保育士が一斉退職…世田谷区の保育所が休園に 「企業主導型」の問題点とは

神谷円香、大野暢子、奥野斐 (2018年11月7日付 東京新聞朝刊)
 東京都世田谷区で今春開所した企業主導型保育所で、保育士5人全員が10月末に一斉退職し、11月から休園している。企業主導型は自治体が設置に関与しない認可外施設のため、区も運営実態を把握しておらず、利用家庭の親子に影響が出る事態となった。
写真 保育士が一斉に退職した「こどもの杜上北沢駅前保育園」=東京都世田谷区で

保育士が一斉に退職した「こどもの杜上北沢駅前保育園」=東京都世田谷区で

「今日で辞めたい」「給料が不安」園長と保育士が退職

 休園したのは、保育事業を手がける株式会社が運営する「こどもの杜(もり)上北沢駅前保育園」(世田谷区上北沢)。社長(47)によると10月中旬、園長はじめ5人の保育士が月末に退職すると申し出た。

 会社は他に運営する2園から保育士を回そうとしたが、その1つで同区内の「下高井戸駅前保育園」でも、園長ら保育士2人が10月31日に「今日で辞める」と退職。調整が付かなくなったという。

 社長によると、保育士らは退職の理由を「給料に不安がある」と説明した。社長は、内閣府の委託で助成金を支給する「児童育成協会」からの運営費支給が遅れていたことを明らかにした上で、「先々への不安があったのかもしれないが、未払いはない」と否定。会社から聞き取りをした同協会は「保育士と経営者の信頼関係ができていなかった」としている。

保護者「ようやく入れた園なのに」「他に移れるところもない」

 会社は下高井戸園では臨時の保育士を確保して運営を継続。上北沢園に通っていた10人のうち2人も受け入れ、上北沢園も再開に向けて保育士の確保などを進める。同協会や区も預け先について保護者からの相談に応じている。

 下高井戸園に転園した2歳男児の父親(42)は「急に休園と聞かされ驚いた。認可保育所などには入れず、ようやく9月に入れた園だったのに」と困惑。下高井戸園に一歳男児を預ける父親(28)は「保育士も友達も代わりすごく不安。でも、他に移れるところもない」と話した。

7月にも企業主導型が休園 不十分な自治体との情報共有

 世田谷区では7月にも、企業主導型保育所が園児不足で休園した。企業主導型は区に審査や指導の権限がなく、情報共有も十分ではないという。区が上北沢園の休園を知ったのも直前で、担当者は「情報を直接聞き取る権限があれば、休園に至る前に手が打てたかもしれない」と話す。

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待機児童対策の目玉政策だけど… 自治体の設置審査なし、指導は育成協会任せ

 企業主導型保育所は2016年度、政府が待機児童対策の目玉として創設した。企業が主に従業員の子どもを預かる認可外施設として急速に広がり、3月末時点で全国に2597カ所、定員は約6万人に上る。政府は20年度までにさらに定員を6万人増やすことを目指している。 

 一方、都道府県などへの届け出だけで原則、審査を受けずに設置できることや、保育士資格者が半数でよいなど認可保育所に比べて基準が緩いにもかかわらず、運営費などが認可並みに助成されるため、助成金目当ての参入や、保育の質に対する懸念が導入当初から指摘されていた。

 実際、制度を所管する内閣府から委託された「児童育成協会」が17年度、800カ所を調べたところ、76%で保育計画などに不備があった。今回のトラブルでは、自治体や公的機関が保育内容に責任を持たず、突然の休園という事態を食い止められない構造が浮き彫りになった。

 内閣府の担当者は「内容は把握しているが、各施設の運営や保育の質については、児童育成協会が個別に指導することになっている」と説明。参入基準の引き上げなど制度を見直す予定はないという。一方、同協会は「各施設の個別の状況まで逐一把握はできていない」としており、施設の急増に態勢が追いついていないのが実情だ

 東京都も児童福祉法に基づき10月、上北沢園に定例の立ち入り調査をした。下高井戸園も法令に基づかない巡回指導をしたが、運営面のトラブルは確認できなかった。都の担当者は「認可外施設は、基本的に利用者と施設の直接契約。新たな預け先の確保も一義的には施設側の責任」と話す。

 保育制度に詳しい寺町東子弁護士は「そもそも認可外施設を増やして待機児童解消を図る国の方針がおかしい。企業主導型は、児童育成協会に丸投げしているのも問題」と指摘。「設置に審査を必要としない代わりに、設置後にチェックして規制すると説明してきたのに、指導監督権限が強化されていない」と批判する。

企業主導型保育所とは

 企業が従業員向けに設けた保育所や、保育事業者が設立して複数の企業が共同利用する保育所などを指す。幅広い企業が負担する「事業主拠出金」が財源。基準を満たせば開設費用の4分の3相当の助成金があり、運営でも認可保育所並みの助成金を受け取れる。都市部で定員20人のモデル例では、助成金額は開設工事だけで1億円強になる。3月現在で全国に2597カ所あり、定員は計約6万人。

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  • 匿名 says:

    認可園と企業型園で働いたことがあります。認可園では、グループ内の3箇所ほどで必要に応じて補助にまわっていました。 
    先生方はいろんな方がいましたが、押し並べて子供達をとても大切にしていました。うちうちでは、揉め事も多くありましたが、子供達を可愛がっている事には間違いありませんでした。保育計画もしっかりしています。お昼寝の間も製作物やおもちゃの消毒、保護者への連絡帳やwebでの園便り、職員会議など皆さん一生懸命でした。

