歌手 今陽子さん 明るくて頼れる母が、90歳になると急に暗くなって…

三浦耕喜 (2019年8月11日付 東京新聞朝刊)

家族のこと話そう

写真 今陽子さん

(岩本旭人撮影)

「ついてらっしゃい!」タイプだった、あの母が

 10年前に父が85歳で亡くなり、その後は、母(92)と二人暮らし。私の食事も母が作ってくれましたし、私の確定申告など身の回りのことは全部母がやってくれました。帳簿も完璧で、いつも税理士からほめられていました。

 私が幼いころから母はPTA会長をやるなど、常にリーダーシップを取るのが得意で、ついてらっしゃい!というタイプ。その影響でしょうか。私も小学校の時から学級委員をやり、親子でいつも何かの役をしていました。

 ですが、母は2年前、90歳の声を聞いた途端におかしくなったのです。はつらつとしていた表情が、急に暗くなりました。朝起きて椅子に座ると、1日中座りっきり。主治医からは「老人性うつ」だと言われました。

「あたし、どうなったの?」オレオレ詐欺被害も

 以来、私が母の介護をするように。母は自分でも言っていました。「あたし、どうなってしまったの?」「『90』は、途端に変わる年なの?」と。私にも「あんたに迷惑かけて情けない」などと言うようになり、その上「オレオレ(ニセ電話)詐欺」の被害にも遭ってしまいました。

 私は「『ごめんなさい』とか、『迷惑かけている』とか、親子だからそんな言葉はなしよ」と。ただ、私も仕事があるし、ストレスもたまる。だから、母には介護保険を使ってデイサービスと、時には(施設に短期入所する)ショートステイに行ってもらうことにしました。幸い、いいケアマネジャーさんに当たり、常に相談しています。

 自宅も2年前、バリアフリーのリフォームをし、「断捨離」もしました。洋服が主でしたが、小型のトラックで3、4台分くらい引き取ってもらったと思います。

老いは誰もが通る道 介護は一人で抱えてはダメ

 老いはだれもが通る道です。経験を通し、介護をする方が先に倒れてはダメだと身に染みましたね。母にはショートステイを長めにとってもらいました。自分のことでのんびりできる時間は本当に大事。介護を続けるためにも。母も要介護度が改善しました。

 介護は絶対一人で抱え込んではなりません。先日、昔の同級生と会う機会があったのですが、皆、介護の経験者でした。一番大変な人は、夫の親に加え、自分の親も世話をする『ダブル介護』。特に夫の親からは「嫁なんだから当たり前」だと言われる。大変なのは私一人だけではない。そう思えるようになりました。

 介護で自分の時間も行動も制約されます。でも、最近、ファンからは「歌がますます上手になった」と言われます。「歌に『うま味』が出ている」「人生を感じさせる」と。歌手として最高に幸せな言葉。私の人生、今とても充実しています。

今陽子(こん・ようこ)

 1951年、愛知県東海市出身。15歳で歌手デビュー、翌年「ピンキーとキラーズ」を結成すると、デビュー曲「恋の季節」が大ヒット。17週連続でオリコン1位となる。解散後、俳優業や舞台芸術にも活動を広げる。12月8日から日生劇場(東京都千代田区)で始まるミュージカル「スクルージ」にも出演予定。

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