「クリスマスなんか、来なければいいのに」 ある母親の声に応えた「ブックサンタ」発案者に聞く支援への思い

ブックサンタのPR画像とチャリティーサンタ代表理事の清輔さん(=写真はいずれも本人提供)
今年で9回目 昨年は約13万冊
―ブックサンタの現状を教えてください。
「2017年に始めて以来、今年で9回目を迎えることになりました。おかげさまで、年を追うごとに寄付も増えて、昨年はおよそ13万冊の本を皆さまから寄付していただきました」
―最初は大変だったと聞きました。
「本も848冊しか配ることができませんでしたし、倉庫もない状態で、名刺を出しても、いらないと返されたり(笑)。続けられるのかなと不安になりましたが、今では全国47都道府県全てで活動が行えるようになりました」

サンタに扮したボランティアから本を受け取る子ども
―やっぱり、年末が一番忙しいのですか。
「本が集まる現場は12月、1月がすごく慌ただしいですね。私みたいに全行程にかかわる人は、新しい支援団体を探したり、本屋さんとコミュニケーションを取ったりと、一年中やることはあります。どこかにお願いできればいいのですが、あまりお金がかけられないので、職員とボランティアが集まって、例えば、3連休全て使って、がーっと力業でやる、そんな感じです」
活動の厳しさが垣間見えた瞬間でしたが、清輔さんは終始、穏やかにインタビューに応じてくれました。
本を購入 レジで「ブックサンタ」と言うだけ
ブックサンタで本を寄付するのは、とても簡単です。協賛している書店でお薦めの本を購入し、レジで「ブックサンタでお願いします」と言うだけ。その後、本は各書店から専用倉庫に運ばれ、仕分けをされ、各家庭や児童養護施設、子ども支援団体に送られ、クリスマスイブに子どもたちにプレゼントされるという仕組みになっています。
―受け取る子どもの対象年齢は0歳から18歳なんですね。
「はい。お好きな本を贈ってもらえればいいのですが、やはり、絵本が多い傾向にあります。でも、中高生だと小説とか、一般書を普通に読むので、そういう本でも大歓迎です」
―受け取る側はこんな本が欲しいと、リクエストはできるのですか?
「うちのホームページから本をリクエストする際、専用アンケートに年齢や興味・関心ごとなどの情報を書いて教えてもらえたら、なるべく、それに会う本を探します。歴史が好き、電車が好き、いろいろなお子さんがいますので、そこはできるかぎり、丁寧にやっています」
―ぎりぎりに寄付したら、クリスマスに間に合わないこともありますか?
「そういう時は、子どもの誕生日や入学などのイベントの際のプレゼントとして使わせてもらいます。クリスマスと同じように、とても喜ばれますよ」

岡山県にある仕分け倉庫で作業する人たち
―清輔さんはこの活動を始める前、さまざまなチャリティー活動をされていたそうですね。
「2008年からサンタクロースの訪問活動を行っていました。でも、10年くらい前に、ある小さなお子さんを持つお母さんから『クリスマスなんか、来なければいいのに』というメールをいただいて、それがすごいショックだったんですね。そのとき、他にも、事情があって、クリスマスをお祝いできない家庭って多いんじゃないかと思ったんです」
―クリスマスが来なければいいというのは、悲しいですね。
「まだ、子どもの貧困という言葉があまり浸透していなかった時期に、クリスマス格差ってあるんだということに気が付いて。そこから何ができるかを考えました」
クリスマス格差とは
―クリスマス格差、ですか?
「はい。プレゼントを自分で準備できる家庭と、できない家庭があると、子どもたちに体験格差が生じるんですね。当時もいろいろ頑張って、自前でクリスマスのプレゼントを贈ったりしていたのですが、継続的に行うには何か別の形でプレゼントを集めなければいけないと思い、それがブックサンタという形になったのが、2017年でした」
―どのような人がリクエストしてくるのですか。
「ホームページに申し込みのときのお便りの一部を載せているので、読んでもらえばわかると思います。読むと毎回、泣いてしまいます」
ブックサンタの事務局には、毎日のように保護者の方からお便りが届きます。シングル家庭で困窮する人、離婚したばかりで子どもに寂しい思いをさせたくない人…。SOSにも似た声が届きます。公式ホームページにある「お届けする保護者からの声」の一部を要約・抜粋します。
▼DV避難者です。逃げ出してから3年、日々の生活に余裕がありません。息子に、私以外にも見守っている人がいること、サンタさんがいるという夢を知ってもらいたい。
▼元夫とのいろいろでメンタル不調になり、退職しました。経済的に不安定でお小遣いも十分にあげられない中、子どもはよく母を助けてくれています。高校に入ったばかりの下の子は、家のことも率先して引き受けてくれています。『頑張っているね』というあったかい思いと『あなたへのプレゼント』を届けてほしいです。

