旧姓併記が始まったけど…口座開設や契約の対応進まず 「選択的夫婦別姓で根本解決してほしい」
仕事で使う姓、戸籍姓、前夫の姓…通帳が3種類も
東京都のIT関連会社で働き、選択的夫婦別姓の法制化を求める市民活動にも取り組む井田奈穂さん(44)は普段、仕事で長く使ってきた前夫の姓「井田」を名乗る。戸籍姓は今の夫の「A」だ。従来旧姓が併記できるパスポートにはAと井田を併記している。
住民票やマイナンバーなどへの旧姓併記の制度が始まり、昨年12月、「生来の姓のBで併記したい」と申請。B姓が併記してあるマイナンバーカードを銀行に提示し、副業用にB姓名義の口座を開いた。
別の銀行では、市民活動用に井田姓名義の口座を開設。住民票などへ併記できる旧姓は一つだけのため、穴を開けて使えなくした井田姓の運転免許証と、A姓の免許証で本人確認をした。旧姓名義を断られた銀行もあり、3つの姓の通帳ができた=イラスト参照。
金融機関の多くは「戸籍名のみ」…あまり変わらず
いずれも「自分」名義だが、B姓、井田姓の口座も「申込者」の欄はAとされ、旧姓がそのまま使えるわけではない。「別姓を選べる制度があれば、B姓を変えずに済み、煩雑な使い分けは必要なかった」
内閣府は2017年、全国銀行協会などに、可能な限り円滑に旧姓名義の口座開設に協力するよう要請。ただ同協会によると、顧客管理の問題や本人確認手続きの煩雑さなどから、対応は銀行によって異なる。
第二次選択的夫婦別姓訴訟の弁護団は「(金融機関などの)多くは戸籍名のみの対応で、旧姓併記の制度開始前とあまり変わっていない」と指摘。弁護団の調べでは、旧姓併記のマイナンバーなどを提示しても、クレジットカードや携帯電話の契約、納税手続きなどの多くは戸籍名のみの対応にとどまる。
総務省はシステム改修に194億円 巨額税金に疑問
総務省の担当者は「旧姓が公的に証明されてもサービスに組み込むかは各企業の裁量」と説明。旧姓で働く女性からは「企業や行政の対応はほとんど変わらず、旧姓と戸籍名との使い分けによる煩雑さは解消されていない」との声もある。
一方、同省はこれまで、旧姓併記にかかる住民基本台帳ネットワークのシステム改修費に194億円を投じ、各自治体などに支出。井田さんは「国の補助で足りず、自前の予算を組む自治体もある。選択的夫婦別姓を法制化していれば、これほど巨額の税金は使わずに済んだ」と話す。
選択的夫婦別姓の法制化を求め訴訟を起こしたソフトウエア開発会社「サイボウズ」の青野慶久社長は「旧姓併記は、婚姻というプライバシーを意に反して明かさないといけない点でも問題だ」と批判している。
旧姓併記とは
旧姓による本人確認や各種手続きをしやすくすることで女性活躍を推進しようと住民基本台帳法施行令などを改正。昨年11月から住民票やマイナンバーカードで、12月からは運転免許証でも可能に。希望者は居住する市区町村に、旧姓が記された戸籍謄本などを示して請求する。過去に戸籍に記載されたものの中から一つを選び、住民票では氏名と別の欄に、マイナンバーでは戸籍姓と名の間に記される。
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