むせる、口がポカンと開く…小児期の「口腔機能発達不全症」は早期治療を トレーニングすれば改善

大野雄一郎 (2025年6月10日付 東京新聞朝刊)
 食事で硬いものを嫌がる、口がポカンと開いてしまう…。こんな子どもの様子に心当たりがある人はいないだろうか。18歳未満のうち、口の「食べる」「話す」機能が十分に発達していない状態を「口腔(こうくう)機能発達不全症」と呼び、2018年に保険診療の対象になった。そのままにすると歯並びに悪影響を及ぼしたり、将来的な口の機能の衰え(オーラルフレイル)を早期に招いたりする恐れも。専門医は積極的な受診を呼びかける。6月4~10日は「歯と口の健康週間」。

年齢ごとに異なる「注意が必要な症例」

 日本歯科医学会によると、小児期の口腔機能は常に発達の過程にあり、遅れなどがあれば、早い段階で適切に対応していくことが望ましい。

 2022年に日本歯科医師会が行った調査では、10代の約半数が「食べこぼしをする」「むせやすい」といった症状を経験しているという結果も出た。日本小児歯科学会の専門医で坂井歯科医院(名古屋市昭和区)副院長の林志穂さん(48)は「専門的な治療や訓練が必要だと気付いていない患者さんやその保護者は多い」と指摘する。

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日本小児歯科学会の専門医・林志穂さん

 林さんによると、口腔機能発達不全症が疑われる症例は、子どもの年齢によって異なる=図。例えば離乳完了後の2歳以降では、硬いものを嫌がったり、よくかまずにのみ込んだりするような場合は疑わしい。4歳以降も指しゃぶりが続く、5歳以降も舌足らずな発音をしているといった場合も注意が必要だ。

図表 口腔機能発達不全症が疑われる症例(年齢別)

 原因も人によってさまざま。舌を上あごに押しつける力や唇を閉じる力が弱い場合のほか、舌の裏の筋が舌の可動域を狭めている、へんとうが肥大しているといった状態が影響しているケースもある。

 診断は食べる機能を中心に複数のチェック項目で問題があると認められた場合につくが、林さんは「診断されてほっと胸をなで下ろす保護者もいるんです」と明かす。「自分のしつけの問題だ」と捉えて悩んでおり、名前の付いた病気としてきちんと対処できることに安心するからだという。

歯科で訓練や食事指導、他科との連携も

 診断後は、歯科でのトレーニングや食事指導に移っていく。昨年8月から同医院に通う名古屋市の小学5年の男児(10)もその一人だ。

 男児はそれまで、硬いものや繊維質のものがのみ込みにくかった。母(40)は家庭でそうした食材を食事に出さないようにしてきたというが「しっかり診てもらいたい」と考えた。診断を受けた後は月に1度の頻度で通院し、棒の先端に付いた突起を舌で押しつぶす専用の器具やガムを使ったトレーニングに日々励んできた。

 5月下旬に8回目の通院に訪れた男児は、舌の力が同年代の平均値よりも上回っていた。本人も「前まで食べられなかったステーキが食べられるようになり、うれしい」と笑顔。今夏には通院が終えられそうだという。

 同医院では、小児科や耳鼻咽喉科の医師とも連携して診療にあたることもある。林さんは「18歳でもきちんとトレーニングをすれば改善する」とした上で、「食べることは生きることに直結するので、口の機能を育てていくことは重要。気がかりな症状があったら、かかりつけの歯科医師や小児歯科学会の専門医に相談してみてほしい」と呼びかけている。

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