プレゼントされた絵本に興味津々の幼児たち
―胸が締め付けられますが、女性からのお便りが圧倒的に多いですね。
「シングル家庭の9割が女性と言われています。母親が子どもを思う気持ちはすごく切実で、例えば、財布に1500円が入っていないわけではないと思うんです。でも、この間、お話を伺った人は、とにかくお金を使うことが心配で心配で仕方がない。自分が死んだら、この子を育てる人は誰もいない。この子が中学、高校となっていくときに、どれだけお金がかかるのかを考えると、とにかく節約しなければ、と言っていました」
―そうですか…。
「1000円、2000円の本なら、少し残業すれば、買えるよねっていう考えもあるのですが、その理屈とは違う次元の話なんです。他に優先すべきことがあって、本なら、図書館で借りればいいというふうに思ってしまうんですね」
子どもを思う気持ちは誰だって同じ。でも、自分の子どもには他の子と同じ体験をさせてあげられない。その自責の念が困窮家庭の保護者を苦しめていると清輔さんは言います。
文化資本を届ける
ブックサンタは児童福祉施設と連携していますが、子ども食堂やフードバンク、シングルマザーを支援する団体と連携することも多いそう。清輔さんには忘れられない家族がいるそうです。
「先日伺ったご家庭は、母親が、そうめんをまとめてゆでるんですね、光熱費を節約するために。一口で食べられるように小分けにして、冷蔵庫で冷やして、『じゃ、今日も夜ご飯はそうめんね』って食べるんですけど、本当にそうめんだけなんです。お母さんは介護施設で普通に働いていて、一生懸命だし、元気でやってらっしゃるのに、いろいろ計算をすると、使えるお金が本当にない。この活動をしていると、そんな家庭が今の日本にはたくさんあることを実感します」
―言葉もありません。
「でも、だからこそ、『自分の本』を、受け取ったときの喜びは、すごいと思うんです」

絵本をプレゼントされ喜ぶ子ども(左)と、寄付で集められた書籍
―子どもの頃に新品の本を手にするのはうれしいですよね。
「これまで企業さんからいくつか問い合わせがありましたが、中には、子どものことを全く考えていないな、失礼だなって思うものもありました。例えば、クリスマスパーティーで使って、不要になったおもちゃを集めるので、支援が必要な子どもたちに配ってもらえませんか、というんです。それで子どもが喜ぶと思いますか? 誰かが使ったものではなく、ちゃんと子どもたちが喜ぶものにしましょうよと伝えましたけど」
―だから、新品にこだわるのですね。
「そうなんです。知り合いのNPOの人に言われました。『ブックサンタの活動は、各家庭に文化資本を届けに行っていることと同じだ、本来、これは国がやるべきことだ』って。子どもの頃って、一冊の本を大事に、何回も何回も読みますよね。家庭の事情にかかわらず、子どもたちにそういう体験をさせてあげたいんです」
課題は「本を届けるコスト」
ブックサンタは今年で9回目を迎えます。今年は全国1851店舗の書店と連携し、さまざまな事情がある家庭の子どもたちに寄付を行っています。活動は年々広がっていますが、清輔さんは課題も残っていると言います。
「最初からちゃんと設計しておけばよかったのですが、寄付される本が増えれば増えるほど、うれしい半面、活動自体は大変になってしまって」
―と言いますと。
「本を届けるコストの問題ですよね。本の管理費(倉庫の賃料)本の配送費、人件費など、本が増えれば増えるほどかかるお金が増えます。それが一番の課題です。こちらからいうのはちょっと…という感じなのですが、もし、本を選べない、最近の本わからないって人がいたら、別の形でも支援していただけるので、そのことを知ってもらえたらと思います」

ブックサンタの仕組み
あまり知られてはいませんが、ブックサンタでは、本の寄付の他に、クラウドファンディングや、継続サポーター、1枚500円からのチャリティーしおりなど、さまざまな形で活動協力を募集しています。わずか9人の職員と、ボランティアによって成り立っているブックサンタの活動を支援したいという方はぜひ、ご参加ください。
本を贈ると自分もうれしい
清輔さんは被災地にも出掛けて、チャリティー活動をしています。昨年は能登地方の輪島市、珠洲市、能登町に出掛け、クリスマスに本を届ける活動を行いました。
「去年はクリスマスは37人のサンタボランティアの方と、38世帯を訪問して本をプレゼントしました。さらに自治体とも連携して、合計4000冊を超える本を贈りました。能登には今年も支援していきます」

真剣な表情で本を選ぶ清輔さん
―やってきてよかったと思う点は何ですか?
「これまで寄付をしてこなかったのに、本を贈るのであればやってみたいとブックサンタに参加してくれる、そういう人が多かったことです。本を選ぶときって、うれしい気持ちになったり、相手を思ったりしますよね。これだけの人が、子どもたちのことを考えてくれているんだって思うと、すごくうれしくて。そのために我々は頑張っているようなものです」
―冊数の目標はありますか?
「去年が約13万冊、累計で約40万冊をプレゼントしました。でも、我々の試算では、いろいろな理由でクリスマスを祝えない子どもたちが約200万人います。今の段階では、全員に届けることは無理なので、まず25%の50万人に、クリスマスと誕生日に毎年2冊届くという形になれば、理想かなと思っています」
取材は東京すくすく・ブックサンタ担当の長壁綾子さんと一緒に行いました。1時間にわたってブックサンタについて語ってくれた清輔さんは、最後にこんな思いを語ってくれました。
「ブックサンタのもう一つの目的は、子どもたちに、親以外にも自分のことを見守ってくれる人がいるんだなとか、自分のことを考えてくれる人がいるんだなって思ってもらうことなんです。また、孤独感や不安を抱えている保護者の方も、全く知らない人からおめでとうの気持ちと物が届いたら、ものすごく安心すると思うんです。子どもたちには見守っているよということを、保護者には、一人じゃないよということを感じてもらいたいんです」
本と一緒に思いも届けるブックサンタ。さあ、あなたも誰かのサンタクロースになってみませんか。今年は12月25日まで寄付を募集しています。興味のある方・問い合わせは、ブックサンタ公式ホームページをご覧ください。
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