見逃される子どもの便秘 気付けないのはなぜ? 「便をため込む癖」がつく悪循環を小児外科医が解説

「本人も周りの大人も気付かない『隠れ便秘』の子どもがかなりいる」と話す小児外科医の中野美和子さん=東京都世田谷区で
子どもの「便秘」どうやって判断する?
-まず、便秘の定義を教えてください。
定義としては、「便がたまっている状態」「快適な排便ができない状態」のどちらか、もしくは両方です。
便秘の診断は、排便の頻度と形状に注目します。日本小児栄養消化器肝臓学会の診断基準は、1週間のうち「排便が2日以下」「硬い便が2回以上」の両方があてはまる場合を便秘としています。一般の方向けには、このどちらかがあてはまれば便秘を疑い、両方あてはまれば便秘の疑いがかなり強いとして受診を勧めます。
便の形状は、「ブリストルスケール」という便の硬さや形状から排便の状態を判断する際に使われる指標=下記イラスト「良い便と悪い便」=を参考にしてください。便の形を「硬く、コロコロしている便」から「水のような便」まで7段階で示し、真ん中の「なめらかなバナナ状の便」を健康としています。

3、4の形で硬そうでなくても太い便や、5ぐらいの軟らかさでも大きな塊状の便は注意
便の表面がひびわれたり、ごつごつしたりしている便も便秘のリスクがあります。大人だとこういう便が出る人も多いので、同じような形状の子どもの便を見ても問題だと感じない人も多いかもしれません。でも、2歳児でこのうんちが出ていたら立派な便秘です。
便のにおいや排便後のすっきり感も重要です。「バナナ状の便」であっても、ねっとりした粘土状の便で、便器にべったりとついたり、ひどく臭ったりする場合は腸内環境が悪化している証拠です。何度もトイレに行ってようやく出たり、出てもすっきりせず便が残った感じがしたりする場合も便秘の可能性があります。
排便恐怖で我慢→サインを出さない体に
-どうして便秘になってしまうのでしょうか。
離乳食や幼児食の開始時など、食生活が変わるタイミングは便秘になりやすいです。離乳食が進むと便に形ができ、幼児食に進んで偏食が出ると便が硬くなって、出にくくなるからです。入園や入学など、環境が変わる時期も便秘になりやすいです。子どもにとって新しい環境や生活リズムはストレスです。交感神経が優位になってリラックスできなくなると、出るものも出なくなります。
何らかの理由で便が滞り、硬い便や大きい便が続いて痛い思いをすると、子どもは怖くなって排便を我慢するようになります。そうすると、たまった便を出すにはさらに大きな苦痛が伴います。
子どもは肛門のすぐ上にある「直腸」にたまってしまうタイプの便秘が多く、大きなおにぎり状の便が出ることがあります。中には缶ビールくらいの太さの便が出る子もいます。当然、出すときに相当な痛みを伴うので、子どもは出すのを怖がるようになります。私たちは「排便恐怖(排便忌避)」と呼んでいます。
排便恐怖がある子どもは、「直腸に便がたまったから排便して」と体がサインを出しても、我慢してしまいます。サインを出しても排便で応えてもらえないと、体はだんだん少しの便量ではサインを出さなくなります。つまり、鈍くなってしまうということです。こうして、直腸に便がたまっていても、排便のサインが出ない、排便しないので便がたまる、便が大量にたまるので排便時にいっそう痛みが強くなる、という悪循環に陥ります。結果、便がたまっていても便意を感じない腸になり、便をため込む癖が付いてしまいます。

