五味太郎 絵本出版年代記展「ON THE TABLE」作家生活52年、全372作の絵本がずらり「のんびり楽しくテーブルの上で描いてきた」

写真

展覧会の会場「LURF GALLERY」でインタビューに応じる五味太郎さん=東京都渋谷区で(平野皓士朗撮影)

「きんぎょが にげた」「たべたの だあれ」など世界中の人に愛される作品を描き続ける絵本作家の五味太郎さん(80)が、52年にわたり刊行した全ての作品を展示する絵本出版年代記展「ON THE TABLE」を東京都渋谷区のルーフギャラリーで開催している。大人も子どもも自由に絵本を広げ、読むことができる。「自分の絵本が一堂に会するのははじめてのこと」と語る五味さんに、展覧会に込めた思いを聞いた。

原画展と違い「絵本を見てほしい」

-絵本作家さんの展覧会は原画が並びますが、今回、原画はなく、五味さんが描いてきた全372作品の絵本が並びます。

写真

五味太郎さんの絵本全作品がずらりと並ぶ

はじめての試みなんだ。ずっと、自分が手がけてきた絵本だけを並べる展覧会をやりたいと思っていた。今までも原画展は、海外も含め日本各地40~50カ所でやったことがあるんだけれど、僕自身は画家ではないから、原画を飾るということに違和感があった。「俺は絵本を作っているのだから、絵本を見てほしい」って。

だから、一度、自分の本当に好きな形でやってみたいと思って、今回は自主企画なんだよ。まずは、僕がやるから、みんな見てくれと思っている。

-ご自身が52年かけて作ってきた作品がずらりと並び、どう思いましたか。

僕の頭の中には、なんとなく想像はあったんだけど、こうやって並べてみるとやっぱりすごいなぁって思ったよ。だから、さすがに準備をしている時は、こんなに作品があるのに「俺、また描くのかよ」って次の絵本への創作意欲は落ちちゃった(笑)。

「テーブルの上」に込めた意味

-展覧会のタイトルは「ON THE TABLE」。入り口には五味さんからのメッセージが書かれています。

写真

会場の入り口に飾られてた五味さんからのメッセージ

僕の仕事は、非常に個人的な仕事。まさに、「テーブルの上で」。実はテーブルとデスクと迷ったんだけど、僕自身机に向かってがむしゃらにやったというよりも、のんびりと楽しくテーブルの上で絵を描いてきたと思っている。だから、テーブルにしたんだ。「俺がテーブルの上で描いた、読者の人たちにテーブルの上で読んでもらった作品たち」という思いが込められている。

-ピンク、緑、青、グレー、黒…。五味さんの絵本の世界をほうふつさせる鮮やかな色使いの箱をテーブルに見立てていて、それぞれの箱には1973年から1年ごとに年が記されています。上にはその年に刊行された絵本が並びます。

それも今回の展覧会では特徴の一つ。「僕はこの年に生まれました」という人もいて、記念写真を撮っている人もいるよ。

写真

それぞれの年が刻まれたテーブルの上にその年刊行された絵本が並ぶ

嫌なことでも「絵本のネタになる」

-私も「私が生まれた年の作品はこれなんだ!」と写真を撮りました(笑)。子どもの頃、五味さんの作品と一緒に生きてきたので、ずっと同い年の友だちの感覚だったのですが、「きんぎょが にげた」や「たべたの だあれ」などが、実はすごく先輩だったことに驚いています。毎年毎年、何冊もの絵本を出されています。欠けている年がないんですよね。

実は1冊だけの年があるんだよね。その年は、初めて病気をしたんだ。それ以降、必ず定期健診をしているよ。医者とのミーティング。ずっと調子が良かったわけではないのだけど、フリーランスで仕事をしているから健康診断をしたことがなかった。いいタイミングだったなって思っていて、病院に行く楽しみができた。MRIにも入ったんだけど、宇宙から帰還したみたいで、大好きなんだ。

-五味さんは普通だったらちょっと嫌だなと思うことも、楽しんでいるなと思います。

写真

楽しんでいるわけではないんだよ。自分を苦しめないタイプ。それに、何かあってもこれは絵本のネタになるかなとかいつも考えている。日常生活のこれといった具体的なことはないんだけど、気配とか気分とか、漂ってくるものがあって、これは1冊絵本にできるなって思ったりする。

読者から反応があるのが楽しい

-これだけたくさんの本がありますが、特に思い入れのある本はありますか。

全部同じくらいの気持ちだよ。本というのは、世間との関係だと思っているからね。読者から何か反応がある、その関係が楽しい。「きんぎょが にげた」(福音館書店)は累計発行部数348万部だけれど、僕自身、本当に気楽に描いたから、こんなになるなんて思わなかった。

写真

「きんぎょが にげた」「かくしたの だあれ」など五味さんの作品が並ぶ

「らくがき絵本」シリーズ(ブロンズ新社)も世界で人気。特に中国ですさまじい。みんな同じくらいの思いを込めて描いているんだけど、読者からの反応はバラバラなんだよな。僕自身は「これは話題騒然になるだろう」と思っていた絵本なのに、そうでもなかったものなんかもあるよ。

写真

中国で大人気の「らくがき絵本」

国同士がギクシャクしていても…

-先ほど、台湾から五味さんのファンだという方が来場されていました。五味さんの作品は海外にも多くのファンがいます。

割と初期の段階から評価してもらえた。面白いと思うことは、国ごとに微妙に違うのかもしれないけれど、五味太郎的絵本を受け入れてくれる風土の編集者がいて、出版したいと自然に思ってくれるのはうれしい。だから、国同士で政治の世界はギクシャクしているけれど、俺たちはみんな仲がいいと思っているんだ。

