乳幼児期の「肌の保湿」が大事! アトピーや食物アレルギーのリスク軽減…「妊婦の食生活が原因」は誤りだった

五十住和樹 (2020年1月21日付 東京新聞朝刊)
 アトピー性皮膚炎や食物アレルギーの発症を防ぐため、乳幼児期からのスキンケアを母親らに教える取り組みが始まった。アレルギー疾患対策基本法に基づき厚生労働省が2017年に定めた基本指針に、従来の学校や保育所での対応から早めて「乳幼児期の保健指導」が明記されたことが後押し。健診で指導する保健師らに正しい知識を教える研修も広がっている。
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スキンケア講座でせっけんの泡立て方を学ぶ母親たち=神奈川県伊勢原市で

赤ちゃんの薄い皮膚 バリアー機能補って

 「赤ちゃんは皮膚が薄いので、バリアー機能を補うための保湿が大切です」

 昨年12月、神奈川県伊勢原市で開かれたスキンケア講座。赤ちゃんを連れた父母ら24人に、国立病院機構神奈川病院アレルギー科医師の渡辺博子さん(48)が訴えた。

 皮膚を洗う時、洗浄力を高め、刺激を少なくするためせっけんの泡を使う。渡辺さんらは、ビニール袋に入れた液体せっけんを上手に泡立てる方法も教えた。ステロイド軟こうも「短期間で集中的に塗り、外見が正常になったら保湿に移行する」などと指導した。

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皮膚を洗う時は、せっけんの泡を使うのがポイントという

保湿剤でアトピーの発症が30~50%低下

 新生児期から保湿剤を塗ることで、アトピー性皮膚炎の発症リスクを30~50%抑えられる-。国立成育医療研究センター(東京)の大矢幸弘アレルギーセンター長(62)らが2014年に発表した研究成果だ。同センターで生まれた赤ちゃんのうち、保湿剤を塗る59人と塗らない59人で生後8カ月の発症率を比べた。

 また同センターの新生児1500人の追跡研究では、生後1~2カ月でアトピー性皮膚炎も含めた湿疹を発症した子は、湿疹がない子に比べて7.28倍も食物アレルギーになるリスクが高いことが分かった。

 湿疹や乾燥肌だと皮膚のバリアー機能が低下、アレルゲンが侵入しアレルギー反応を示す「経皮感作」が起きやすくなる。大矢さんは「保湿剤を塗ってもアトピーになる人はいる。完全には防げないが、きちんとしたスキンケアで発症リスクを減らせる」と話す。

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保湿剤の塗り方を教わる受講者たち

「離乳食で卵を避けても、予防効果なし」

 この研究から、大矢さんは「母親が妊娠期や授乳期に食べた食物が原因で子がアトピー性皮膚炎や食物アレルギーになるのではない」とも指摘する。

 大矢さんらは、乳幼児に多いとされる卵アレルギーも調べた。アトピー性皮膚炎の新生児のうち、生後6カ月から加熱卵粉末(50ミリグラム)を食べた60人と、同量のカボチャ粉末を与えた61人を比較。卵を食べていた子の1歳時の卵アレルギー発症率は8%で、カボチャ粉末を食べた子の同発症率38%を大きく下回った。大矢さんは「離乳食で卵を食べ始めるのを遅らせることにアレルギー発症予防の効果はない、と科学的に証明されたのは初めて」と話す。

誤った情報に振り回されないで…厚労省がQ&A公開

 厚生労働省研究班(代表・足立雄一富山大大学院教授)の全国調査では、乳幼児健診などで「アレルギー疾患の指導をしている」と回答した保健所・保健センターは8割。4割は妊婦にも指導していた。

 調査では、保護者が誤ったネット情報や知識に振り回されている状況も判明。厚労省は2019年3月、アレルギー発症予防やアトピー性皮膚炎、食物アレルギー、気管支ぜんそくなどへの対応や災害時の備えなどをQ&A方式でまとめた保健師らに向けた「保健指導の手引き」を発行した。

 「母乳栄養の方がアレルギーになりにくいか」「食物アレルギー予防のため離乳食開始を遅らせる方がいいか」などの質問に答えており、子育て中の父母にも参考になる。日本アレルギー学会の「アレルギーポータル」で無償でダウンロードできる。

元記事:東京新聞 TOKYO Web 2020年1月21日

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