるポスター=写真=を製作し、会員の診療所などに配布した。

「あの時、予防接種をしておけば…」 今も悔やむ母親

 ムンプス難聴になった患者の家族らも、おたふくかぜの怖さを知ってほしいと訴える。

 関東地方の高校2年生の女子生徒(17)は、5歳だった2005年夏に保育園で流行していたおたふくかぜにかかった。その年の秋に「イヤホンの音が聞こえない」という生徒の訴えで母親(53)が耳鼻科に連れていったところ、左耳の聴力を失っていることが分かった。今も左耳は聞こえず、友達ともコミュニケーションが取りづらいという。

 母親は生徒がおたふくかぜにかかる約1年前に予防接種をしようと小児科を訪れていたが、医師に「おたふくかぜは自然にかかるものだから、打たなくていい」などと言われ予防接種を受けさせなかった。「医師でさえも難聴のリスクを軽く考えていたようだ。あの時、子どもに予防接種をしておけばよかった」と悔やむ。

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