直木賞作家・今村翔吾さんが「作家サンタ」に込めた思い 厳しい環境の子どもに物語を届けるブックサンタを応援したい

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ブックサンタと「作家サンタ」について語る今村翔吾さん

 直木賞作家の今村翔吾さん(39)は今年、「作家サンタ」として、病気や経済的困窮など厳しい状況にある子どもたちへクリスマスに本を贈るNPOの取り組み「ブックサンタ」を後押ししています。発起人として呼び掛け、作家たちに「おすすめの一冊」をNPOのホームページで紹介してもらい、本を寄付したい人の参考にしてもらう試みです。精力的に作品を世に送り出しながら、書店の経営や本のファンを増やす活動も手がける今村さん。多方面での活躍にひかれ話を聞いてみると、いずれの活動も、「子ども」という存在や、「子ども時代」の体験に寄せる思いが軸にあることが伝わってきました。今村さんが子どもたちに注ぐ視線とは―。

ブックサンタとは

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ボランティアのサンタクロースから絵本を受け取る子ども(2020年12月撮影)

 ブックサンタはNPO法人チャリティーサンタ(東京)が主催する、2017年に始まった取り組み。参加する書店で本を買い、その場で寄付すると、プレゼントの受け取りを希望した家庭をボランティアがサンタクロースに扮して訪ね、0~18歳の子どもにプレゼントする。病院や施設にも届ける。今年は新たに「作家サンタ」の取り組みをスタート。今村翔吾さんをはじめ、北方謙三さん、黒柳徹子さん、江國香織さんら10人の作家が参加している。

子どもの頃の「1度」の違い 大きな差に

-ブックサンタでの新しい取り組み「作家サンタ」の発起人になりました。経緯をお聞かせください。

 出演したニュース番組がきっかけでブックサンタを知り、とてもいい取り組みだと思いました。僕が経営する書店「きのしたブックセンター」(大阪府箕面市)もすぐに加盟しました。同時に、作家もこの活動を知らない人が多いのではないか、作家が呼びかける側にならないといけないと考え、「作家サンタ」を提案しました。

「ブックサンタ」の公式サイトで、作家サンタを説明するページ

-「ブックサンタ」の取り組みについて、どう思いましたか?

 「子どもたちに」というのが、いいなと思っています。

 作家の宮城谷昌光さんとお話しする機会をいただいた際に、宮城谷さんから第一声で「君の小説はなぜ子どものシーンからはじまるんだい?」と聞かれたんです。僕は意識したことがありませんでしたが、「童の神」も「塞王の楯(さいおうのたて)」も「じんかん」もそうでした。「君の来し方を教えてください」と言われ、ダンスを子どもたちに教えていたことを話すと納得されていました。

 僕は、子どもの頃の経験は、大人になった時に非常に大きく影響すると感じています。主人公がマイナス面を大人になっても抱えているとすれば、その原因の発端は子どもの頃にあることが多かったり、逆に優しさや強さを持ちあわせていることは幼少期の体験に依拠していたりする。だから、「こういう人物になるには、こんな幼少期があっただろう」とリンクさせて考えています。

 子どもの時に進む方向の角度が1度変われば、大人になるにつれ、その1度の違いで生じた幅はどんどん広がっていく。大人になってから角度が1度変わっても、そこから死ぬまでに変わる幅は狭くなります。

 プラスでもマイナスでも、1度の違いが生涯において大きな差になる子どもによい物語を届けて、何かを感じ、経験してもらえるのは絶対にいいこと。対象が「子ども」だから、僕は頑張って協力したかったんです。

受け取った子がいつか、誰かのサンタに

-ダンスインストラクターとしてダンスを教えてきた中で、厳しい環境の中にいる子どもたちとも出会ったと聞きました。今村さんはなぜ、「子ども」を重要視しているのですか?

 僕はダンスインストラクターだった時も、作家である今も、「子どものこと」を考えるという芯は変わらずに持っています。

 これは僕の肌感覚ですが、厳しい環境にいる子どもたちの方が物語に触れる率は低いです。物語だけでなく、文化的なもの全般についてそう。衣食住が最初に来て、文化的なものはプラスアルファになるケースが多い。

 図書館は一定のセーフティーネットになっています。けれど、僕は「あなただけの本」と「借りる本」には大きな違いがあると思っています。子どもには自分の本、あなただけの物語を持ってほしい。この活動で、その機会が少しでも増えるといいです。

写真 今村翔吾さん

-やはり、子どもたちには本をたくさん読んでほしいと思われますか?

