【虐待防止月間】虐待を経験した9割が「死にたいと思ったことがある」 支援団体の丘咲つぐみさん 回復への希望を映画に クラファン挑戦中

加藤祥子 (2025年11月12日付 東京新聞朝刊)
 親に殴られ、「いなくなればいい」と何度も言われる…。虐待を受けた子どもの中には、児童養護施設に預けられたり、耐えて成人したりして、親から離れた後も、精神疾患などの後遺症に悩まされる人が少なくない。そんな実態を多くの人に知ってもらおうと、虐待経験者の支援や啓発をする一般社団法人「Onara」(東京)代表理事の丘咲つぐみさん(50)が、虐待を生き延びた人らの声を紹介するドキュメンタリー映画を作ろうとしている。
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虐待を受けた経験がある当事者と話をする丘咲つぐみさん=東京都内で

「自己責任」と捉えられることも

 虐待を受けた後も続くトラウマ(心的外傷)の深刻さと、回復しようとする姿を知ってほしい-。

 自身も幼少期に親から虐待を受けていた丘咲さんは2022年に同法人を設立。各地での講演などで虐待を生き延びた当事者たちが長年、心身の不調を抱え、生活に支障が出ると説明しても、虐待を経験したことがない人らから「自己責任」と捉えられることも。「トラウマを抱える人の生活やその背景が伝わっていない」。講演では開催できる回数が限られるため、当事者や専門家の声を映像にし、多くの人に届けたいと考えた。

 丘咲さんは24年に当事者らが集う居場所「おならカフェ」をつくった。参加する凌空(りょう)さん(24)=仮名=は子どものころ、義父から無視され、顔を合わせれば大きな足音をたてられた。恐怖から、2階の自室の床に耳をつけ、1階にいる義父の居場所を確認することが日常に。高校時代から過呼吸などの症状が出て、23歳の時に心的外傷後ストレス障害(PTSD)と診断された。家族と離れた今も、無視されたと感じることがあると自傷してしまう。

 同法人が23年に当事者683人に実施したアンケートでも、8割以上が精神科や心療内科などを受診し、9割が「死にたい」との気持ちを持ったことがあると回答。一方、25年の調査では当事者851人中、6割超が行政などに支援を求めたが、不適切な対応をされたり傷つく体験をしたりしたことも判明。その9割近くがうつや不安が悪化した。

 丘咲さん自身も虐待から逃れた後、うつ病やPTSDの症状に苦しんだ。だが、自治体のケースワーカーや保健師らから理解されず、心無い言葉をかけられてきた。同じ境遇の人たちから相談も受け、二次被害を減らしたいという思いを映画に込める。

 加えて「回復に向かおうとする姿も描けたら」と丘咲さん。心の傷は一生抱えると思われがちだが、少しずつ前に進める人もいる。カフェでは、ひきこもりの人が、他の参加者と交流し、トラウマの治療を始めた例もあった。

制作費募り、みんなで映画を作りたい

 映画は26年1月から撮影を開始し、27年11月の完成を目指す。「(虐待経験の有無にかかわらず)みんな何かしら傷つきがあると思う。周りの人と今までよりも優しい関係を築いてもらえるような映画にできたら」と意気込む。

 丘咲さんは、映画製作の資金をクラウドファンディングで募っている。すでに第1目標の400万円を達成。期限の30日までに、第2目標の「500人による600万円」を目指している。

 CFは虐待のつらさを分かってもらえなかった人たちに、応援している人がいることを伝える狙いもある。

 寄付額に応じて、オンラインでの鑑賞会に参加できたり、エキストラとして映画に出演できたりする。寄付は、取材や撮影、編集のほか、試写会やパンフレット制作などに充てる。丘咲さんは「みんなで一緒に映画を作っているという感覚にしたい」と話す。

 寄付は専門サイト「キャンプファイヤー」で募っている。

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