「おいしそう」から「ありがとう」へ やってみて初めてわかる、本当の大変さ〈清水健さんの子育て日記〉73

(2025年9月17日付 東京新聞朝刊)
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牛舎でお手伝い。多くを経験できた、親子ふたり旅

清水健さんの子育て日記

息子の質問 仕事柄どうしても…

 「どうしたらいい?」

 毎年恒例の岐阜・飛騨の旅。飛騨牛生産者である親友の牛舎で、息子が焦りながら聞いてきた。クモが出たのだ。今年の夏休みの自由研究は「生産者の今」。親友にインタビューをし、牛舎の掃除も手伝わせてもらった。親友が笑いながら「ほうきで追っ払ったらいいよ」と声をかける。息子は「そんなことできないよ」とさらに慌てる。でも口には出さない。プライドがあるのだろう(笑)。

 最初はぎこちなかったけれど、30分もするとほうきの持ち方が変わり、形になってきた。その様子を見て、親友は「子どもってすごいですよね。結局、自分でなんとかするんですよね」と。

 「生産者として大変なことは?」「牛を育てる責任って何ですか?」。息子なりに質問を絞り出す。こういったとき、仕事柄?どうしても助け舟を出したくなるのは僕の悪いクセ。何度もこらえる。親友は一つ一つに丁寧に答えてくれた。

 「人間もイヤなことがあると、ご飯をおいしいと思わないよね。牛も一緒なんだよ」「だから、寝る場所はキレイにしてあげたい」。牛も一緒。息子はどんなことを感じただろうか。

分かれば変わる 知れば気づく

 大阪に戻り、真っ白な模造紙にまとめる作業。聞いたことはノートにあるけれど、それを自分の言葉にするのは難しい。「だからどう思った?」「どうすればいいと思う?」。仕事で僕自身が自分に問いかけるように、質問を繰り返し、息子の言葉を待つ。

 牛舎でのインタビューの後は、親友が開いてくれた飛騨牛バーベキューを堪能。「こんなぜいたくないよね!」と満面の笑みの息子。その姿を、うれしそうに見つめる親友。一つの「もの」に詰まった多くのことを、息子に知ってほしいと願う。

 9月は「がん征圧月間」です。忙しいから、仕事を休めない。今病気とわかっても毎日の生活があるから。あれこれと言い訳したくなる気持ちは僕にもある。病気を知るのは怖い。でもやっぱり、早期発見、早期治療。自分の「大丈夫」を確かめることが、家族を守ることにもつながる。

 見たことがないクモがいても何とかする。やってみて初めて、本当の大変さがわかる。いつも「飛騨のおじさん」が送ってくれる飛騨牛。箱を開けたときの一言目が「おいしそう!」から「ありがとう」に変わりました。分かれば変わる。知れば気づく。

 子どもは素直です。だから。親としての僕も「今やれること」を大切にしていきたい。

清水健(しみず・けん)

 フリーアナウンサー。10歳の長男誕生後に妻を乳がんで亡くし、シングルファーザーに。

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