地方の子ども重症患者 医療用ジェットで大都市の専門病院に運びます 来春にも実現
北海道で先行 大阪の病院へ
2019年10月、北海道・札幌丘珠(おかだま)空港から小型ジェット機が飛び立った。機内には、心臓に超小型ポンプを内蔵したカテーテルなどを装着した拡張型心筋症の10代女児。心臓の動きが急激に悪化して移植が必要なほどの危機的状態となり、主治医が付き添って治療を続けながら大阪の専門病院へ向かった。
病院間の移送は約4時間半。空港から手術室へ直行し、体外式の小児用補助人工心臓システムに切り替え、専門スタッフが治療に当たった。女児は約半年で回復し、翌年4月に民間機で北海道に戻ったという。
医療用ジェット機は主に北海道で運用されてきた。医療機関や医師会、自治体などでつくる「北海道航空医療ネットワーク研究会」が10年、研究運航を開始。国の補助金や民間企業の寄付金を活用し、人工呼吸器などを積んだジェット機を中日本航空(愛知県豊山町)が運航し、道内各地から主に札幌市の大規模病院へ2022年までに計315人の患者を搬送した。ほぼ半数が15歳未満で、先天性疾患が多かった。冒頭の女児のような拡張型心筋症や肝不全など重症患者13人を東京や大阪の専門病院にも運んだ。
「あれば助けられた子がいる」
日本小児循環器学会などの調査では、17~22年にドクターヘリを含む空路で18歳未満の患者160人を搬送した。搬送元の多くは都市部から離れた北海道や南九州、沖縄。天候などの理由で66人は時間のかかる陸路で運んだ。移植のための臓器をジェット機などで運んだ事例は249件。これとは別に、自衛隊や海上保安庁が搬送したケースもあった。
移植医療に携わってきた心臓血管外科医でJCCN理事長の福嶌教偉(ふくしまのりひで)・千里金蘭大学長(66)は「自分の経験では、医療用ジェットがあれば助けられた子が30人はいる」と振り返る。
災害派遣医療チームにも活用
JCCNの計画では、基幹病院として国立成育医療研究センター(東京)や国立循環器病研究センター(大阪)などを指定。24時間態勢で地方の病院からの要請を受け、専門の医療チームを東京・羽田空港や大阪・伊丹空港から派遣する。必要に応じて患者を基幹病院へ搬送。症状が落ち着けば早期に地方の病院へ患者を戻す。臓器や移植を受ける患者の搬送、災害派遣医療チーム(DMAT)の派遣にも活用する。
両空港に専用のジェット機を1機ずつ確保し、国の政策として搬送ネットワークを整備するよう求め、医療関係費や航空機運用費など年間約20億円の予算確保を国に要請するという。日本医師会などの医療団体や各学会も賛同しており、運用を支える特別措置法の制定も求める。
北海道での搬送を統括するメディカルディレクターで、手稲渓仁会病院(札幌市)の救命救急医、奈良理(さとし)さん(57)は「対象となる患者を明確にし、メディカルディレクターが機内での医療などについて助言するのが重要。安全な搬送のため医療と運航の担当者の意思疎通も必要だ」と話す。
なるほど!
グッときた
もやもや...
もっと
知りたい