〈坂本美雨さんの子育て日記〉90・参院選を前に思う 今は自分のターンではなくても

(2025年7月16日付 東京新聞朝刊)
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山梨にて。冷たい川に足をひたしてしばらく遠くを見ていたのが印象的だった

坂本美雨さんの子育て日記

早く選挙権が欲しい娘

 東京都議選から参院選とあっという間に選挙シーズン終盤である。早く選挙権が欲しい娘は、候補者の名前や政党を覚え、興味津々だ。保守ってなに?など娘の質問になるべく簡単に説明すると、自分の中でも漠然としていたものが整理されてとてもいい。

 排外主義的な文言を掲げ、目を疑うほど差別的で多くは事実ではないことに基づいた思想に血の気が引く思いもしつつ、SNSでは「差別に投票しない」というハッシュタグのもと力強い言葉も多く見られた。あまりにも違う価値観に触れると疲弊するが、子どものことを思うとまた必死になり、差別を許す社会、戦争に向かう社会にしてたまるか、と再燃する。

 私は戦争も貧困も天災もまだ経験しておらず、さまざまな大人に守られて育ってきた。でも、そうでない環境にいる人たちと、当然のことだが、同じ人間であって何も差はない、この安定した環境だってちょっとしたことで崩れる脆(もろ)いものなのだという思いが小さい頃からずっとある。高架下で暮らすホームレスの人と、自分の知ってる大人はどう違うのか。近所の痩せたノラ猫と、のびのびおなかを見せているうちの猫はどう違うのか。

自分だったかもしれない

 10代の頃、新聞に掲載された阪神淡路大震災で亡くなった方の名前の中に同い年の女の子の名前を見つけ、自分だったかもしれない、この子と自分はどう違うんだろうと考えた、あの感覚を思い出す。ガザで殺された9歳の女の子と、今となりでスースー眠る娘との差はいったいなんだろう。そう考えるのが、癖になっている。本当の痛みは計り知れないが、自分に関係があることとして想像する。

 今自分が安定した側にいるように思えても、それはとても脆いものだ。今、誰かの存在を否定するような考えをする人にはきっと私もあなたも大切な人も、いつか否定される。

 もしかしたら、今は自分のターン(番、順番)じゃないかもしれない。でも病気になった時、精神を患った時、年老いた時、戦争になった時、もしくは子どもにそのターンが訪れるかもしれない。娘が精神疾患にかかったら? 子どもを産まなかったら? どんな人生であったって価値があるし、存在していていい。

 よく綺麗(きれい)事だと言われるが、人生が綺麗事じゃないからこそ言う。弱い者に優しい社会にするため努力する政治家じゃないとだめだ。わたしもあなたも大事な人もみないつかは弱い存在になるのだから。

坂本美雨(さかもと・みう)

 ミュージシャン。2015年生まれの長女を育てる。SNSでも娘との暮らしをつづる。

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  • おにゃん子 says:

    人の支配には限界がある。
    だってみんな不完全だから‥
    ガザの人々の悲鳴は、本当に胸が痛む。

    だれもが安心して住める、セキュリティも気にしない、永遠に平和で穏やかな地球が早く来ますように。

    おにゃん子 女性 30代

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