災害時にも期待される保育士の役割 子どもの心を読み取り、日常取り戻す支援を
「子どもは優先されない、と悲しかった」
東日本大震災で大きな被害を受けた宮城県名取市の閖上(ゆりあげ)地区。漁港から260メートルの場所にあった閖上保育所も津波で全壊したが、園内にいた1~6歳の園児54人は職員の車に分乗して2キロ離れた小学校へ逃げ、全員が無事だった。
だが、小学校では情報が入らず、食料や飲み物が配られることも知らされなかった。当時の所長、佐竹悦子さん(69)は、残っていたジュース7本とパン7個を確保して園児に分けた。「誰が悪いわけでもないけれど、子どもは優先されないんだと、ただただ悲しかった」と振り返る。
それでも、夜が明けるまで、泣く園児はいなかった。「保育士の力に助けられた」と佐竹さん。保育士たちは避難先の教室で、普段の保育所と同じように園児と一緒に絵を描き、手遊びをした。笑顔で「大丈夫だよ」と言いながら。佐竹さんは「子どもは大人以上に環境の変化に慣れにくい。日常に近づけるように周囲が努めて」と呼び掛ける。
避難所でも子どもが遊び、勉強できるスペースを
防災の啓発活動などに取り組む「こども女性ネット東海」(名古屋市)代表理事の藤岡喜美子さん(66)も「必要なのは、いつもの暮らし」と強調。2016年の熊本地震では、被災した7つの保育園に4カ月間、熊本県内外からベテラン保育士18人を交代で派遣し、現場の負担を減らした。「保育の専門家なら子どもの表情やしぐさから読み取り、日常を取り戻すための支援ができる」と力を込める。
「災害時は誰もが食料などの基本的ニーズが満たされていない。子どもは置いてきぼりになりがち」。被災者支援の在り方などを調査、研究するダイバーシティ研究所(大阪市)代表理事の田村太郎さん(49)はこう指摘し、「避難所でも子どもたちが普段通りに遊べたり、勉強したりできるスペースを確保すれば、ストレスを減らせる」と話す。
「見る」「聴く」「つなぐ」 ケアは3本柱で
子ども支援専門の国際非政府組織(NGO)「セーブ・ザ・チルドレン・ジャパン」(東京)は、誰でもできる緊急時の子どもの心のケア「子どものための心理的応急処置(PFA)」の普及を進めている。
対応の基本は「見る」「聴く」「つなぐ」の3本柱。まず周囲の状況や子どもの状態を意識的に見る。支援が必要な子どもに寄り添い、相手が話し始めたら耳を傾ける。衣食住や医療などのニーズがあったら必要な情報を提供したり、専門家などにつないだりする。
子どもは発達の段階によってニーズが異なり、年齢に応じた接し方も必要だ。同NGOスタッフの赤坂美幸さん(45)は「支援を必要としない人には無理にしないことが重要」と話す。
詳しい内容はNGOのウェブサイト=「子どものためのPFA」で紹介されている。
なるほど!
グッときた
もやもや...
もっと
知りたい