母親21年生、卒業します! 「良妻賢母」から解き放たれてわかった「待つって相手を信じること」
「卒母(そつはは)します!」
グラフィックデザイナーの田中千絵さん(51)が家族に宣言した。頑張りすぎないで見えてきた「待つ」ことの大切さとは-。

「卒母」の経緯について語った田中千絵さん=東京都豊島区で
「家のことをやりすぎ」と気づいて
「卒母のためにやってみた50のこと」(大和書房)は、田中さんが2024年春に出した本で、文字もイラストも手書き。まめな友だちから借りたノートみたいな一冊で、240ページをいっきに読むことができる。
きっかけは新型コロナウイルス禍だった。夫と当時大学生と高校生だった息子2人が家にいることが増え、距離が一段と近くなった。大学院で家族を見つめ直すために心理学を学ぼうと考えていた中、あることに気付く。
「子どものことや家のことをやりすぎているかな」
デザインの仕事をしながら、どこかで「良妻賢母」を目指し、無理をしてきた。何をやりすぎていたんだろう? 23年1月から、自分がしていた家事と1日を振り返り、「しすぎ」ていたことを見直していく。

卒母のためにやった「家族のハブを降りる」(田中さんの著書から)
まずは洗濯。家族全員分の洗濯をしていた日常を変えた。それぞれの洗濯かごを用意し、「これぐらいの量がたまったら洗えばいい」と伝え、好みの柔軟剤も選んでもらうようにした。
息子たちが成長し、家族みんなでの食事は減った。そこで、キッチンをみんながいつでも使える「共同使用エリア」にした。冷蔵庫を仕切り、買い物、調理、片付け、賞味期限の確認もそれぞれの責任にした。
意識した「寮母」のような立ち位置
基本は自分のことは自分で。適度な距離感を保つ「寮母」のような立ち位置を意識した。家族と話し合い、実績を重ねていく。

田中さんが2023年3月28日にインスタグラムに投稿したイラストと文章
同時に自分が「やったこと」のイラストと文章を紙に書き、写真をパチリ。SNSのインスタグラムに投稿すると、共感のコメントが寄せられた。
「母親をやりすぎていたのは私だけではないんだ」
卒母を宣言し、家事を見直すことは「かなりのストレスだった」という。つい口を出したり、やってあげたりしたくなるから。
「待つことが一番の壁だった。でも何かを変えるにはそれしかなかった。子どもはできないと思いがちですが、『大丈夫、見ているから』という距離感が大切だと思う。待つって相手を信じることでもあるから」

田中さんが2023年4月13日にインスタグラムで投稿したイラストと文章
母であることは変わらない。自分の時間、出会いが増え、よく眠れるようになり、健康診断でいろいろな数値が改善した。何よりも「私」の人生の輪郭をはっきりと描けるようになった。だから夢がふくらむ。
「将来は老人ホームをつくりたい。女性は長生きするので孤立しがち。お互い助け合いながら生活できる場所をつくりたいですね」
田中千絵(たなか・ちえ)
1974年、東京都生まれ。武蔵野美術大卒業。福岡市のNPO法人Chou・chou(シュ・シュ)理事。インターネットの音声配信サービス「Voicy」で「毎日10分『50代から自分サイズで生きるアイデア』」を配信。臨床心理士の宮島篤子さんとポッドキャスト「母ラジオ」も毎週火曜に配信している。いずれも田中さんのウェブサイトで紹介している。
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