子連れ出勤OKの介護施設 人材確保の後押しに、利用者は笑顔に
人手不足の介護現場 出産・育児で…
「おんぶして仕事じゃ大変だから、私が抱っこするよ」。認知症の女性利用者(81)が、生後5カ月の息子を連れた女性職員(31)に歩み寄り、赤ちゃんを抱き上げた。赤ちゃんはうれしそうに笑い、周囲にも笑顔が広がる。職員は「子どもと一緒に働けるのは安心」と目を細めた。
ここは東京都品川区の地域密着型多機能ホーム「東五反田倶楽部」。運営する社会福祉法人「新生寿会」(岡山県井原市)は、現場の戦力だった職員が出産・育児で辞めていく状況を変えようと、別の施設で十数年前から子連れ出勤の受け入れを始めた。当初「子どものための施設ではない。事故が起きたらどうするのか」と自治体に指摘されたが、厚生労働省の容認を得て継続したという。
子どもとの関わりが、リハビリになる
東五反田倶楽部は「地域で最期まで普通に暮らすことを支えるケア」がモットー。2017年の開設以来、地元の祭りに参加したり駄菓子屋を開いたりと、子どもを含む地域との交流を重視してきた。施設長の鈴木裕太さん(38)は「きょうだいが多い世代で、子育てのベテランでもある利用者にとって、子どもがいる生活は当たり前だった」と言う。
子連れ出勤は、利用者が子どもと生活する時間を生み出す。「施設というとリハビリやレクリエーションが一般的だが、ここでは認知症の有無にかかわらず生活の中で自分の役割があり、認め合う場所づくりを目指している」。利用者にとって、子どものためにかき氷器のハンドルを回したり、一緒に買い物に行ったりすることは、手足を使う生活のリハビリになる。家に閉じこもって通所を拒んでいた人が「子どもと過ごしたい」と積極的になる事例も多いという。
38人中10人が子連れ 他県から応募も
現在は職員38人のうち、女性10人が0歳から小学生まで12人の子どもを連れて出勤している。いつも2、3人の子どもが来ているという。職員を小規模多機能型居宅介護サービスで2人、認知症グループホームで1.5人、常勤換算で上乗せ配置しており、鈴木さんは「乳幼児がいても通常の介護サービスができる。人件費をかけても利用者へのメリットは大きい」と強調する。
冒頭の女性職員は「産休後の求職中という状況では保育の必要性を示す指数が低く、すぐに公立保育所には入れない。子連れで働けるところを探していた」と言う。次女(1つ)を連れて週5日働く別の女性職員(30)は「高いお金を出して私立保育所に入れるより、利用者さんにかわいがってもらえる方がいい」。子連れ出勤OKで求人を出すと他県からの応募もあるという。
介護施設の子連れ出勤について、国立長寿医療研究センター(愛知県大府市)老年学・社会科学研究センター長の島田裕之さん(50)は「高齢者が子どもと触れ合うことによる認知症そのものへの改善効果は明確でないが、心の安定や意欲の向上、生きがいなど心理的に良好な効果は明らかに期待できる。乳幼児の安全管理には十分に配慮すべきだ」と話す。
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