今日も「みんなうんち」のドイツ語版が届いた。50年前の絵本だけど、ドイツの人たちからしたら五味太郎は新人作家だな(笑)。

写真

「みんなうんち」のドイツ語翻訳版を手にする五味さん

-400冊近い作品を手がけてきた五味さんですが、ご自身の絵やラフなどは管理されていますか。

あまりにも何もしてないんだよ。考えてみたら、初版なんかはきちんと取っておくべきなんだと思うんだけど、僕は全くそういうことに興味がなくって。ボツになった原稿を取っておくなんて、どうするんだよって思うタイプ。ラフなんかもまとめて、全部捨てちゃうんだよ。究極な話、原画も描いてしまったらいらないと思うくらい。一応、出版の契約で保管しておく義務があるから、原画は倉庫に取っておいているんだけどね。

写真

今回貴重な本も展示していて、それらは飾るだけで手に取れないようにアクリル板で保護されている。けれど、あまり貴重品扱いされるのも好きじゃないし、僕自身は「今日一日」にしか興味がないんだ。

一生懸命描いた印象が全くないんだ

-ギャラリーの空間も落ち着いていて、すてきですね。流れているきれいな音楽も魅力的です。

ミュージシャンで息子の馬場庫太郎が音響を担当しているんだ。僕のYouTube動画の音楽や、以前、日本ハムファイターズの開幕セレモニーで球場のエスコンフィールドの大型ビジョンに絵本をアニメ化した作品を流したことがあるんだけど、その時も音楽をつけてもらった。

写真

-展覧会の図録「五味太郎 絵本クロニクル 1973-2025完全版」(アノニマ・スタジオ)は400ページも越え、もとても見応えがあります。

編集者でパートナーの内海陽子さんからインタビューを受けて、全作品一冊一冊に細かくコメントしていった。話していると、描いてきた当時のことを全部思い出すんだよね。でも、やっぱり向こう見ずに汗水垂らして、一生懸命描いたって印象が全くない。すごく楽しくて、今も絵本を描いている。

写真

もっと面白い本があるんじゃないか…

-やはり数多くの作品を生み出してきた五味さんだからこそ、できる展覧会だなと感じます。

もちろん、その自負はあるよ。絵本作家のtupera tuperaの2人が来てくれたんだけど、「私たちはまだ50冊…!」って悔しがっていたもん。おまえたちには負けない!なんて競争してはいないんだけどね。

写真

「みんなうんち」は20カ国以上で翻訳されている

僕はやっぱり印刷して、とじて、並べるという本という形が好きなんだ。出版の文化は絶対いいなと思っている。新聞もそうだよな。もっと面白い本があるんじゃないかって、永遠に探っているんだよ。出版業界もデジタル化に向かっているけれど、ぜひ業界の人たちにもこの展示を見てほしいなと思っているんだ。

-来場された人たちへ。

自由に手に取って読んでほしいよな。それから、来た人たちにこの展覧会を見て、どう思ったか聞きたい。やっぱり僕は反応されることが好きなんだ。

僕自身は本を楽しんでほしいとか、子どもたちを本好きにしたいなんて思わない。嫌いなら嫌いでいい。逆にその子に何が好きか、聞いてあげたいよね。君は何が好き?って。

写真

「来場した人たちの反応が楽しみ」と語る五味太郎さん

五味太郎 絵本出版年代記展「ON THE TABLE」

開催期間は2月2日まで、午前11時~午後7時(12月30日~1月6日は休館)。場所は東京都渋谷区猿楽町28-13 ROOB1のLURF GALLERY(ルーフギャラリー)。入場バッチ1500円を購入で期間中何度でも入場可能。未就学児は無料。

書影

「五味太郎 絵本クロニクル 1973-2025 完全版」(アノニマ・スタジオ)

五味太郎(ごみ・たろう)

写真 五味太郎さん

1945年、東京都調布市生まれ。桐朋高校、桑沢デザイン研究所卒業。工業デザイナーやグラフィックデザイナーを経て、1973年に「みち」(福音館書店)で絵本作家としてデビュー。代表作「きんぎょが にげた」(同)は累計発行部数348万部を超える。国内外の絵本賞を多数受賞。展覧会に合わせ、全著作を紹介する『五味太郎 絵本クロニクル 1973-2025完全版』(アノニマ・スタジオ)が刊行されている。ポッドキャスト番組「五味太郎 絵本の時間」もスタート。

筆者・長壁綾子

写真1988年、群馬県高崎市生まれ。2018年より毎週「えほん」のコーナーで新刊の絵本を紹介している。また、絵本、児童書について取材しており、作家のみなさんが作品に込めた思いを伝える。五味さんの「きんぎょがにげた」(福音館書店)「さる・るるる」(絵本館)は子どものころから大好きな絵本。

 

 

0

なるほど!

10

グッときた

0

もやもや...

0

もっと
知りたい

すくすくボイス

この記事の感想をお聞かせください

/1000文字まで

編集チームがチェックの上で公開します。内容によっては非公開としたり、一部を削除したり、明らかな誤字等を修正させていただくことがあります。
投稿内容は、東京すくすくや東京新聞など、中日新聞社の運営・発行する媒体で掲載させていただく場合があります。

あなたへのおすすめ

PageTopへ