虐待事件から考えるステップファミリーの重圧 無理に「親になろう」と思わなくていい 時間をかけて’’仲間’’になろう

(2019年11月20日付東京新聞朝刊に一部加筆)
 2018年3月に東京都目黒区の船戸結愛(ゆあ)ちゃん(5つ)が両親の虐待によって死亡した事件の裁判では、継父の雄大被告が「親になろうとしてごめんなさい」と発言しました。ステップファミリー(子連れ再婚家庭)を支援するNPO法人「M-STEP(エムステップ)」理事長の新川てるえさんは、「無理に親になろうと思わなくていい」と訴えます。

「継子に対して親になろうとしなくていい」と話す新川てるえさん

継親に突き刺さる「親になろうとしてごめんなさい」

 -結愛ちゃん事件の裁判での雄大被告の発言について、どう感じましたか。

 「親になろうとしてごめんなさい」という雄大被告の言葉は、ステップファミリーの当事者には突き刺さる言葉だったと思います。私も再婚で12歳と2歳の女の子の継母になった経験がありますが、「(継子の)親にならなければ」というプレッシャーはとても大きいものです。もちろん虐待は許せないことだけれども、「自分たちだって、第二の彼に絶対にならないとは言い切れない」という思いが当事者にはあります。

 -結愛ちゃんの事件では当初、血のつながらない親子関係にはあまり注目されていませんでした。

 報道などでは、児童相談所の対応や自治体間の連携の問題は検証されていましたが、実の父ではないところに難しさがあったのではないか、という視点がないことがずっと気になっていました。変化があったのは、2つの事件が起きてからでした。

 今年8月に鹿児島県出水市で4歳の大塚璃愛来(りあら)ちゃんが虐待によって亡くなり、母親の交際相手で同居する男性が暴行容疑で逮捕されました。9月には、さいたま市の小学4年生の男児が殺害され、義理の父親が死体遺棄容疑で逮捕されています。

 継父や母親の交際相手の男性が関係する子どもの死亡事件が続いたことで、世間の目が血のつながりのない子を育てる困難さに向きました。結愛ちゃんの事件でも、10月に行われた裁判を前にして、ようやく義理の親子関係がクローズアップされました。

周囲から、パートナーから…押し寄せるプレッシャー

 -虐待の起こりやすい要素がステップファミリーにはあると思いますか。

 あると思います。他人の子どもを育てるのは並大抵の大変さではありません。里親になる方は、「子どもたちを引き取りたい」という強い思いを持ち、ある程度の覚悟を持って親になります。でも、ステップファミリーはほとんどの場合、相手と一緒になりたくて結婚するのであって、相手の子の親になりたくてするのではありません。それなのに、世間は深くは認識していなくて、「再婚したんだから当たり前でしょ」「親になったんでしょ」と、ステップファミリーの継親に「親であること」を求めます。

 -「親にならなければ」というプレッシャーはどこから来るのでしょうか。

 「親になった」とみなす周囲のまなざしもありますし、場合によっては、パートナーからも父親・母親としての役割を求められます。継子に対しても、それまでひとり親家庭で育ったことへのふびんさから、「親のようになってあげなきゃ」という感情が芽生えて、必要以上の頑張りを自分自身に強いてしまいます。

 ただ、実の親のようには絶対になれません。継子とは、時間をかけて、同じ群れの仲間のようになっていけばいいんです。そういう理解が最初からあれば、必要以上に頑張らなくてすむはずです。

「親じゃないくせに」と言える関係性は悪くない

 -継子との関係に悩んだら、どうしたらよいのでしょうか。

 無理に親になろうと思わなくていいよ、と伝えたいです。「継子を愛せない」「実子と同じように思えない」と悩むのは、当たり前の感情です。多かれ少なかれ当事者はみんな同じです。継子に無理に「お父さん」「お母さん」と呼ばせる必要もありません。

 子どもからの「親じゃないくせに」という言葉も、誰もが一度は言われます。でも、私はそれを言える関係性は悪くないと思います。子どもも葛藤しています。傷つく必要はなくて、「そうだよ。でも一緒に暮らす仲間として家族になりたいと思って頑張ってるよ。一緒に頑張ろうよ」と返せばいい。

