無花粉スギはどうやって育てるの?「多摩の森づくり」現場を取材【こども記者が行く 東京の森を探るツアー編】

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都内唯一の原木市場「多摩木材センター」で記念撮影=東京都日の出町で

 東京新聞の子育てウェブメディア「東京すくすく」による体験イベント「こども記者が行く!東京の森を探るツアー」(きらぼし銀行協賛)が8月19日、東京都日の出町の試験林などで行われました。子どもたちは東京の森づくりについて現場を見ながら話を聞き、新聞づくりに挑戦しました。

多摩産材を使用した建物

 晴天に恵まれ、むせ返るような暑さの中で行われたイベント。小学1年~5年の10人が保護者の皆さんと一緒に集まってきました。集合場所は、JR五日市線の終点、あきる野市の武蔵五日市駅前に7月にオープンしたばかりの「フレア五日市」です。

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東京都あきる野市にある「フレア五日市」

 こども記者の皆さんは、まだちょっと緊張気味。記者からは「帰ってから今日のことをお友達に伝えられるように、分からないことはどんどん聞いて、メモを取ってください」と伝えました。

 早速、あきる野市職員の臼井陽斗さんが、フレア五日市について説明してくれました。建物には150立方メートル(家のお風呂で600杯分!)もの多摩産材が使われていて、骨組みの9割が多摩産材なんだって。ふと見上げると、ホール天井からは木の柱がニョキニョキ。デザイン性だけでなく屋根を支える役割も果たしているそうです。

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木材の8割は多摩産材が使われている

「百年の森」では謎の痕跡が…

 一行は、バスで15分ほど離れた日の出町の都農林総合研究センターの試験林へ。まずは「百年の森」と呼ばれるエリアに向かいます。金網で囲われた斜面で、木を育てているのですが…地面にはあちこちに掘り返したような跡が。

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イノシシなどの害獣対策の説明をする東京都農林総合研究センターの中村健一さん

 「イノシシが金網の中に入ろうとしたみたいですね」。東京都農林総合研究センターの中村健一緑化森林科長が事もなげに話しました。イノシシやシカ、ウサギが苗木を食べたり傷つけたりするそうです。侵入を防ぐため、金網は地面側にも1メートル伸ばした「スカート」を設置しています。入ろうとしたイノシシもあきらめたみたいです。

侵入を防ぐための金網

 百年の森では、神社などで使う、まっすぐ大きな柱になるような木を育てていること、木を育てる技術が失われないようにお手本として継承していることなどを聞きました。

「無花粉スギ」の実現を目指す

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自然林に足を踏み入れるこども記者ら

 次の目的地は、花粉を出さない「無花粉スギ」の研究育成現場です。移動は森の中の小道を抜けて歩いていきました。木陰に足を踏み入れると、心地よい涼しさに包まれます。森の中では、バッタやカマキリがあちこちにいて、大はしゃぎで捕まえる子もいました。

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カマキリ、バッタ、トカゲなどを捕まえて大興奮!

 無花粉スギは、いろんな種類のスギを品種改良することで、実現を目指しているといいます。ただ花粉が出ないだけじゃなく、木材としての育ち方も大事なポイント。木は植えてすぐに育つわけじゃないから、長い長い時間がかかるんですね。

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無花粉スギについて説明を聞くこども記者ら

 子どもたちからは「無花粉スギと普通のスギは育て方に違いはあるの?」とか「季節によって育ち方にどんな違いがあるの?」といった質問が出ました。中村さんは育て方に大きな違いはなく、夏の方が成長が早いことを教えてくれました。

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熱心にメモを取るこども記者

「都内唯一」原木市場へ

 育った木はどうやって流通するんだろう。答えは都内で唯一の原木市場「多摩木材センター」にありました。センターでは、種類や太さごとにまとめられた丸太が山積みにされ、買い手を待っていました。市場は月に2回開かれているんだそうです。

