外科医の仕事を体験してみよう 電気メスで豚肉を… 第一線の医師が子どもたちに伝授 背景には、消化器外科医がいなくなる危機感

斉藤和音 (2025年11月11日付 東京新聞朝刊)
 若手の外科医離れが進んでいる。なり手不足を打開しようと日本外科学会が目を向けたのは、将来医師になるかもしれない子どもたち。「大変そう、怖そうというイメージを変え、志望者を増やしたい」と、学会の若手や中堅の医師が中心となり、魅力を伝えるイベントを開いた。 
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真剣な表情で腹腔鏡手術の体験をする子どもたち=東京都江東区の日本科学未来館で

全国の医学生も集めて学び合う

 東京で9月に開かれた外科医の仕事を体験するイベント「オペスル2025」。会場には実際の医療機器が用意され、参加した子どもたちは現役の外科医や医学生に使い方を教わりながら、電気メスで豚肉を切ったり、腹腔鏡(ふくくうきょう)手術の鉗子(かんし)を操作して皿から皿へ小豆を移したりした。1500人の予約枠が1日で埋まるほどの盛況で、心臓手術や内視鏡手術の手技を実演するトークイベントもあった。

 「簡単そうに見える注射も、やってみると難しかった。お医者さんはすごい」と東京都豊島区の小学6年伝馬将生さん(12)は目を輝かせた。医学部を目指す中高生の姿も。さいたま市の高校1年の女子生徒(15)は「人の命を救う外科医は憧れ。勉強を頑張って医学部に入りたい」と意気込んだ。

 オペスルの実行委員長、京都大病院消化管外科の山本健人さん(41)は、「子どもたちに外科医を身近に感じてもらうことが、将来的に志望者を増やすことにつながる」と期待する。外科医には先輩から技術を教わり、次の世代につなぐという営みが息づいているという。「練習すればするほどうまくなる、いわば技術屋。自分の技術が直接役立つことのやりがいは何にも代え難い」と強調する。

 2回目となる今回から、全国の医学生53人をスタッフに加えたのもそのため。第一線で活躍する外科医から手技を学び、それを子どもたちに伝えることで「教える楽しみも感じてもらいたい」と考えた。

大変だと言われる以上の魅力がある

 縫合体験のブースを担当した名古屋市立大5年の鈴木麻央さん(23)は実習で、「動いている心臓を初めて触って感動した」と心臓外科を志望する。手術の手技を実演した同大病院心臓血管外科の山田敏之さん(44)の助手も務め、「子どもたちに『外科医はかっこいい』と言ってもらえ、私もそう思う。大変だといわれる以上の魅力がある」と思いを新たにしていた。

 医療技術の進歩で、ロボット手術など患者の負担が少ない治療も増えてきた。山本さんは「体力的に難しかった高齢者なども手術が受けられるようになり、外科医は今後も必要とされ続ける。手術が受けられる環境を守るためにも、外科医不足の解決策を探していきたい」と力を込めた。

長時間・時間外勤務…進む外科医の高齢化

 日本外科学会の若手や中堅医師の有志が企画したオペスル。背景には、外科医の志望者が減っていることへの強い危機感がある。

 厚生労働省によると、2022年の医師の数は過去最多の約34万人。20年前に比べ3割増えた一方、胃や腸のがん手術などを担う消化器外科や一般外科の医師は約1万9000人と2割以上減った。15年後の40年にはさらに減り、消化器外科医は5000人の不足が見込まれる。

 長時間の手術や時間外の緊急対応など厳しい勤務形態の一方、給与水準は他の診療科と変わらないことなどから、敬遠する若手医師が少なくないという。同学会の武冨紹信理事長は「外科医の半数は50歳以上で、高齢化が進んでいる。外科手術でしか治せない病気もあり、魅力の発信や労働環境の改善などに取り組むことで、外科医の確保につなげたい」と述べた。

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