中野美和子さん著「赤ちゃんからはじまる便秘問題」。便秘のしくみや年齢による症状と治療について豊富な治療例を交えて解説している
肛門をふさぐ大きな便の塊に注意
-毎日便が出ていても、便秘のケースがあるのですね。
回数だけでは便秘の判断はできません。食べた量をしっかり出せているかどうかです。毎日排便があっても、小さな便が出ただけでは、出たうちに入りません。先ほどお伝えしたとおり、便の形状も大事です。
便の漏れや下着の汚れがある場合は、特に注意が必要です。肛門をふさいでいる大きな便の塊があって、その周りの狭いすき間を通って緩い便がもれるように出てきているケースです。これは「便塞栓」による「漏出性失禁」と呼ばれる状態です。
便塞栓は「肛門をふさいでいる大きな便の塊」で、先ほど説明した排便時の痛みや苦しみもその症状で、悪循環を起こすもとになってもいます。
-子どもの便秘の治療は、どうやって進めればよいでしょうか。
まずはかかりつけの小児科医を受診するとよいと思います。便をやわらかくする薬で出るようになるのであれば、まだ軽~中度の段階です。便や痛みの状態を見てもらいながら薬の種類や量を調整し、服薬を続けてください。
便をやわらかくしても出ない場合は、座薬や浣腸(かんちょう)でたまった便を出す治療に進みます。小児科医と相談し、この段階で、排便外来や小児外科など、より専門的な治療が受けられる病院や科に移ることもあります。子どもの便秘の治療を多く手がけている医療機関だと安心です。
-治療にはどのくらいの期間がかかるのでしょうか。
症状にもよりますが、それ以外も含めて個人差が大きいです。軽い症状でも、頑固で怖がりの子どもは時間がかかったり、家庭環境によっては内服がきちんとできずに時間がかかったりする場合もあります。1カ月で治る人もいれば、数年単位でかかる人もいます。薬を飲まなくても、バナナ状の便が週に3回以上出るようになったら治療終了です。ただ、その過程で、便が出やすくなったり、おなかが痛くなる頻度が減ったりと、治療の効果は感じられると思います。体が成長し、体力が付いて食事量が増えることで、便秘が解消に向かうこともあります。

子どもの便秘は服薬治療が長期間におよぶケースも
治療の過程では、入園や入学のタイミング、旅行や発表会などのイベントで一時的に便秘の症状が悪化することもあるでしょう。そうしたタイミングに合わせて、便の様子を確認しながら、薬の量を子ども自身や保護者が調節することでうまく乗り切れるようになることも大事です。
「便秘状態が当たり前」だと気付けない
-便秘が疑われる小学生の中には、乳幼児の頃からすでに便秘だった子も多い、と指摘しています。
保護者や保育園・幼稚園の先生など、周りの大人が便秘に気付かず、放置されてしまったケースはかなりあると考えます。毎日便が出ていたり、周りの大人自身が便秘を正しく理解していないと、子どもの状態が「ケアや治療が必要である」ということに気付けません。
自分も便秘のまま大人になった人にとっては「排便は苦しいもの」であることが当たり前で、子どもが排便で苦しんでいても見逃してしまいます。
子ども本人も、赤ちゃんの頃からずっと便秘や便秘気味だとそれが当たり前になってしまいます。じわじわと来る変化は気付きにくいものですし、「まあまあ痛い」くらいだったら口にしません。「言ったらお医者さんに連れて行かれる」と思って言わない子もいます。
つまり子どもが便秘の場合、幼くて表現できない、「困ったことが起きるかもしれない」という恐怖で言えない、自分が便秘だと気付かない・気付けない-ということが起こります。だからこそ、周りの大人が便秘の定義をしっかり理解し、子どもの排便の状況を把握して便秘の傾向に気付いてあげる必要があります。まずはお子さんと一緒に1週間、排便記録を付けてみることをお勧めします。

NPO法人「日本トイレ研究所」が作成した「うんちチェックシート」
中野美和子(なかのみわこ)さん
日本小児外科学会指導医。国立小児病院・成育医療センターを経て、さいたま市立病院で小児外科部長を務めた(現在は非常勤)。神戸学園理事・校長。2004年にさいたま市立病院で排便外来を開設し、先天性の疾患、先天性疾患で手術を受けた後の長期フォローだけでなく、一般の子どもの難治性便秘や便通異常、便失禁の治療も行っている。著書「赤ちゃんからはじまる便秘問題」(言叢社)では、便秘のしくみや年齢による症状と治療について豊富な治療例を交えて解説している。

さいたま市立病院で2004年に排便外来を開設し、多くの便秘の子どもたちを治療してきた小児外科医の中野美和子さん=東京都世田谷区で
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孫の症状に、あてはまる所が有ります。参考にさせて貰います。