誰でも通園は“社会全体で子どもの育ちを支える”制度となるか 保育士足りず、受け入れる園がない自治体は

加藤祥子 (2026年3月25日付 東京新聞朝刊に一部加筆)
 「4月の時点で、どの施設も実施できない」。2026年度に全国の自治体で始まる「こども誰でも通園制度」について、三重県四日市市保育幼稚園課の広田厚史課長は言い切る。制度には新たに公的医療保険料に上乗せして毎月徴収される「子ども・子育て支援金」が使われるが、豊かな財政を基に独自に手厚い受け入れ体制を整える自治体がある一方、保育士不足で受け皿を十分に確保できない自治体もあるのが現状だ。
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保育士の募集チラシが張られた保育幼稚園課の窓口=三重県四日市市役所で

「保育士の離職が増える」

 四日市市は保育士不足により、25年4月時点での保育園の待機児童が56人と、全国ワースト4位。広田課長は、制度の目的に理解を示しつつ「(子の預け先がなく)仕事を辞めなければいけない人を差し置いて、家庭で育てられている子を預かるのか」と悩ましげだ。

 市は私立の保育園や子ども園、幼稚園に誰でも通園の実施を呼びかけたが、手を挙げる園はなかった。「慣れない子が来たら、毎日が4月の状態」「保育士の離職がさらに増える」との厳しい声もあった。

 市は、20年度から公立園より給与が低い私立園の保育士への補助額を増やすなどして待遇を改善し、人員確保を目指している。ただ、同県には保育士を養成する大学が少なく、近くの名古屋市や岐阜県の学校に通い、その地で就職する人も多く、増加にはつながっていない。

 国は、誰でも通園の実施を保育施設に限っていない。市は安全面から認可保育園を考えていたが、園に併設される子育て支援センターなどで預かることも視野に入れる。それでも需要には見合わないとし、広田課長は「形だけの状態になるだろう。でも(保育園で誰でも通園を始めることで)待機児童を増やすことはできない。そこは曲げられない」と話す。

まずは待機児童を解消したい

 待機児童が40人いる滋賀県近江八幡市も、最小限からのスタートだ。公立保育園1園のみで、週2回、55人ずつ預かる。本来1カ月の利用時間の上限は10時間だが、国が経過措置として認めた3時間とした。

 民間保育園では人手不足で実施できず、公立幼稚園は乳児を保育する環境が整っておらず、断念した。

 近江八幡市は対象者を700人弱と算出するが、利用できるのは月40人程度。月に1回の通園を確保するのがやっとだ。市幼児課の土井忠史課長は「国の目的に沿ってやりたいが、保育士がいるなら、まず待機児童を解消したい」と明かす。

 待機児童が132人で全国ワースト1位の大津市は、4月時点で空きがある小規模保育所などで実施する予定だ。

自治体間の差「国が改善を」

 誰でも通園の財源となる子ども・子育て支援金は原則すべての現役、高齢世代から徴収される。「待機児童問題は優先的に解決しなければならないが、支援金を負担するにもかかわらず利用できない人がいるのは問題」。両制度に詳しい奈良女子大の中山徹名誉教授は指摘する。

 中山さんは東京都練馬区のように、保育施設で長時間の生活を経験できることが理想だとする。「自治体の財政力の違いで、提供できる保育の内容に差が広がりすぎている。国は自治体に任せっぱなしにしてはいけない」とし、国に保育士不足の解消や処遇改善を求めている。

 一方、こども家庭庁の担当者は「自治体独自の事業についてコメントする立場にない」。実施の壁となる待機児童問題には「全ての自治体の課題ではない。各自治体の創意工夫でやってほしい」との姿勢だ。

 こども家庭庁は今後、誰でも通園の適切な時間数や施設側に支払う単価を検証する。中山さんは「全国的な調査をし、一時預かりとの整合性や保育士の配置基準についても政治の場で議論を続けないといけない」とくぎを刺す。

こども誰でも通園制度

親の就労の有無にかかわらず、生後6カ月~3歳未満の誰もが保育施設に通える制度。実施するこども家庭庁によると、2026年度にかかる予算は349億円。各施設の改修費などは含まれていない。利用時間の上限は月10時間だが、26、27年度は経過措置として約35自治体が月3~10時間未満で運用する見込み。利用料は事業所が定めるが、同庁は1時間300円を標準としている。こども家庭庁は「一時預かり事業」(23年度時点で1269自治体が実施)が主に保護者の都合で子どもを預かるのに対し、誰でも通園は「子どもの健やかな成長」を主目的とする点で理念が異なると説明する。こども家庭庁の23年度の推計では未就園の0~2歳児は約134万人。

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