子育て中、親自身の健康を気遣えていますか?仕事との両立は必要ですか?〈東京すくすく6周年イベントレポート〉
第1部 「ありがとう」と今、伝えて フリーアナウンサー清水健さん講演
妊娠中に妻の乳がんが分かって…
妊娠中に妻の乳がんが分かりました。妊婦健診の際に胸の張りを医師に相談し、「念のため」にした検査でした。
僕はキャスターとして平日4時間の生放送があったので、検査に付き添うことはなかった。妻は一人で病院に行って、一人で結果を聞きました。妊娠中に乳房の全摘手術をしました。
息子が生まれて1週間後、おなかに赤ちゃんがいる時にはできなかったCTやMRIの検査をし、今度は僕が一人で結果を聞くことになります。今でもはっきり覚えています。先生はひと言。「清水さん、ひどいよ」。がんが全身に転移していて、もう何もできない状態でした。
どんな言葉を初めにかけますか?
検査結果を聞いた2時間半後、僕は妻と息子の待つ病室に帰りました。妻は息子を膝に抱いて笑顔で待っていました。笑顔で「どうだった?」って僕に聞きました。
少しだけ想像してください。みなさんが僕と同じ立場だったら、どんな表情で帰りますか? どんな言葉を一番初めにかけますか? 待っている立場だったら、どんな言葉をかけてほしいですか? 答えなんてありません。どんな言葉でも正解です。
僕は本当のことを言えませんでした。妻には「まだまだ息子といられる」と思って息子と向き合ってほしかった。でも、9年たった今でも、あれでよかったのかなと振り返る僕がいます。
ずっと言えなかった「ありがとう」
悲しみの形はどんどん変わっていきます。息子の入学式、うれしかったけれど、さみしい。「成長した姿をなんで一緒に見られへんの?」と思っています。
みなさん、日々子育てに仕事に大変だと思います。自分自身を思い切り甘やかして、大切にしてください。そして、隣にいる家族に、ぜひ「ありがとう」と伝えてください。妻に本当の病状を伝えなかった僕は、最後まで「ありがとう」が言えなかった。伝えたら妻は「どうして?」と僕に聞く。妻の意識がなくなって初めて伝えることができたんです。今という一緒にいる時間があるのなら、「ありがとう」という言葉、かけていきましょうね。
第2部 両立より、目の前に集中 「シナぷしゅ」生みの親・飯田佳奈子さんとの対談
毎年、夫婦で人間ドックデートに
―子育てをしていると、自分で自分を頑張らせてしまう面があります。
清水さん 「今目の前にいる子どもたちが一番大事」となって、自分のことが後回しになりがちです。乳がん検診の受診率もまだまだ低く、その原因は、やはり毎日忙しいから。「検査結果が怖い」という人もたくさんいます。
飯田さん 私は祖母も母も乳がんになったこともあり、自分ごととして捉えています。毎年必ず、夫婦でデートとして人間ドックと脳ドックに行くようにしているので、年に2回のデートが担保されます。夫婦のコミュニケーションの一つとして行っています。
清水さん それはとてもいいですね。
―子育てのモットーは。
清水さん 子どもが動画などを視聴する中で、乱暴な言葉にもたくさん出合うけれど、「人を傷つけるような言葉は絶対に使っちゃいけないよ」と言い聞かせています。
飯田さん 「向き不向きより、前向きに」をモットーとしています。子育てって、自分に向いていなくてもやらなきゃいけないことがある。私にとっては寝かしつけ。やらなきゃいけないから、前向きにやる。あとは「何かをしながら叱らない」。ご飯をつくりながらではなく、いったん自分の手を止めて、ちゃんと子どもの目を見て、「(私の)目を見なさい」と言って伝えるようにしています。
深く考えすぎず目の前のことに全力
―イライラするときの対処法は。
清水さん 反省を大事にしています。自分がイライラして何の意味もないのに叱ってしまったな、と思う自分を大切にしています。
飯田さん 私は怒りっぽい短気な性格。自分なりのアンガーマネジメントとして、イラッとした時は自分の頭の上にバターを置くイメージをする。私のイライラの熱で溶けたバターが、自分の体の表面を覆う様子をイメージすると怒りが和らぎます。
―独特ですが、溶けたバターは幸せなイメージですね。続いて、ポジティブに過ごすために大切にしている考え方や習慣は。
清水さん 子どもと一緒にとことん遊びきることです。一緒に疲れるのが一番。僕自身が幸せだし、そうやって家に帰っていくのがいい。
