家族で行く「保育園留学」が人気、キャンセル待ち一時2000組 自然豊かな地方に短期滞在、都会ではできない特別な体験を

河野紀子 (2024年6月5日付 東京新聞朝刊に加筆)
 自然豊かな地方に家族で短期滞在し、子どもは現地の保育園に通う「保育園留学」が人気を集めている。コロナ禍でテレワークが普及したことも後押しし、子どもに新しい経験をさせたいと申し込みが相次ぐ。受け入れる自治体にとっても、地域の活力につながると期待は大きい。開始からわずか2年で、「留学先」は北海道から九州まで約40カ所に広がっている。
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岐阜県美濃市に保育園留学し、笑顔で泥遊びをする坂本來花ちゃん(母の佑奈さん提供)

人見知りだった娘が…留学後は活発に

 「娘は広大な園庭やたくさんの遊具で思いっきり遊んでいた。自分たちが収穫した野菜で作ってもらったスープは、すごくおいしくて何度もおかわり。都会ではできない貴重な経験だった」。東京都の会社員坂本佑奈さん(35)は、岐阜県美濃市で昨年10月から2週間、当時年少の長女來花(らいか)ちゃん(4)と保育園留学した。

 ニュースで留学を知り、「娘の成長につながれば」と参加を決めた。夫は仕事があり、次女梨里花(りりか)ちゃん(1)の育休中だった坂本さんが、娘2人を連れてゆかりのなかった同市へ。ゲストハウスに滞在し、長女は近くの美濃保育園、坂本さんと次女は園内の子育て拠点などで過ごした。

 「長女はすぐに友達ができて、新生活を楽しんでいた。高さ2メートルほどの竹の遊具から、友達と一緒にシューッと滑り降りてきたときはびっくりした」と坂本さん。他の園児の親や先生、近所の人も優しく声をかけてくれて、地域で歓迎しているのが伝わったという。

 長女は人見知りで物おじする性格だったが、留学後は活発になった。新しい環境に飛び込んだ経験が、本人の自信につながったと感じている。坂本さんは「子どもの成長に自然や環境がとても重要なんだと改めて知った。子どものためと言いつつ、親子で特別な体験ができた。またぜひ参加したい」と笑顔を見せる。

SNSで反響を呼び、2022年に事業化

 食を通じた地域おこしなどを手がける「キッチハイク」(東京)は、2022年に事業として「保育園留学」を始めた。代表の山本雅也さん(39)がその前年に、仕事で関わりのあった北海道厚沢部(あっさぶ)町を家族で訪れたのがきっかけだった。

 滞在した3週間、当時2歳の娘は一時預かりを利用して町内のこども園に通い、広い園庭で元気いっぱいに走り回った。住んでいた横浜市の保育園は園庭がなく、近くの公園も狭い。散歩してもビル群で自然が少なく、都会での子育てに疑問を感じていた。

 「娘は他の園児にまじってのびのびと遊び、言葉がすごく増えた。3週間でこんなに変わるとは驚いた」と山本さん。町での日々をSNSで紹介すると、反響が大きく、事業化を決意。町に掛け合い、2022年4月に本格的に始めた。最初は厚沢部のみだったが、150組の申し込みが殺到。一時はキャンセル待ちが2000組に上った。

40カ所の留学先 保護者はテレワーク

 対象は、0~6歳の未就学児と保護者。期間は1~3週間で、施設によって条件が異なる。提携先の自治体は約40カ所に増え、英語教育が充実していたり、雪遊び体験ができたりと、施設ごとに特色を打ち出す。

 滞在先は保育園近くのゲストハウスや古民家、ホテルなどで、テレワークができるようにWi-Fi環境を整備。費用は子ども1人、保護者2人で2週間の場合、保育料と宿泊費を含めて20万~30万円ほど。きょうだいでの参加もできる。

 保護者は休暇を兼ねたワーケーションの人、育児休暇中の人などさまざまだ。山本さんは「保育園は地域の特色を生かした行事があって多様性に富んでいる。旅行ではなく新しい環境で過ごす留学だからこその良さがある」と話す。

夏休みの「小学生留学」もスタートへ

 これまでに、首都圏や関西など都市部から約500組の2000人が参加。「いろいろな環境や価値観があることを子どもが体験できた」「大自然を満喫しながら家族との時間を見つめ直す機会になった」などと好評で、リピーターも多いという。

 小学生の子どもを持つ親からの問い合わせも多く、1~3年生と保護者を対象とした「小学校留学」を近く始める予定だ。学習面で影響が出ないように、夏休み期間を想定。学童保育の一時預かりサービスを活用するいう。

 保育園留学によって地方の暮らしを気に入り、留学先に移住したケースも出てきた。山本さん自身、テレワーク中心で家族とともに厚沢部町に引っ越した。「留学先が第二の故郷になり、移住しなくても旅行で訪れたり、特産品を買ったりとつながりが続くといい」と願う。

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