性虐待を受けた子どもを支える「CAC」とは 児相・警察・検察・医療の面接を一度に まだ全国で2カ所だけ

(2024年3月13日付 東京新聞朝刊)
 虐待や性被害を受けた子どもから話を聞き、事実の究明や心のケアを行う「子どもの権利擁護センター(CAC=Children’s Adovocacy Center)」が神奈川県内にある。児童相談所や警察、医療機関などへ個別に何度も足を運ぶ負担をなくし、関係者が集まり一度に聴取できる点が特徴だ。米国で生まれた取り組みだが、日本国内では十分に認知されておらず、設置は神奈川県内の2カ所にとどまっている。

司法面接をモニターで視聴するための別室を案内する山田不二子さん=神奈川県伊勢原市で

国内初、2015年に伊勢原に 

 小田急小田原線の伊勢原駅(伊勢原市)近くのビルに入る「CACかながわ」。虐待防止に取り組むNPO法人チャイルドファーストジャパンの理事長で、内科医の山田不二子さんが2015年、国内で初めて開設した。

 幼児が被害者となった際に警察から依頼があるほか、教師による性虐待を学校で適切に調査してもらえなかったと訴える親子らからの相談がある。ただ、その数は年間3~19件にとどまる。

「大丈夫」セラピーの役割も

 待合室では、大きな熊のぬいぐるみが出迎える。子どもに安心感を与える配慮だ。

子どもを出迎える熊のぬいぐるみ

 専門スタッフが面接する部屋の天井にはカメラを設置。別室の山田さんと児相、警察、検察の関係者が映像を視聴できる。追加質問は電話で伝え、面接はなるべく一度で済ます。この手法を「司法面接」という。

 面接後は、隣の診察室で山田さんが全身を診る。家族からの性虐待を明かさなかった少女が、診察後に山田さんから「あなたの体は傷ついていないよ」と伝えられると突然泣き崩れたという。診察で虐待の証拠が得られるケースはわずか。それでも「性被害を受け、ふさぎこむ子に、大丈夫だと伝えるセラピーとしての役割がある」と語る。

米国には1000カ所以上も

 1月には普及のため来日した米国のNationalCAC理事長クリス・ニューリンさんが見学に訪れた。「米国では児相や警察などの関係者が同じ建物内で働いており、事件発覚から48時間以内に面接できる」と言う。CACは米国で1985年に開設され、今は全米で1000カ所以上に広がる。英国やアイスランド、カナダ、オーストラリアなどで導入が進む。

 日本でも2015年に、司法面接に倣い、児相、警察、検察が連携して面接をする「協同面接」を実施するよう国が通達した。3者のうち、協同面接の手法について数日間の研修を受けた1者が面接する。ただ、医療者や専門の面接官が加わらない点が司法面接と異なる。 

子どもから被害を聞き取る面接室を見学するニューリンさん(右)

 法務省によると、協同面接は2020年度、2124件実施され、増加する傾向にある。ただ、山田さんは「検察が起訴できる証拠が見込めないと判断した場合など、面接を行わないこともある。被害からの回復のためにも全員から話を聞くべきだ」と訴える。

設置と支援を…国に要望書 

 運営費も課題だ。年間で数百万円が必要だが、CAC事業単体では赤字。NPOの収益や寄付で穴を埋める。米国では、政府の補助金と寄付で運営している。山田さんらは昨年末、別のCACを運営するNPO法人、子ども支援センターつなっぐ(横浜市)や賛同する医療機関など9団体連名で、国に設置と運営支援を求める要望書を提出した。

 本紙の取材に、法務省の担当者は「CACを含む海外の取り組みを参考に、協同面接の場所や方法についてさらなる検討を行う」と述べた。CACの整備に関し、ニューリンさんは「自分の子どもが性被害に遭ったらと考えれば、緊急度は高いはずだ」と呼びかける。

コメント

  • 私も良い取り組みだと思う。これとともに性加害への厳罰化を強く主張したい。なぜか「加害者」への配慮を主張する人が少なくなく、立法化の動きが芳しくないようであるが、このような案件は「被害者の気持ちに寄り添
     男性 50代 
  • 素晴らしい取り組みだと思います。 ようやく、性被害に日本が目を向けられる時代になってきており、聞き取り件数も今後増えることだと思います。 そんな中、性被害への聞き取りの中で被害を受けた子どもが再び
    ゆき 女性 40代