30代でも硬いものをかみ切れない人が3割 口腔機能の低下「オーラルフレイル」を知っていますか? 筋トレで早めの回復を

熊崎未奈 (2025年7月15日付 東京新聞朝刊)
 硬いものがかみにくい、口が渇く…。高齢者だけではなく、30~40代から口腔(こうくう)機能の低下(オーラルフレイル)が始まることが明らかになってきた。忙しさから食生活がおろそかになることが原因の一つ。専門家はよくかんだり、舌を使ったりする筋力トレーニングを勧める。

グラフ 咬合力の推移

子育てで忙しく簡単な食事をしていると

 日本歯科医師会が2022年、15~79歳の男女1万人に尋ねた調査によると、「硬いものをかみ切れないことがある」と答えた人は、30代で32%、40代で29%に上った。「食事で顎が疲れることがある」との回答も30代、40代ともに3割を超え、60代(24%)、70代(18%)を上回った。

 口腔機能の低下に詳しい東京科学大大学院の金沢学教授によると、上下の歯を食いしばる「咬合(こうごう)力」は、40代から顕著に下がり始めるという。専用の機器で計測した研究では、40~64歳の咬合力は、18~39歳の約8割しかなかった。

 「かむために使う咀嚼(そしゃく)筋は比較的大きな筋肉。使わないと機能の低下が起こりやすい」と指摘する。30~40代は仕事や子育てで負担が増える世代でもあり、忙しいと食事の回数が減ったり、簡単なもので済ませたりしがち。かむ回数が減った結果、筋力が衰えていると推測する。

表 オーラルフレイルチェックリスト

 60代前後からは「舌圧」も低下する。舌を上顎に押しつける力で、歯が抜けるなどして食べる量が減ったり、しゃべる機会が少なくなったりすることで、舌の活動量が減ることが原因とみられる。

高齢になると心身にさまざまな影響が

 口腔機能の低下は将来的に心身にさまざまな影響を及ぼすことも分かっている。かむ力や舌の力に衰えがある高齢者は、4年後に要介護認定されるリスクが2.4倍、死亡リスクが2.1倍になるという研究結果もある。

 硬いものを食べたり、のみ込んだりしにくくなるため、肉や魚、野菜を食べる量が減り、タンパク質やビタミンの摂取量が少なくなる。一方で、食べやすい菓子パンやごはん、麺類が増えて栄養が偏り、その結果、健康状態が悪化。さらに、体が衰えると、外出や会話の機会も減り、認知機能にも悪影響が出る。

 口腔機能の低下は、口の中の筋肉と神経伝達の衰えが原因であり、金沢さんは「トレーニングすれば、機能は維持できる」と強調する。徳島大の2018年の研究によると、平均年齢25.4歳の19人が1日2回、5分間ガムをかむ訓練を4週間続けた場合、咬合力は2割上昇。舌圧も改善した。

1口で10回かむのが理想 ガムも有効

 高齢者に比べると、40代までは筋肉の修復が比較的早く、口腔機能が回復する可能性は十分あるという。

 金沢さんが勧めるのは、ガムを使ったトレーニング。1回10分を目安に1日3回かむと効果的。舌と歯を使って、餅つきのようにガムを折り畳んだり、つぶしたりすることで、舌や頰の筋肉が鍛えられる。唾液腺も刺激され、唾液量の減少が抑えられる。日常の食事でも1口につき少なくとも10回かむのが理想的。「今日は食事でしっかりかめていないと思ったときは、ガムで補って」と呼びかける。

 虫歯や歯周病がなくても口腔機能が落ちている可能性はある。硬いものが食べにくい、口が渇く、むせやすい、食べこぼしが多い、滑舌が悪いといった症状が気になる人はチェック表を参考に、口腔機能の低下に注意しよう。

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