    ところが、企業主導型園は全てが違っていました。保育計画もなく、子供たちのお昼寝の間は、ずっとお菓子を食べてしゃべってばかり。匂いのきついファストフードを買ってきて食べていて、保育室中に漂わせています。何より驚いたのは、社員の保育士たちが保育の間中、スマホを見ている事です。子供たちが給食を食べている隣には座っていますが、ずっと下を向いてスマホを見てます。何を見てるのかと思えば、自分の好きなアイドルの記事でした。
    朝も子供達と歌を歌うわけでも、出席を取るでもなく、占いの話や、身の上話をしています。
    若い保育士が、経験もなく、注意指導してくれる人もいなくて好き勝手にしています。遅刻しても、なぁなぁになっていて、タイムカードの偽装までしています。

    子供達を着替えさせたりするときも、自分達ができるだけ動きたくないのか、腕を引っ張って子供を自分の近くに引き寄せてます。お昼寝の寝かしつけの時はもっとひどいです。一歳前後の子を布製の寝かしつけ座椅子に入れて、思いっきり揺さぶります。ひどい時は足で揺すってます。あまりにひどいのでリーダー手当をもらってる保育士に、揺さぶり症候群にでもなったら大変ですよ、と言いましたが、無視されました。
    心ある保育士はすぐ辞めていきます。とてもいい方が来てくださることもあるのに、そういう方は1ヶ月もいてくれません。残っているのは、ただ自分たちがどうやったら労力を使わずに、過ごせるかを考えている人たちばかりです。
    絶対に自分の子は、こんなところに預けられません。人の子でも、こんなところに来てほしくありません。私ももうじき退職しますが、その1番の理由が、園の説明会で集まった保護者の方に、この園を勧めることができないからです。

    企業型園の問題は、そこに働いているリーダー格の人や保育士のモラルだけに頼らざるを得ないことです。保育監査もないし、保育計画の提出義務もありません。
    実は、もう1つ他の企業型の保育園を知っているのですが、この園は、リーダー格の方が意識の高い方で、年齢も重ねてますし、本当に頭の下がる思いのする経営をしています。理念があって、とてもいい保育園なんです。ただ、これは稀なケースだと思います。ほとんどの企業型園は、私が勤めているようなところです。

      
  • 匿名 says:

    企業主導型だけ??
    認可保育園ではこの様な問題は全て隠蔽されてますよね。

      
  • 匿名 says:

    当初から予測されたことで、保育団体や親の会、有識者なども心配されていた通りの状況が発生したということでしょう。認可保育園や認定こども園では毎年監査が入り、チェックされていて最低でもその年度内は運営できるようにしているそうです。ただ、保育の質に関しては、認可・認定共に質を維持するのに苦労されています。株式会社や企業が運営する保育所が認められてから、初任給を高くし・住まいも用意し・田舎に帰省する際は旅費を補助する等々、一度は都会で暮らしてみたいという田舎の学生をごっそり採用して、地方は保育士不足に拍車がかかり一年中保育士を探している状況があるようです。そのことも、保育の質の維持を難しくしているのに影響しているようです。おそらく保育に関するノウハウや技術もそういう施設は不足していて、マニュアルで保育しているところが結構あるのではないでしょうか。知人の子どもも、都会にあこがれそのような保育園に入りましたが、経験者は園長と主任だけで、おまけにどちらも20代という保育園だったらしく夢を抱いて就職したのに一年で辞めて帰ってきました。もう保育園では働きたくないと言って違う職業についています。子いう問題も含んでいるんですね。所得制限を設けない無償化もおかしいですし、保育料が高いと生活にかなり負担のかかる若い保護者が多い3歳未満児が無償化の対象にならないのもおかしいです。福祉の予算配分も昔から、老人>障がい者>こども になっていて、おそらく選挙の票に直接つながる順に大きすぎる傾斜配分がされているのではないかと、穿った見方をついついしてしまいます。大臣や議員が保育所やこども園を見てきたかのごとく語ったりしますが、都会の保育園等を一寸見学しただけだろうなあと情報番組等を視聴して思います。全国津々浦々の状況は、それぞれ違います。どの産業にも同様のことが言えると思いますが、そこに適切な予算配分や対応を考えるのが議員や政府の仕事ではないでしょうか。OECD加盟国でも子どもにかける予算はかなり低い位置を維持しているようですし、福祉全般に言えることかも・・・・・
    国から将来に借金を負わされている子ども達です。成人に達するくらいまでは、十分な補償を考えることで防ぐことのできる問題でもあるのではないでしょうか。その為には予算の徹底的な見直しが必要でしょう。企業を優遇しても内部留保だけで働く人への還元は微々たるもので、社会保険料等天引きされるものは知らないうちに上がっていて富裕層の方々以外は、所得が増えたと実感している方は非常に少ないのではないかと思います。とにもかくにも、子ども達ファーストで、考えてほしいものです。(社会福祉法人理事)

      
  • 匿名 says:

    子供の安全と保育をないがしろにして利益だけを受けるやり方には憤りさえ感じる。

      
  • 匿名 says:

    企業主導型保育園に勤務していますが、園長は資格がないし、仕事中でも外に行って煙草は吸うし資格もない、社会経験もない人が、普通に園長と言えるのが信じられない。我慢できず退職していく保育士もいる。片付けも出来ない人で、事務室はゴミだらけ、個人情報管理もしていないし、園児の情報ファイルも出したまま。ありえません。園長も口は悪いし虐待しそうで怖い。

      

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