 不思議なもので、本とたくさん出会えたから、「あなたの一冊」に出会えるかというと、会えない時は会えないんですよね。本と人には磁力みたいなものがあって、自分が選んだわけでもない、好みそうでもない本が、その人の「人生の一冊」になることもあります。

 今回、ブックサンタで届いた本がたまたま自分の望んだ本でなかったとしても、「こういう取り組みをしている大人がいる」と子どもたちに知ってもらうことこそが重要なんです。本っていうものを大切にしている、人生を変えうるものになるかもしれないと思っている大人たちがいて、本が届くまでに至る物語がその子たちにどう映るかが大事。

 読んで大切な一冊にならなかったとしても、本に力があると信じている大人がいるということが子どもたちに伝われば、まずは一歩。本っていいものなのかな?という感想を子どもたちが持てば、図書館へ行ったりするかもしれない。きっかけ作りは本が届いた時点でゴール。最低限の役割が果たせています。

 一番うれしくて楽しいなって思うのは、本を受け取った子たちが、今度は誰かのサンタになるってことやね。その子たちが誰かのブックサンタになれれば、サンタは滅びません。

書店経営を手がけて、見えてきたこと

-作家として活動しながら、なぜ書店の経営も手がけているのですか?

 きっかけはふたつあります。ひとつは、友人から「書店のオーナーになる話があるよ」と言われたことです。「作家と書店は違う」と一度は伝えたのだけれど、調べるうちに「その書店がなくなったら駅もなくなるんじゃないか」と気になって見に行きました。

 正直、踏み出すつもりはなかったんです。だけど、おばあちゃんと小学校低学年くらいの女の子という一組のお客さんがやってきたのを見た時に、僕も祖父によく本を買いに連れていってもらったことを思い出しました。そういう場所をなくしてしまうのか、ここがなくなったら、その思い出ごとなくなってしまうのかなって。ここで出合ったのも縁だから、自分にできるなら、やってみようと思ったんです。

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書店事業を承継した大阪府箕面市のきのしたブックセンター店内で思いを語る今村翔吾さん(2021年11月撮影)

 もうひとつは、この出版業界についてもっと知りたいと思ったことです。

 僕も含めた作家の悪い癖で、「自分たちは書くことしかできない」とよく言うんです。だけど、僕はそうじゃないと思っています。

 もちろん書くことは大切。そこをないがしろにはしません。僕自身、インタビューで「書店は大変」とフワッと答えていたのですが、でも、もし「何が大変なんですか?」ってさらに質問と答えのラリーを続けたとしたら、出版業界の厳しさについての答えに詰まってしまうと気付いたんです。何が本当に大変なんやろ?って。これは書店をやるしかない、やってみたらわかるなと思いました。

 実際始めてみると、業界の解像度が上がり、問題も見えてきたんです。やってみてから考える。やってみて、そこで見えることをやってみる。外から見ているだけでは、答えは見えてこないんです。

-書店の経営をはじめ、作家以外の活動は作品にも生かされていますか?

 循環しています。僕はいろんな活動をする中で、生の人の感情や喜怒哀楽、ずるさ、美しさを目にしながら、「歴史の中でもこういう人がいただろう」というものを生々しく書いています。それが僕の小説の熱さとか、「人っておろかだけど、やっぱり美しいよね」という内容につながっています。

作家たちは、子どもをなめずに選んだ

-「作家サンタ」では、作家のみなさんが子どもへ贈る本を選んでいます。今村さんは山田風太郎さんの「甲賀忍法帖」を選びました。どんなところに魅力があるのでしょうか。

 今でこそ、漫画やアニメ、映画のジャンルとしてメジャーで、テンプレートになっている「戦いもの」。これを世界ではじめて考えたのが、山田風太郎です。

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今村翔吾さんおすすめの一冊「甲賀忍法帖」(山田風太郎)

 ヒーローものなどの創作エンタメの起源がこの山田風太郎の小説「甲賀忍法帖」なんです。「ハンターハンター」や「ジョジョの奇妙な冒険」なんかも、ここからはじまったと思えば面白い。まるで最近書いたようなプロット(筋書き)なので、子どもたちは60年前の本だということに驚愕(きょうがく)すると思います。

-作家サンタが選んだ本には「子どもには難しいのでは?」と思うような本もあります。ラインアップを見てどう感じますか?

 参加した作家みんなが共通して理解していることがあります。子どものことをなめてないんです。自分たちの経験上、「これは読める」ってわかっている。僕の分厚い「塞王の楯」も、8歳の子が読んでいます。「学校から帰ってきたら、ランドセル放りだして、熱中して読んでいます」と。

表 「作家サンタ」が選んだ子どもたちへ贈りたい本のリスト

 それを考えると、僕らが勝手に対象年齢みたいなもので区切っているだけで、もしかしたら30歳にとっても「まだ早い」小説はあるかもしれないし、小学校低学年でも「全然早くない」小説もあるかもしれない。

 作家たちの選択は、子どもの可能性を狭めてないんだと思います。今の段階では読めなくても、テレビの横に置いてある本がふっともう一回、人生の隙間に戻ってくることがある。そういうことも、作家たちはわかっています。だから、あまり対象年齢で区切っていないんです。作家のみんなが選んだ本を見て、同じ感性を持っているんだな、とうれしくなりました。みんな、自分の一番おすすめしたい本を選んだんだと思います。

本の魅力とは 最後の1%は読者が…

-活字離れが進んでいる中で、「物語を届けるサンタ」としての思いは?