 「継子への注意は実親がする」というルールを作るのもおすすめです。理想的なのは、継親が「いいとこ取り」をすることです。例えば、実親が子どもをきつく怒って、もし子どもが泣いたら、継親が「どうして怒られちゃったの?」「大丈夫?」って聞いてあげる。優しい方の役割を継親がもらえるといいと思います。

新川てるえさんの著書(右から時計回りに)
「子連れ再婚を考えたときに読む本」(太郎次郎社エディタス)
「子連れ婚のお悩み解消法―継子・実子・住居・お金をどうするか」(さくら舎)
「継母ですが? もう1つのシンデレラストーリー」(本間千恵子さんとの共著、エンターブレイン)
「日本の子連れ再婚家庭」(太郎次郎社エディタス)

ステップファミリーになる前に学ぶ機会があれば

 -子どもの年齢が上であればあるほど、関係づくりは難しいものなのでしょうか。

 思春期の年齢が一番難しいと思います。9歳ぐらいから、高校2、3年くらいまでですね。子ども自身が不安定な時期でもありますし、その年齢になると新しいしつけ方針や習慣を受け入れにくいので、もしそれを継親がやろうとしたら子どもはすごく反発します。

 ただ、幼ければ楽なのかというと、「小さいからまだ間に合う」と考えて、継親が自分のしつけ方針や価値観を押しつけてしまいがちな部分もあります。

 本当はこういった継子との関係性を再婚前の段階で学んだり、夫婦間で話し合ったりした後に、時間をかけて家族になっていくのが理想です。ところが、ステップファミリーになる前に、こういう情報を得る機会はほとんどありません。勉強する場も教えてくれる人もいないのが現状です。

再婚と同時に打ち切られる支援 相談窓口も未整備

 -国や自治体の支援の状況はどうなっていますか。

 ステップファミリーの予備軍である、ひとり親家庭への支援は、昔に比べるとずいぶん拡充されてきました。ただ、その支援は、再婚と同時に全部打ち切られてしまいます。それまで受けられていた児童扶養手当や養育費がなくなったり、引っ越しにもお金がかかったりします。さらに言うと、それまで働いていた女性が仕事を辞めて収入が減ることも少なくありません。経済的には再婚前よりも厳しくなり、精神的にも再婚後1~2年が一番大変なケースが多いのですが、「再婚して幸せになってよかったね」とサポートがなくなってしまうのは大きな問題です。

 ひとり親支援と比べ、ステップファミリー支援は20年遅れています。国や行政による実態調査すらありません。今、バツ2、バツ3の方が増えていますが、それは再婚家庭が壊れたということ。その背景には、どういう理由があり、どういう支援が必要だったのかを調べるべきだと思います。時間はかかりますが、継親による虐待死のような悲しい事件を手前で止めるための力に必ずなるはずです。

悩みを相談し、かえって傷つく二次被害に遭う継親も

 ただ、行政に窓口が設置されたとしても、ステップファミリー支援に習熟した人が支援に回らなくては意味がありません。一般の子育て相談と同じように対応されてしまうと、継親の悩みは解決しないどころか、かえって傷つく二次被害を招く可能性もあります。

 「継子を愛せないんです」と相談しても、「子どもを抱きしめてあげてください」「スキンシップをたくさんとれば大丈夫ですよ」と実親に対するのと同じようなアドバイスを受けることがあります。どうしようもない嫌悪感があって継子を抱きしめられないから悩んでいるのに、「それができない自分はひどい親なんだ」とさらに自分を責めることになります。実際、「一般の子育て相談に行って傷ついて帰ってきました」という当事者がたくさんいます。

 -周囲に弱音を吐けず、自治体に相談窓口もないときは、どうしたらよいのでしょうか。

 里親の勉強会や双子や三つ子の会のように、当事者同士でつながるのが一番です。M-STEPはそんな場づくりをしています。皆、よそでは言えない気持ちを吐き出して、また家庭に帰っていきます。

ステップファミリー支援「M-STEP」

 新川さんが理事長を務めるNPO法人「M-STEP」(千葉県柏市)は2014年から、ステップファミリー(子連れ再婚家庭)向けの家庭問題のカウンセリングや当事者の交流会、支援者養成講座などを実施している。M-STEPの2019年11月、12月の活動はこちら

11月は児童虐待防止推進月間。虐待を防ぐため、親子を支えたり助言したりする人々から、子育てに奮闘する親たちへのメッセージを〈特集 変わりたいあなたのために〉として随時掲載します。