絵本「こぐまちゃん」半世紀 誕生秘話とロングセラーの理由 子どもの本質に向き合う誠実さ

『しろくまちゃんのほっとけーき』(こぐま社)より ©わかやまけん

 半世紀以上にわたり、幼い子どもたちの人気を集め続ける絵本「こぐまちゃん」シリーズ。シンプルにかたどられた主人公や印象的な色合い、どの子も経験する生活の一こまを描いたシリーズには「日本の子どもが初めて出合う日本の作家による作品を」との思いがこめられている。作品誕生のエピソードや、ロングセラーの背景について、出版元のこぐま社元編集長・関谷裕子さん(66)に聞いた。

4人の「おじさん」が試行錯誤

 こぐまちゃんを描いたわかやまけん(若山憲)さん(1930~2015年)は、岐阜市出身のグラフィックデザイナー。「コンパスや定規を使い何百回と描いた後、フリーハンドで描いたのがこぐまちゃんなんですよ」。関谷さんがこう教えてくれた。

こぐまちゃんシリーズの魅力を語る関谷裕子さん=世田谷美術館で

 シリーズは、こぐま社を設立した編集者の佐藤英和さんの呼びかけで、わかやまさんのほか、歌人の森比左志さん、劇作家の和田義臣さんが加わり、4人が共同で制作した。佐藤さんは、主人公を子どもたちの最初の友達であるクマのぬいぐるみにすることを提案。水遊びや風船遊び、動物園など描かれるテーマは、わかやまさんが子育ての中で着想したものだ。人気のある「しろくまちゃんのほっとけーき」も、遊びに来た子どもたちがワクワクしながら焼けるのを待つ様子を見て思い付いたという。

 「風船に座ってどれくらいで割れるか試したり、保育園に1日入園してみたり。作品にする前にどれも実際やってみたそうですよ。おじさん4人で、おかしいですよね」と笑う関谷さん。わかやまさんが描いたスケッチを4人で囲んで話し合いを重ね、作品が生み出されていった。

「日本にしかない中間色」を採用

 絵に添えられるリズミカルな言葉は森さんが担当。「子どもは絵を読み取るもの。森さんは、わかやまさんの絵をじーっと見て、こぐまちゃんは何を言っているかな、と絵から立ち上がる言葉や擬音を紡いだそうです」

「こぐまちゃんえほん」下絵(部分)=1970年、原画(こぐま社蔵)

 「こぐまちゃんカラー」と言われる独特の色合いも魅力だ。黒、青、グレー、黄緑、オレンジ、黄色の六色は、海外絵本などで使われる色とは違う「日本にしかない中間色」としてわかやまさんが採用。オリジナルカラーのインクを使い印刷されている。

「慣れ」は子どもに見破られる

 シリーズ計15作の累計発行部数は1000万部を超える。今年2月に亡くなった佐藤さんは関谷さんにたびたび、こぐまちゃんへの思いを語っていたという。

 「共同制作のノウハウをようやくつかんだところで、『慣れで作ったものは子どもたちに見破られる』とやめることを提案したという話が一番すごいと思った」と関谷さん。子どもという存在や絵本制作に向き合う作り手の誠実な姿勢が、長く読み継がれる作品の背景にはあった。「子どもが何をうれしいと感じ、何にキャッキャと笑ってしまうのか、という本質は、何十年というくらいの時間では変わらないはず。これからも作品を通して、子どもとその親が心を通わせてほしい」と願う。

「こぐまちゃんとしろくまちゃん 絵本作家・わかやまけんの世界」 世田谷美術館で9月4日まで

 9月4日まで、世田谷美術館(東京)で開催中。初公開のこぐまちゃんの下絵のほか、幻想的な絵で知られる「きつねやまのよめいり」や「おばけのどろんどろん」シリーズ、詩集への挿絵などわかやまさんの創作活動の全貌を紹介する。問い合わせはハローダイヤル= 050(5541)8600=で受け付けている。

『りぼんをつけたおたまじゃくし』(1967年、野村トーイ)より、原画」(個人蔵)

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  • ハレルヤ says:

    一人目が生まれて、全部集めてほぼ毎夜、これ読んで!と、持ってくる息子が字も読めないのに一緒に声を出して絵と楽しんでいた姿が今でも思い出されます。もちろん、未来の孫のためにと未だに本棚にあります。実際に体験したからこそ、シンプルな言葉やシーンで充分伝わったのですね。今でも、本屋さんに行くと目に入り微笑んでしまう、安心感のあるこぐまちゃんです。

    ハレルヤ 女性 50代

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