彼から「両親が留守の時に家に来ないか」と誘われた〈ソーシャルワーカー鴻巣麻里香 10代の相談室〉6

連載タイトル「10代の相談室 ソーシャルワーカー鴻巣麻里香」

相談:断ったらがっかりさせてしまいそう

 付き合って半年の彼氏がいます。彼から、両親が留守の時に家に来ないかと誘われました。彼は関係を先に進めたがっているようですが私はもっとゆっくり進めたい。でも断ったらがっかりさせてしまいそうで、どうしたらいいでしょうか。(高校2年、女子)

 クラスメートが「好みのタイプ」とか「恋バナ」で盛り上がるノリについていけません。そもそも恋愛に興味がないし異性を好きになったこともありません。自分がおかしいのでしょうか?(中学3年、男子)

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連載「10代の相談室」

精神保健福祉士の鴻巣麻里香さん(46)が、中高生を支えるソーシャルワーカーの立場から、10代の悩みや葛藤をときほぐし、向き合います。保護者や学校の先生など周りの大人がしてしまいがちな、子どもたちをつらくさせる言動への対処の仕方も丁寧に伝えます。回答の最後には、10代を見守る周囲の大人へのメッセージを「大人のみなさんへ」としてつづります。

回答:「NO」が封じられるのは対等ではない

 恋愛という親密な関係性は、自他境界線(バウンダリー)を曖昧にし、より弱い立場に置かれた人が深く傷つくリスクがあります。

 年齢の差、収入の差、言葉の強さ、体力の差、そして妊娠のリスクや出産の可能性…。恋愛関係にもそういった不均衡があり、弱い立場に置かれた側が「嫌だ」「怖い」といった言葉をのみこんでしまうことが多々あるのです。親密になるほど言葉での同意や確認が軽んじられてしまい、弱い立場にある側が相手を失望させないように、怒らせないようにと自分の「嫌だ」をのみ込むと、苦しくなります。

 対等な関係は、より弱い立場に置かれた側、その関係においてリスクを被る側の「嫌だ」が尊重されることで実現します。性的な関係に進むにあたっては、妊娠のリスクを被る女性の側の気持ちや意見が何より重要です。もし「怖い」「嫌だ」「待って」と言えない場合、すでにその関係は対等ではなくなっている可能性があります。

 人生において大切なのは、互いに尊敬し合い、尊重し合える関係をつくることです。恋愛はそのひとつの形となり得るかもしれませんが、「彼氏や彼女をつくる」ことが目的ではないはずです。あなたの「NO」が封じられていることに気づいたときは、立ち止まって「今の関係は対等だろうか」と振り返るチャンスです。

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恋愛至上主義は当たり前ではない

 また、ある一定の年齢になれば、恋愛に興味が出るはずだ。「異性」を好きになるはずだ。「彼氏・彼女」がいるのが「リア充」だ。交際が進んでいけば自然と性交渉をするものだ。恋愛はあらゆる人間関係の中で最も大切で特別だ。そんな価値観(恋愛至上主義的な価値観)が「当たり前」になっています。ですが、その当たり前は、時として誰かを苦しくさせます。

 友人関係、家族関係、部活の仲間、趣味の仲間、いろいろな人間関係があり、何に自分の時間と気持ちを優先して使いたいかは人それぞれですし、その時々によっても変わります。そして恋愛の形にもいろいろあり、必ずしも性関係を望まない人もいれば、異性(身体的な異性)が対象でない場合もあります。確かに「異性を好きになり」「交際すれば、いずれ性交渉をする」というのは、多数の人にとって自然なことかもしれません。

 でもその場合の「多数」の中には、違和感や苦しさを抱きながらも声に出せず沈黙してしまう人たち、または「なんとなく嫌だな」を感じながらも「これが普通だから」と受け入れようとしてしまう人たちがいます。決して多数の人が受け入れている(ように見える)から当たり前で、その当たり前に違和感を抱くことがおかしいというわけではないのです。

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 なぜ私たちは、恋愛至上主義的な価値観を身につけてしまったのでしょうか。例えば今はバレンタインシーズンです。「好きな相手(異性)にチョコレートをあげよう」という広告があちこちに流れていると思います。恋人や片思いの相手がいることで、チョコレートが売れる。つまり恋愛がお金になるのです。映画でもドラマでも漫画でも、恋愛がコンテンツとして描かれます。アイドルたちは疑似的な恋愛関係をイメージさせることで、ファンに消費を促します。恋愛はお金になるので、恋愛するのが当たり前、みんな恋愛しようという情報が宣伝として流されるのです。そういった情報を浴び続ければ、当然影響を受けます。

 そして私たちの社会は、身体的な男女ペアのパートナーシップとその子どもを構成員とした「家庭」によって支えられてきました。つまり、社会が恋愛(異性愛)によって維持されているのです。

 恋愛(異性愛)をしなくなるとお金が回らなくなる、今の社会の仕組みが維持できなくなる、そういった事情から、恋愛至上主義的な価値観は「当たり前」のものとして私たちに刷り込まれてきました。もちろん、異性を自然と好きになり、そこに幸せを感じることには、なんら問題はありません。ですがその流れにもやもやや苦しさを感じる時、それはあなたが「おかしい」ということではないのです。

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大人のみなさんへ:子どもと対話できていますか?

 私たち親にとっても、わが子の恋愛は大きな関心ごとです。好きな相手はいるのか、どんな相手か、デートはしているのか、性的な関係はあるのか…気になり心配になるでしょう。「全然恋愛に関心がないように見えることが心配」というケースもあるかと思います。大抵の場合、上記のような親の不安の背景には、さらに「子どもが困った時に正直に相談してくれないのではないか」という不安が隠れています。その不安は、例えば対等な関係性とはなにか、同意の大切さ、自分と相手の身体と心を守ることについて、そして関係は多様であり異性愛が全てではないということについて、子どもに十分な知識を伝えられていないことに起因しているのではないでしょうか。

 それはつまり、私たち大人が対等で尊重し合える安全な関係を構築できていないということの表れかもしれません。子どもの恋愛事情が気になったら、それは自分と子どもとの関係について、そして自分とパートナーとの関係について、後回しにしていた悩みやもやもやと向き合い、子どもと対話しながら考える、あるいは子どもと対話できる関係が構築できているかを振り返る機会になると思います。

鴻巣麻里香(こうのす・まりか)

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1979年生まれ。ソーシャルワーカー、精神保健福祉士。子ども時代には外国にルーツがあることを理由に差別やいじめを経験する。ソーシャルワーカーとして精神科医療機関に勤務し、東日本大震災の被災者・避難者支援を経て、2015年、非営利団体KAKECOMIを立ち上げ、こども食堂とシェアハウス(シェルター)を運営している。著書に「わたしはわたし。あなたじゃない。 10代の心を守る境界線『バウンダリー』の引き方」(リトルモア)、「思春期のしんどさってなんだろう? あなたと考えたいあなたを苦しめる社会の問題」(平凡社)などがある。

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