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書かれている数字は直径を表し、原木は種類ごとに置かれている

 市場の人たちからは、切り口に見える「年輪」は、木がよく育つ夏は幅が広くて、成長が遅い冬は幅が狭いからできることを聞きました(試験林でも教えてもらったね)。スギとヒノキを見分けるには、断面の中心部分が茶色い方がスギ。むしった皮から独特の良いにおいがするのがヒノキ。何年物の木材なのかを調べるためには、断面の年輪に爪を立ててなぞるという、現場に行かないと分からないことも教えてもらいました。

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切り口に見える「年輪」の数え方も教えてもらった

 「グラップル」と呼ばれる重機が木材をトレーラーに積み込む作業も見学。普段見ることのできない重機が軽々と木材をつかむ様子に、こども記者たちは満足そうな表情を浮かべていました。

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重機の積み込み作業も見学。働く車にみんなワクワク!

 種から苗木に育つまで2~3年。苗木を植えてからも下草を刈ったり、枝打ちをしたり、人が手をかけないとちゃんとした木材にはならないんです。出荷できるくらいに育つまで50年くらいかかるんだって!

育った木が製品になったよ

 都青梅合同庁舎1階の「多摩産材情報センター」では、多摩産の木材を使った楽器や名札入れ、自転車やホワイトボードなどが展示されていました。どれも実際に手に取って体験できるとあって、子どもたちははしゃいでいました。今日の記念に全員が多摩産材のスギのしおりをもらいました。

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多摩産材を使った杉のしおり

 会議室では、木材利用を進める八王子市の一般社団法人「kitokito」の野口可奈子さんによるワークショップがスタート。

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ワークショップの説明をするkitokitoの野口可奈子さん

 こども記者たちは、多摩産ヒノキを使ったヨーヨーやカスタネット、ぶんぶんごまをつくって、スタンプやカラーペンで思い思いの柄を付けました。大人気だったのはぶんぶんごまで、練馬区の2年小山稜平さんはカメラに向かってポーズを取りながら勢いよく回してくれました。

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ぶんぶんごまに色をつけるこども記者

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大人気だったぶんぶんごま!勢いよく回してにっこり笑顔を見せる

できるかな?新聞づくりに挑戦

 最後に、この日の案内役を務めてくれた東京都森林事務所の桶川秀実(おけがわ・ほつみ)さんが、森林の状況について、世界と日本、東京都と他の道府県とを比べながら説明してくれました。桶川さんによると、東京都は森林の面積では47都道府県中46位だけど、人工林の割合は24位。それだけ多くの人の手がかけられているんだね。

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案内役は東京都森林事務所の桶川秀実さん

 1日の取材を終えたこども記者たちは、新聞づくりに取り掛かります。記者からは「初めて知ったこと、へぇ!と思ったことを一つに絞るのがポイント」とアドバイス。時間内に完成した子も、そうでない子もいたけど、全員が分からないことを積極的に聞いて記事を仕上げようとしていました。

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新聞づくりのコツを説明する大平樹記者

 町田市の3年清水梨沙さんは「苗木から木材になるくらいまで太く育つのに、人が世話しながら、ものすごく長い時間がかかることを知ることができた」と話してくれました。

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新聞づくりに挑戦!

取材のアドバイスを終えて

植えてから木材になるまで50年、100年。林業は「次の世代」を考える産業だということを、多くの関係者の皆さんからあらためて教えてもらった現場でした。内容が盛りだくさんで、こども記者が記事にまとめるのはちょっと難しかったかも…と心配しましたが、それぞれが自分たちの驚きを書き残してくれたと思います。保護者の皆さんが積極的に質問してくれたことも印象的でした。水源としての森林の機能や地球温暖化対策としての木材利用の重要性など、まだまだ伝えきれないことがあります。参加した子どもたちが大きくなった日のいつか「多摩で森づくりの現場を見たな」なんて思い出すことがあったらいいな。

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