 業界全体が縮小していて、書店は減っています。僕は本だけが特別だとは思わないようにしています。本は滅びる時が近いのかもしれませんが、人類の歴史の中ではいろいろなものが滅んできました。本だって、同じ道をたどってもおかしくありません。

 ただ、まだジャッジをするには早い。それを決めるのは、「ブックサンタ」を受け取った子どもたちやその次の世代。その世代がジャッジするまでに、滅びさせるわけにはいきません。

 なんとか次の時代にこの文化を維持しながら残していかなあかん。本当に本が必要かどうかを冷静に考えた時に、僕も理論的には証明できないし、動画コンテンツなどに負けているとも断定できません。本を信じたいから、次の世代に任せるために贈る。そのために、未来の読者を育てる。本の力を決めるのは、僕たちじゃなくて、ブックサンタを受け取った子どもたちやと思います。

-本にはどんな力があると、今村さんは思いますか?

 本を読んだことのある人はわかっている感覚があるはずやねん。でも、この感覚を伝えるためには、本を読んでもらうしかないんです。  

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クリスマスに向けた絵本や児童書が並ぶ書店(紀伊国屋書店新宿本店)

 本の力については、「人生を変える」とか、いろいろな角度からいろいろな人が言い尽くしてきました。ただ、本の良さのうちの99%を言葉にできたとしても、100%ではないんです。100%を味わってもらうには、読んでもらうしかない。残りの1%、言葉では伝えられないものが何かあるとするならば、それが本の魅力なのかもしれない。

 本は作者や出版社の一方的な発信ではなくて、誰かが読んで完成するもの。最後の1%は読者が埋めるもので、この1%がめちゃくちゃ重要なんです。

 僕の書く物語は一つなのに、読んだ人それぞれの物語になっていく。本を読んで、あなただけの物語にしてほしいなって思う。作家はそのお手伝いをしているようなものです。

時間に余裕ある小学生時代に親しんで

-絵本の読み聞かせなど、子どもたちは小学生までは本に触れる機会が豊富です。ところが、中学・高校に進むと部活や勉強などで忙しく、本から離れてしまう子がたくさんいます。

 中高生が本から離れないようにすることではなく、本から離れた子が、いつこの業界に戻ってくるのかが大事。離れてしまう子にするべきことは、小学生時代にあるのだと思います。

 中高生に比べれば、小学生の方が比較的時間に余裕があります。この時期に、本っていいもんだよってわかってもらえれば離脱を防げるし、一旦離脱しても、「本を読んで楽しかった」という体験から、社会人になって戻ってきたり、さらに言うと定年してから戻ってくるパターンもあります。要は、離れる前が重要なんです。

写真 今村翔吾さん

 僕は本を読むのを、もう少し授業の時間の中に組み込んだ方が、教育的にもいいと思っています。何かのために読むのではなくて、読むだけの授業があってもいい。この業界のためだけじゃなく、いろんな分野に波及させるためにも、本を読むことは必要です。

あなたも「作家サンタ」になれます

-最後に、ブックサンタを受け取る子どもたちへメッセージをお願いします。

 0~18歳までの子がいるとわかっていて言います。やっぱりサンタクロースはいます。これからも、物語を届けるサンタクロースはどんどん大きくなって、広く多くの人に届けられるように頑張っていきます。

-今後も作家サンタは続けていきますか?

 100人くらいまで増やしていきましょう。この取り組みは、読み手を育てる面もありますが、その先の書き手を育てることにもつながる可能性がある。ブックサンタを受け取った誰かが、いつか作家サンタになるかもしれません。20年後、30年後…。早ければ、10年もたたずに。

 あなたは読み手だけでなくて、書き手にもなれるよ。あなたも作家サンタになれます。

◇「作家サンタ」と選んだ本の紹介ページはこちらです(ブックサンタ公式サイト)

写真 今村翔吾さん

今村翔吾(いまむら・しょうご)

 1984年、京都府生まれ。ダンスインストラクターや守山市立埋蔵文化財センター勤務などを経て、2017年に「火喰鳥(ひくいどり) 羽州ぼろ鳶(とび)組」でデビュー。2022年には、滋賀を舞台に石垣を積む石工集団と鉄砲鍛冶の戦いを描いた「塞王の楯(さいおうのたて)」で第166回直木賞を受賞した。作家以外の活動としては、存続の危機にあった大阪府箕面市の書店を2021年に事業承継し、リニューアルオープン。2022年3月には、一般社団法人「ホンミライ」を設立し、小中学校を中心に本の普及に取り組む。12月には、書店のなかったJR佐賀駅に「佐賀之書店」をオープンし、2カ所目の書店経営に乗り出す。大津市在住。

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  • タカネェ says:

    本屋がどんどん無くなって行く( ; ; )凄く寂しい😞子供も大人もどんどん本を読んで欲しい、知らない事が一杯有り本で教わる事も多い^ ^泣いたり笑ったり、テレビでは得られないいい事一杯ですよー^ ^私は幸せ^ ^本友達が居るからです♪

    タカネェ 女性 70代以上

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