〈アディショナルタイム〉子どもが熱中症になりやすい理由 サッカー日本代表コーチが解説〈後編〉

谷野哲郎

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 毎日暑い日が続きます。酷暑や猛暑の中でどうしたら、子どもを熱中症から守ることができるのでしょうか? 前回に引き続き、サッカー日本代表・松本良一フィジカルコーチに話を聞きました。

幼稚園くらいの子は、一番注意が必要です

 「年齢が低いほど、暑さに対する注意が必要ですね。今は幼稚園の子たちもサッカーを楽しむ時代になっていますが、その子たちが一番気を付けなければいけません」と松本コーチは指摘します。理由は「子どもは自分の体調を把握したり、話したりするのが苦手ですし、大人に比べて、自分で身を守る能力が足りません。また、小さなお子さんは地面に近いので輻射(ふくしゃ)熱を受けやすいこと、発汗機能が未熟なことが挙げられます」

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 元々、子どもというのは、発汗機能が成長しきっておらず、熱しやすい体質なのだそう。「子どもは汗をかくイメージがありますが、よくみると、顔や頭や背中とか、発汗場所が限られていますよね。大人は体全てを使って発汗できますが、子どもの場合は発汗のバランスが崩れているので、どうしても体全体を冷やしにくい。冷えていない部分を冷やすために血液を流そうとして、またバランスが崩れていく。これが熱中症の原因になるのです」


〈前回はこちら〉子どもを熱中症から守る3つの対策 サッカー日本代表コーチが解説〈前編〉


 松本コーチによると、人が自ら体を冷やす方法はいくつかあり、汗をかいて気化熱で下げる方法と、皮膚に近い血管が血流を増やし、低い温度の血液を循環させる皮膚血液循環による方法が一般的だとか。前回紹介した冷えたペットボトルを手で握るなどの「手掌冷却法」は皮膚血液循環を利用したものなんですね。

 では、親や指導者は子どもたちに何ができるのでしょうか?

-熱中症で注意することは?

 「日差しや温度だけにとらわれず、湿度にも注意してあげてください。発汗には『有効発汗』と『無効発汗』というのがあって、湿度が高すぎると汗が蒸発せずに、体温が下がらない、意味のない発汗になってしまうことがあります。湿気がこもる体育館の中や雨上がりといった状況も注意が必要です」

-家でクーラーは使ってもよい?

 「はるか以前、スポーツ選手は体を冷やすなと言われた時代がありましたね(笑)。今は絶対に使った方がいいです。暑すぎて発汗しすぎていたり、十分な睡眠が取れないのであれば、そちらの方が問題なので。ただし、冷やしすぎないように注意してください」

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-日本代表で心掛けていることは?

 「U-22(22歳以下)チームでは、合宿中などで朝起きたときに子どもたちの顔を見ます。そして話し掛けます。食堂に行き、いつもの食事が取れているか、いないかを見て、『今日はどう?』と声をかけます。熱中症は水分だけでなく、睡眠、食事も密接に関係します。朝のコンディションチェックはご家庭でもやってみてください」

-良いチェックの方法は?

 「体重計でお子さんの体重を量ることをお勧めします。代表では、練習前と練習後に体重を測定するのですが、体重の減少=水分量の減少なので、そこをチェックします。体重測定は自己管理という意味でスポーツでは常識。一日に何度も量るときもあります。ランクが上の代表選手ほど、自己管理がしっかりしています。体重を量るのは代表への第一歩だと思ってください」

 サッカー選手を長年にわたって見てきた松本コーチは「才能」よりも「自己管理」が大事だと言います。「才能のある子どもをたくさん見てきましたが、自己管理ができていないため、代表からいなくなった子もいます。自分で体調を管理する意識があれば、水分補給や食べ物への考え方も変わってきます。それが体づくりやプレーに出るのです。小さい子にはまず、親や指導者が教えてあげて、最後は自分で判断できる子に育ててあげてください」

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 確かに代表選手を取材すると、男女問わず、どの年代別の選手たちも自己管理の意識が強いのを感じます。以前見たなでしこのU-20(20歳以下)の選手たちは片付けや移動のときでも水を持って、いつでも補給できるようにしていました。

 最後に松本コーチはこう話しました。「熱中症は命にかかわります。外遊びや練習の前にお子さんの状態をしっかりと観察すること、途中で水を飲む癖をつけさせることを徹底させてください。スポーツで身に付けた知識を命を守ることに生かしてもらえれば、うれしいです」

「アディショナルタイム」とは、サッカーの前後半で設けられる追加タイムのこと。スポーツ取材歴30年の筆者が「親子の会話のヒント」になるようなスポーツの話題、お薦めの書籍などをつづります。
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