教育移住者が増えている長野県伊那市 市全域で自然を生かした学びを実践 ツアーで先輩移住者との交流も

市の担当者(右)の案内で、校内の掲示物を見るツアー参加者=長野県伊那市の伊那小で
探究学習や命の大切さに触れる
市中心部にあるのが伊那小だ。学級ごとにテーマを決めてさまざまな体験を積み、話し合いを重ねて合意形成しながら探究を深める。ヤギなどの動物の世話を通して、命や協力することの大切さに触れる学級もある。毎週決まった時間割があるわけではなく、活動内容に応じて予定を決める。通知表もなく、担任が保護者との個人面談で児童の様子を伝えている。
のびのびと学べる環境が県外からも関心を集め、本年度は全校児童約610人のうち、20人が主に県外から転入してきた。個別の見学希望には対応しきれなくなり、本年度からは月に数回、設定する見学会で希望者を受け入れている。
東京や愛知などから親子が見学
8月下旬には、市が2日間に分けて伊那小などを巡るツアーを企画した。他県では夏休み期間だが、伊那小では2学期が始まっており、子どもたちの様子を直接見てもらえる内容に。東京や愛知などから計15組の親子が訪れ、工作や自由研究の作品などが並べられた廊下を歩き、国語や算数を学んだり、話し合ったりする児童の様子を見学した。屋外の広場では、見学した子どもたちが低学年の児童が世話をするヤギに触れた。
ツアーには、学区外からの通学が可能な小規模特認校のほか、自然の中での保育に力を入れる保育園も盛り込まれた。先輩移住者との懇談なども組み込んだ。伊那小が注目されがちだが、市の担当者は「他の地域や小学校にもそれぞれ魅力的な特色がある」と話す。
市北部にあり、全校児童165人の高遠小では、江戸時代に地元で活躍した「高遠石工」にちなみ、石をテーマに学ぶなど、地域に根差した教育に取り組んでいることが紹介された。
ゆとりを持ったスケジュールで検討を
東京から家族で来た林原真理子さん(41)は「移住先の候補が増えてしまった」と苦笑い。長男伍樹(いつき)さん(7)は「虫探しが楽しかった」と自然豊かな環境を気に入った様子だ。
2年以内に長野県への移住を検討中で、名古屋市から訪れた野川公平さん(39)は0、2、6歳の子と参加し「高遠(地区)の環境や立地、雰囲気は気に入った」。先輩移住者の話を聞いた妻奈緒さん(35)は「教育も大事だが、家族みんなで豊かに過ごせることが目標。生活する上で、コミュニティーになじめるかどうかも大切にしたい」と話した。
入学を予定する前年度の秋から、各学校で健康診断や説明会が始まるが、就学に向け注意点も。学校関係者は「年度途中の転校は子どもにとっても大きな負担になる。子どものことを第一に考え、ゆとりを持ったスケジュールで検討してほしい」と話す。

昨年度の移住者 20~40代の世帯が8割
伊那市は中央、南アルプスに囲まれ、首都圏や中京圏から高速道路で行きやすい。中心部の標高は約600メートルあり冷涼で過ごしやすい。積雪は少なめ。農業だけでなく製造業も盛んだ。
人口約6万5000人の市に昨年度、移住したのは162世帯358人。うち、世帯主が20~40代の世帯が8割近くで、多くが教育環境を求めての移住という。
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私は数年前に東京から長野県伊那市へ移住しました。子どもはすでに卒業しており現在は通っていませんが、当時の経験から感じたことをお伝えします。
まず大前提として、伊那小は確かに独自の取り組みや魅力を持った学校ではありますが、あくまで「公立の小学校」です。そのため、すべての先生が伊那小の教育方針に心から賛同し、同じ方向を向いているわけではありません。先生によっては、一般的な公立校と変わらない指導をされることもあります。
また、伊那小ならではの自由な学習スタイルに惹かれて入学させたとしても、必ずしも保護者の期待通りの教育が受けられるとは限りません。実際、地元の方の中には「学習時間が少ないことで学力が十分に身につかないのでは」と不安を抱き、隣の小学校へ転校させるケースもありました。
さらに誤解してはいけないのは、伊那小は「駆け込み寺」ではないということです。例えば、他校でいじめにあった子が転校してきても必ず安心して過ごせるようになるわけではありませんし、不登校の子が劇的に通えるようになるといった期待も持たない方が良いと思います。
まとめると、伊那小は特色ある学校である一方で、公立校としての制約や現実も存在します。過度な期待を抱いて移住や転校を決断すると、理想とのギャップに戸惑うこともあるかもしれません。学校選びの際には、こうした側面も踏まえて冷静に判断することをおすすめします。