飯田さん 深く考えない。とりあえず目の前のことを一生懸命やる。何ができていないとかくよくよしないで、目の前にあるこの状況が最高に楽しいな、という気持ちで生きています。子どものことは読めない。来週、仕事こういうふうに頑張ろう、と思っても熱を出したり。事前に深く考え過ぎてもうまくいかないことも多いので、目の前のことに全力で、と思っています。
―仕事と子育ての両立で工夫・失敗したことは。
飯田さん 両立する必要ってあるんだっけ、ということをお伝えしたいです。両立っていう言葉がすごく自分を苦しめていたことがあります。家にいるときは子どものことを、会社にいるときは仕事を一生懸命やって、それでも抜け落ちることもある。それでいいと思うんですよ。両立って考えると、すごく難しくて苦しいので、とりあえず今は目の前のことを一生懸命考えて、自分に上手に言い訳をしながら生きていってほしい。私もそうしています。
清水さん 両立を手放すっていうのはすごくいいかもしれない。
飯田さん 子どもを見ていると、無限の可能性があると思います。でも同じように自分にも無限の可能性がある。子どもの人生の可能性を広げていくように、自分の人生の可能性も広げていきたいです。
「小さい子が動き回ってもOK」やさしい雰囲気の会場に 来場者のみなさんの声
当日は約100人の赤ちゃんやよちよち歩きの子も来場。主催の私たちも、こんなに多くの小さいお子さんをお迎えするのは初めてでしたが、開催の趣旨に賛同してくれた登壇者のお二人や企業のみなさんのおかげで、とても温かい雰囲気のトークショーとなりました。土曜日の朝から小さい子を連れて来場くださったみなさん、ご協力いただいた方々に、この場を借りて御礼を申し上げます。
来場者のみなさんから寄せられた声の一部を紹介します。
第1部の感想
- 松本健一さん(34)、詩織さん(35)=品川区、長男3歳
健一さん 自分の妻が同じ状況ならなんと声を掛けるか、難しいなと考えさせられた。自分は清水さんのようにうまいこと言えず、本当のことを言ってしまうと思うが、正解かどうか分からない。日頃から「ありがとう」は結構言えていると思う。
詩織さん 疲れて1人でイライラしているけれど、たまに(夫が)コンビニスイーツとかビールを買って帰ってきてくれる。子どもが寝た後に一緒に楽しんでいる。清水さんのことはイベントの案内で初めて知った。つらい体験をされている方なのに、今に対して前向きで、「子どもと離れてさみしいと思う」と話されていて、自分と同じ感覚だなと親しみを覚えた。
- 鈴木峻平さん(35)、祐梨さん(36)=江戸川区、長男0歳11カ月
峻平さん 診断結果をどう伝えるのか、その状況にならないと分からない。正解がない分、考えさせられた。「ありがとう」は普段、あまり言えていない。慣れていないし、恥ずかしいだけなのか、感謝の伝え方が分からない。
祐梨さん (乳がんが)自分の身にもしかしたら起きるかもしれないと、心構えができた。周りでそういう人がいたら、否定も肯定もせず話を聞くようにしたい。健診は2年に1回は受けている。
第2部の感想
- 新美香緒里さん(33)=世田谷区、長男0歳9カ月
飯田さんの話で「仕事と子育てを両立しようと思わなくていい」という考え方はいいなと思った。気負わず子育てしたいと考えているので、これから仕事復帰するときも、やったことがないことなので不安はあるけれど、そういう心構えでいたい。
- 梅田由美さん(42)=調布市、長女6歳、長男1歳5カ月
対談では、清水さんが「未来のことは考えない」とおっしゃっていて、私はどうしても備えたくなってしまうけれど、そういう考えもあるのか、と驚いた。仕事と子育ての両立の話も、どっちもちゃんとやろうとしないのは、いいこと。私はスーパーで働いていて、家のことが何にもできずひどいけれど、「それでいいんだな」って思える社会になるといい。
会場について
- 岡あゆみさん(30代)=さいたま市、長女2歳
会場はやさしい雰囲気ですごくよかった。おもちゃがたくさんあるのもすごく助かった。会場は階段が多く、じっとしていられない子どもが階段を上り下りできたので、いろんな場所に階段があったのがよかった。
- 斉藤真子さん(31)=府中市
遊べるスペースはすごくかわいくて、出口からすぐの場所にあるのがありがたかった。
東京新聞・東京すくすく
後援
世田谷区
協力
一般社団法人ハイコラ、三軒茶屋銀座商店街振興組合、太子堂中央商店街振興組合
協賛
アートネイチャー、明治、浅野撚糸、ベストアメニティ、アバンティ、バスクリン、駒沢公園ハウジングギャラリー
(敬称略)